レベル3 侵入 《アーケノン》
二人は夜の細道を進んでいく。
視界は最悪な真夜中の森を二人は、特にレイの場合だが、慎重に進んでいく。
レイは右手に木刀を握りしめたまま、身体はガチガチの状態だ。
「あの~、ベルディアくん大丈夫?すごく怯えてるみたいだけど・・・」
「だ、ダイジョブダイジョブ!!ダイジョブよ!!」ガクガク
「あ、そう・・・」
(その割にわりと片言だったけどね)
――― すごく片言である。
「で、でもこの付近には魔物はいないみたいだよ?まだ魔物が出るエリアには入ってないし、固くなることないよ?」
「えッ?何でそんなことが・・・?」
「あぁ、私ね、転生する前に神さまっぽい人からチート能力いくつか貰っててね。それかな?」
「能力?めいさん能力持ってるんすか?」
「まぁね。」
芽衣が神さま?っぽい人から授かった能力は全てで四つだそうだ。
今芽衣が使った能力は、事物探知呪文の『アーケノン』である。
推定半径500m内のエリアを見通せる上級呪文の一つである。この呪文の大きな点は、エリア内の事物だけでなく、そのエリアに起こった過去1日前の出来事まで見ることが出来ることだ。
「へぇ~、凄いですね。そんな能力が使えるなんて。」
「ベルディアくんは何か使えないの?」
「うッ・・・それは・・・」
――― 無論、ない。
「・・・ふ~ん、何か分かっちゃったかも。あまり聞かない方が良かったかもね。」
「!?」ギクッ
(※ちなみに芽衣が今レイの心理を読み取ったのは、決して神さまから授かった能力の一つではないことを理解していただきたい。)
「僕は・・・まだ未熟者です。ランクは0だし、呪文も覚えてないし、弱いし・・・」
「でも、何で冒険に出てるの?ベルディアくんは多分近くの村から抜け出してきたんだよね?」
「はい、そうですけど・・・」
(・・・あれ、抜け出してきてることいったっけ?)
「・・・けど?」
「・・・けど、だからってずっと中に籠っててもだめかなって思ったんです。」
「なるほどね・・・いいんじゃない?」
「いい・・・ですかね・・・?」
「うん」
「少なくとも高校の最後らへんずっと引きこもってた私よりは全然いいよ。」ボソッ
「え?何て?」
「何でもないよ~。」
「・・・?」
暗い森を抜け、上に開けている場所に出てきた。二人は『森を抜けた・・・!?』と思ったらしいが、なんとここはバル・グラデ山の中腹にある洞窟の入口だ。
「ここ・・・で、いいのベルディアくん?」
「少し違いますがまぁいいでしょう。ここって聞いた話ですが、この付近で一番強いらしいです。ここなら鍛えがいあるんじゃないかって。」
「なるほどね、いいんじゃない?」
(・・・丁度私が向かう場所だったし)
二人は外より暗い洞窟の中を進んでいく。
「めいさん、この付近って魔物とか大丈夫ですか?」
「ん、ちょっと待ってね・・・『アーケノン』。」
芽衣の目に、半径500mのエリアが映された。
芽衣は何か考えているのか、呪文を唱えてから30秒ほど無言になったかと思えば・・・
「・・・う~ん、今は大丈夫かな?」
「ホントですか!?良かった~・・・」
「まぁ、魔物が来たら知らせてあげるわよ。」
「ありがとうございます!・・・ところで、何でめいさんってこの世界に来たんですか?」
レイの質問に、芽衣の動きはふと止まった。
「・・・」
レイがその質問をしてから、芽衣は何も話そうとはしない。
さらに雰囲気も何処と無く危険なものに変わっていくような気もする・・・
「?・・・めいさん?」
謎に包まれる少しの沈黙の後
「・・・まぁいきなり転生されてきた身だし、特別理由なんてないわよ?」
「ないんですか?でもそれじゃぁ ―――――
「ベルディアくん」
!!?
そして芽衣の声色と雰囲気が変わった。さらにその声は、温もりどころか冷徹さが強く感じられるものだった。
「あまりこの事は聞かない方がいいよ。・・・君自身のためにも、ね?」
そう言う芽衣の目は、先程までレイを映していた目とは全く異質なものだということは、視界が暗いこの空間でも分かるほどだ。
「す、すいません・・・めいさん。」
レイが小さな声で謝ると、芽衣は先程の声に変えて
「・・・!?あ、あぁッ!!ごめんねッ!深い意味はないから・・・」
「・・・分かってますよ、大丈夫です。」
二人は洞窟の中を進んでいく。
「結構歩きましたね・・・まぁ暗いのは変わりないけど。」
「そうね・・・。そろそろ何かあると思うけど・・・まぁ散歩みたいなもんだしね。」
「散歩って・・・そんな気軽に・・・」
「でも、ベルディアくんは洞窟内で行きたい場所なんてないでしょ?」
「まぁ、そりゃそうですけど・・・」
かれこれ洞窟侵入から小1時間がかかろうとしている時間だ。
しかし、レイは時間が経っていくうちに、とある疑問が頭をよぎる。
(それにしても、なぜ魔物が一匹も・・・というか、気配もない・・・)
レイはこの状況を疑っていた。
レイが村で聞く冒険話の大半はこの洞窟の中のことだが、そこでの会話で魔物は絶対に出てくる。
この前の酒場では・・・
~~~~
「いや~今日も疲れたねぇ。」
「あぁ、そうだなあんちゃん。というかあの洞窟入った瞬間から襲い掛かってきたからなぁ。」
「あぁ、あれな。ホント参っちゃうぜ。」
「あそこは不用意に近づくモンじゃねぇなこりゃ。」
「そうだな、明日は山の外にするか!外にも宝はあるしな!」
「「おうッ!!」」
~~~~
あの3人の冒険者の話を聞いて興味が湧いてきたレイにとって、この状況は不思議なのだ。ちなみに会話の中での『あの洞窟』というのは、村付近の洞窟はここ以外ない事実から、この聖山洞窟であることは分かっている。
(何が起こってるんだろ・・・)
「ついたよ」
ふとレイの思考に、芽衣の呼び声がよぎった。
「あ、なんかありました?って何もないですけど・・・」
レイはさらに疑問を抱いた。
芽衣がついたというそこは、ただの暗い洞窟の中の壁にすぎない、ただ殺風景な空間だ。
何でめいさんはここで止まったんだろう。
・・・
・・・あれ
――― 何で『ついたよ』って言ったんだ?
(ランク0でも察しだけは良いのね、この子は)
(でもね、)
(知りすぎもよくないのよ)
(・・・じゃあね、ベルディアくん)
そしてレイの前から、芽衣は静かに姿を消した。
突如当たりが深い闇に包まれる。
元々くらい場所だったが、それでもこの感じとは違ったものだった。
何かが、来る ―――