レベル36 再始動 《バンダルス》
今日はクルスオード地域全域にわたって快晴の予報があったが、その予報通り今は雲一つない心地よい日となった。
4人は今日も周辺の平野でレベル上げ。まったく飽きないものだ、といっても飽きていないのはレイのみなのだが。
「また今日もこのモンスター・・・?」
「もうこれ何体目ですか・・・」
「私も飽きた~~!!」
さすがに3人も限界のようだ。
経験値が高くても毎日毎週毎月も同じ獲物を狩り続け、モチベーションを保つことは無理難題。
帝国の一件以降、狩場はずっと同じ場所。ここまでくると、魔物側もこちらを避け始めてくるのではないだろうか。
「仕方ないだろ、みんなまだこの魔物にまだ苦戦する場面あるんだから。」
帝国西方に位置するマールクレイティア平野にはあまり強い魔物は少ないが、その魔物の中に『アヴァロンガゼル』というものがある。この魔物だけはこの平野で群を抜いた強さを誇り、さらに経験値や特技発動性も高い。冒険者から喜ばれる絶好の魔物なのだ。
ただし数は少ない上に、倒すのも一苦労だ。
「苦戦するといっても最後らへんのほうじゃないですかぁ・・・しかも見つけるのも大変なんですよ?」
「ダメだ。それじゃあ強くなれない。」
「えぇ・・・」
そして今日もレベル上げは続くのだ。
あの後の帝国は順調に復興を進めている。
帝政については国王が自分の無力さと国民に行った数々の失態に責任を感じ、あの後すぐに国民集会を実施。そして謝罪と同時に国王退位を発表した。国王の座はフィオナ第一王女が継承、1000年以上の歴史を持つクルスオード帝国の中で初となる女王誕生だ。
さらにあの時の約束もあってか、皇后となった元王妃のエフィラ妃は国王退位の声明前に階級制度撤廃を発表した。今までは国に立ち入ることも出来なかった妖精族が、今では自由入城まで認められている。階級制度撤廃で懸念があったその後遺症についてだが、国民の性質もあり、今の所弊害は耳にしないそうだ。
税が課されることはあるが、今までの非道的な程の量ではなく、昔から定められてきた量となった。また不作の地域は譲歩する制度があらたに設けられたそうだ。まぁ不作かどうかは国側が判断するらしい。
そうこう話してる内に、4人がレベル上げから戻ってきたようだ。
「あ~終わりましたぁぁ~~~」
「幼女で体力ないからってうるさいぞロリガキ」
「何ですと~~~~!!!!???」
「アリナちゃんあんまり疲れていないでしょ?」
「・・・今日はいかないのか、シェリー?」
「ううん、もうすぐ行こうと思ってるよ。」
シェリーはあの日から欠かさず行っている場所がある。そこは今は亡き母が供養されているお墓だ。
シェリーの母・マイア=クラシアの供養墓はエフィラ皇后の誠意のもと、王国東方の王国庭園の墓地に建てられた。シェリーは毎日この墓にお参りをしているのだ。
「・・・もうすぐここを出るつもりだ。しばらく来れなくなるから、ちゃんとやっとけよ。」
「うん、分かった。」
「あ、シェリーちゃんついでに市場でこれ買ってきてくれる?」
そう言ってミオンは必要な食材や雑貨一覧を書いたメモ紙を渡し、その代金が入った小銭入れも渡した。
「この前みたいにこれでお菓子とか買っちゃだめだよ?分かった?」
「え、あ、うん・・・」
あからさまにしょんぼり顔。
さすが11才のしょんぼり顔、どうやらミオンに効果は抜群のようだ。
ミオンはヤレヤレ顔、そしてポケットから小銭を取り出す。
「・・・はい、これでお菓子を買いなさい。これは好きに使っていいから、ね?」
「えぇ、いいの!?」
そしてすぐに元気になった。ホントマジで現金なやつだなシェリーは(笑)
まぁ現金なやつはこっちにもいるんだが・・・
「・・・何こっち見てるんですか、何かついてましたか?」
「いいや、何でもない・・・(笑)」
「何で笑ってるんですかッ!!」
「え~と、なになに・・・?」
ミオンから渡されたメモには、今日の食材と必要なアイテムが書いてあった。食材を見るに、今日の夕ご飯はクリームシチューだろうか。
え?なんでって・・・だってここに『クリームシチューの素』って書いてあるんだもん。
「・・・げッ、にんじんあるのぉ・・・?」
メモ書きを見て、街の通りでため息一つ。まだ舌もお子様仕様。
まぁニンジンどころかジャガイモまで嫌がるアリナよりかはマシである。
夕方のここ帝国第3通りは、光が煌々と光る割には意外と静かで、雰囲気はまさにアンティーク調。
市場がある第5通りとは対照的なものだ。ここ第3通りも復興は順調のようだ。さすがクルスオード帝国、金はたくさん持っているのだろう。
ちなみに重税時代に徴収した過剰分は国民全員のためだけに使うと言い、国立図書館や国立浴場・周辺村の開発にあてられているそうだ。
「・・・よし、ついた。」
宿から10分と少しで、王国庭園に到着。
ここ王国庭園の墓地にはシェリーの母の墓だけでなく、この戦で不幸にも命を落としたもの、また以前に寿命などで逝ってしまった者を供養する墓もある。
ここの供養墓設立は、ものすごく費用が掛かるものなので、今回皇后が全額負担してくれたことは有難い。
シェリーは母・マイアの前で合掌、今日も冥福を捧げる。
「・・・よし、じゃあ次会う時はもっと強くなるからね。待ってて。」
一緒にお供えした青いバラは、今日も心地よく揺れている。
「・・・さて、次は御遣いだね。」
シェリーは第5通りの帝国市場に到着。
まずは食材集め。
「えっと・・・
書いてあるのはクリームシチューの素にジャガイモ、豚肉、ミルク、パン、そしてニンジン。
「・・・ニンジンは小さいのでいいや。」
次は道具屋でアイテム調達。
最近のレベル上げで多く使った回復道具の『シェリアスウォーター』、あとはダンジョンを瞬時に脱出できる魔道具・『エスケイプロープ』。
「・・・よし、これで良いかな。」
シェリーは全ての御遣いが終わり、宿に戻ろうと道具屋を出る。
「おい、聞いたか・・・?」
ふと奥の方の冒険者の会話が聞こえる。
「あぁ、あれだろ?あの ―――
「バッカ声がデカいッ・・・!!」
もう一人の慌てように、どうやら口外しては行けなさそうな案件のようだ。情報屋があまり行かない道具屋で話すということは、その可能性が高い。
シェリーはバレない場所に隠れ、二人の話を盗み聞き。
二人の冒険者はさらに声を小さくして話し始める。
「・・・あれだろ、西のバンダルスの塔に眠るお宝の話だろ・・・?」
バンダルスの塔は昔からお宝情報が離れず、多くの冒険者が夢見るダンジョンである。
しかし周辺にいる強敵な魔物に、塔についての不可思議な噂が絶えない状況。
そのせいでほとんどの冒険者が足を踏み入らない場所でもある。
「あぁ。実はな、その塔なんだが・・・」
「・・・ん、何かあったのか。」
「あぁ、塔に眠っているはずのお宝が、なぜか無かったらしい。」
「なにッ・・誰かその塔に入って調べたのか・・・!?」
「あぁ、あの森を抜けて塔に入ったはいいが、2階に行く階段が見当たらなかったらしい。」
「え、外からはあんなに高く見えるのにか?ってか下手したら遠いここからでも見えるぞおい。」
「あぁ、しかもその1階フロアは一切の障害がない、ただの広間だったらしいぜ。」
「マジか・・・それで『宝が無い』ってことか・・・」
「あぁ、だがあくまで噂だ。他の冒険者の気をそぐデマかもしれない。」
「・・・デマだろうがなかろうか、レベル不足の俺達には縁遠い話だな。」
・・・あまり役には立たなそうな情報だ。
しかしこの話で、シェリーはバンダルスの塔に興味を示す。
(バンダルスの塔、か・・・レイは知ってるのかなぁ・・・?)
(・・・とりあえず宿に戻ろ。)
シェリーは足早に宿へ戻っていった。
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シェリーが戻ったその後、道具屋2人の会話はまだまだ続いていた。
「まあ確かに縁遠い話だな。『入った日の次には死んじまう呪いの塔』なんて、宝があっても金を積まれても行く奴なんているのか?」
「・・・さっきまで聞き耳たててたエルフの子とかは行くんじゃねーか?」
無論、シェリーは呪いのことを知らない。