レベル23 蒼獣 《ゲリュオン》
♢ ♢ ♢ ♢ ♢
メルディン村に、マイア=クラシアという一人の女性がいた。
彼女の家庭は彼女とその娘、二人で暮らしていた。彼女の夫は病気で亡くなっている。
マイアは税徴収のために必死で衣類を生産していた。食べ物もろくに食べずに、このままでは徴収分に間に合わないとずっと衣服づくりに従事していた。マイアは衣服などを収める形で税を納めているのだ。
しかしマイアは前日に体調を崩し、予定分の衣服の枚数分作ることが出来なかった。
そして徴収の日。マイアは不足があるまま税を納めることになる。
徴収兵はすぐに不足分に気づく。
「おい、そこの女!お前の分はあと4枚だろ!早く出せッ!!」
徴収兵はマイアに規定分を納めろと主張する。
「すみません兵隊様。体調不良がありまして間に合いませんでした。不足分は次回の徴収でお納めしますので、今回はご容赦をお願いします。」
マイアは徴収兵の前で土下座までして、延滞を嘆願する。
しかし
「税を納めない行為は、我々帝国への反逆とみなす。体調不良など知ったことか!!」
無情な言い分を浴びせる。言い張る兵に、ついに村人たちも反対を始める。
「ふざけるな!!無茶苦茶すぎるだろ!!」
「そうだ!マイアさんが土下座までしてるのに反逆とか言ってんのか!!」
反発する村人たち。当然だ。
「・・・ほう、反発するのか。では教えてやろう。反逆するとどうなるかをな。」
その兵は背中の槍を手に持つと、目の前で土下座するマイアに振り下ろした!!
!!!!
「ッ!!??」
マイアの背中が、深紅で染まる。
「ッ!?なんてことをッ・・・!!」
マイアは痛がるそぶりも見せずに、ただずっと土下座をしていた。
「・・・どうだ分かったか。反逆者には死のみだ。今回は大目に見るが、次は死んでもらう。」
そういうと、徴収兵たちは税を持って帝国に帰っていった。
村人たちの前には流血するマイア。皆はマイアのもとに駆け寄る。
「マイアさんッ!?くそッ、あのやろうッ・・・!!!」
「誰か担架を!医者も呼んでくれ!!」
「しっかりしろマイアさん!!生きててくれ!!」
しかし、マイアが目覚めることはなかった。
♢ ♢ ♢ ♢ ♢
「・・・こんな出来事があってのう。それからは帝国の人間に抵抗しているのだ。」
「・・・そうか、それは悪いこと聞いちまったな。その人の娘さんは今どうしてるんだ?」
「あぁ、シェリーか。あの子はわしが預かっているよ。今は奥の部屋にいるようだ。」
「・・・でも、王女様には恩があるっていってたけど、それはどうしてなんだ?まさか他の所の王女様か?」
「あぁ、王女様か・・・王女様はあの徴収兵の行いを知ってこの村に出向いてくれたんじゃ。そして王女様二人で村人全員を集めて、その目の前で頭を下げて謝ったんじゃ。」
「!?」
「あぁ、あれには驚いたわい。まさか土下座をするとはのう。さらに王女様が掛け合って、今メルディン村は税を徴収しなくても良いようになっている。」
「フィオナ王女様とメイリア王女様には感謝しているのじゃよ。私達と平等に接してくださるしのう。」
「なるほど、だから恩返しとやら・・・」
レイは実際驚いていた、以前暗黒洞から救ったあの10歳の小さい少女が王女で、さらにこの村に出向き土下座をするほどの子であったことに。
(・・・)
「・・・どうした?何かあったのか?」
「・・・いや、何でもない。それより宿泊代を払おうと思ってな。」
「んんッ、宿泊代なら先程君が彼女らに渡したのではなかったかのう?」
「いや、これはただの思い込みだ。」
そう言ってレイは懐の30万ゴールドを取り出し、村長に差し出した。
「ッ!?これはッ・・・!?なぜじゃ?」
「・・・この村から奪った税だと思ったんだ。これは昼に王女救出の報酬として王から受け取ったものだしな。だから返そうと思っただけだ。」
「・・・」
「・・・あまり良いモノでもないよな。これはこの村の人達が必死ぶっこいて納めた物だ。でも俺にはいろんな意味でこんなに重いもの、持てる自信ないんだわ。貰ってくれないか?」
「・・・いいのかい?」
「あぁ、あと王女救出でギルドからもらったこの15万ゴールドも返すわ。」
「・・・ありがとうな、レイくんや。返してくれての。今日はゆっくりと休んでくれ。」
そしてレイは宿屋へ向かって行った。なんとこの時の時刻は夜11時半を回っていた。
「ん、ふわぁ・・・トイレ行きたいですぅ・・・。」
アリナはふと起きて、暗い宿の中をうつろのまま歩いていく。これが通常だったら、絶対に怖がっているはず。さすが深夜テンション。
アリナはトイレを済まし、部屋へと戻る。
すると、廊下の窓から
「ん?あれは・・・」
アリナはふと何かが目に入る。それは暗闇の中で静かに動く、誰かの人影のようだ。
「こんな時間に・・・しかも子供ですか?」
アリナは窓からその人影を観察する。
その人影は村の門まで来ると、周りを見回した後、誰もいないと確認して村を抜け出した。
「あれは村を出ていく気ですか・・・さすがに危ないですよね・・・?」
アリナは軽く準備をして、その人影の後をついていく。
決してバレないように、物音を立てず、息を殺してつけていく。
「・・・」
(どこまでいくのですか・・・?でもやっぱり暗い外は怖いですッ・・・!!)
人影が行くところは森の中と、ずいぶん暗くて危ない場所だ。アリナの恐怖はマックス状態に近い。
しかし、その人影はさらに奥まで進んでいく。
(ど、どこまでいくのですか~~~~~!?)
森も深くなってきたところで、ふと人影は止まった。
アリナも合わせて止まり、傍の木に身を隠して様子を伺う。
近くで見ると、どうやら少女のようだ。
少女は両手を合わせて、何か言っているようだ。
アリナは耳を澄まして聞いてみる。
(なんて言っているのでしょうか・・・?)
――― ねぇ、今日も来たよ。こっちに来てよ。
――― お願い。今日も会いたいな。
小さくか細い声だが、アリナには微かに聞こえる。
(一体だれと・・・?)
そして次の瞬間、少女の前に青い光が出現する!!
ピカッ!!!!
(えぇッ!?これって危ないやつですかッ!?)
そして青い光がある程度おさまり、アリナは眩しさに閉じた目を開くと・・・
(ッ!!??あれ、あれって・・・!?)
――― 今日も会えたね
――― ゲリュオン ―――
~~~~~
(あ、あれって本物ですか・・・!?)
ゲリュオン ―――
それは北方にそびえたつバル・デルト聖山を護る守護獣の名である。
赤を操るエヴィウスとは対照的に青を操るゲリュオンは、通称『蒼獣』と呼ばれる。
(何で守護獣と話せるのですか・・・!?)
その少女はゲリュオンの前で、何かを言っているようだ。
アリナは再び耳を澄まして聞いてみる。
すると
――― お願い。お母さんをもう一度ッ・・・!
――― お母さんに会わせて!!
(えッ、おかあさん・・・?)
その声は次第に大きくなり、さらに熱をも含んでくる。
「お願い!お願いゲリュオン!!私どうしてもお母さんに会いたいの!」
――― ・・・ ―――
ゲリュオンは少女を前に、ただ黙っているたけだ。
「ゲリュオン、とっても強いんでしょ!?だからお願いだよ!私まだお別れもしてないの!!」
「山菜を取りに行っただけなのに、帰ってきたらお母さんが死んだってッ・・・!!」
――― 済マナイ、シェリー マダ出来ヌ ―――
「ッ!・・・あとどれくらい待てばいいの・・・?」
――― ソレモ、分カラナイ・・・ ―――
「そっか・・・」
――― モウ少シ待ッテクレ 必ズ会ワセル ―――
「・・・うん、分かった。ごめんねゲリュオン、わがまま言っちゃって。」
――― 我ハシェリーノ守護獣ダ 我コソ申シ訳ナイ ―――
「ゲリュオン・・・!」
――― ・・・ソコニ身ヲ潜メル者ヨ、出テクルノダ ―――
「・・・えッ?誰かいるのッ!?」
(急に私の方に来ましたかッ!?ヤバいですヤバいです!!)
守護獣は本来の場合、ごく普通の者が侵入すると襲ってくるといわれている。アリナは自分が襲われるのではないかと危惧し始めたのだ!
――― 襲イナドセン 顔ヲ見セヨ ―――
(・・・!!仕方ありませんッ!!覚悟を決めますッ!!)
アリナは木から身を出すと、少女の所まで出てきた。
「はい・・・出てきました・・・。」
近くで見ると、守護獣というのはとても大きい。さらに今までの魔物にはなかった神々しいオーラがとても強く感じられる。これが“神獣”、神に近い存在と言われる所以だ。
「あなたは・・・?」
「わ、私はアリナ=メルドと言います・・・。宜しくです・・・。」
(信じられませんッ!私今少女と守護獣に自己紹介など・・・!!)
――― ・・・ ―――
ゲリュオンはアリナを見るなりそっとアリナに近づき、そしてまたアリナをじっと見つめている。
「あ、あの・・・何か・・・?」
「どうしたのゲリュオン・・・?なにかあるの・・・?」
そして重々しい口が開く。
――― ソナタカラエヴィウスノ香リガ・・・ ―――
「え、エヴィウス?」
「エヴィウスってまさかバル・グラデの守護獣ですか!?知りませんよ私!?」
――― ソナタデハナイ誰カガ、エヴィウスノ加護ヲ・・・ ―――
エヴィウスはさらにアリナと距離を詰めてアリナを伺う。
「・・・!!」ドキドキ!!
先程まで耐えてきたが、アリナは驚きすぎてもう限界のようだ。心臓の鼓動が先程より早くなっていくのが自分でもわかっている。
そんなアリナに、ゲリュオンは再び口を開く。
――― ソノ者ニ会ワセテホシイ ソナタノ近クニイルハズダ ―――
「えッ?私の近くにッ!?」ビクッ
アリナはその場で振り返ったりなどして、自分の周囲に人がいるかを確かめる。
「違うよ。多分アリナさんのお仲間さんとかじゃない?」
少女に突っ込まれる。
「えッ?あ、あぁ!!そ、そうだよね~!?///」
――― 私ハ明日モココデ待ツ 頼ンダゾ ―――
そう言葉を残すと、ゲリュオンは青い光と共に消えて行った。
次回投稿日;4月21日