レベル10 試練 《ペーディオ》
レイ達は今、南方へ延びるサウスデルトロードの上を進んでいる所だ。
二人が目指す神代の祠はサウスデルトロードの道中付近にあるので、近くまでこの道を使うルートを選択した。というかこのルートが圧倒的に近い。さらに他の冒険者は全員このルートらしい。
この説明いらなかったかも。
「なぁ、今回のクエストだけどさ、」
「なに?」
「何で他の冒険者はやろうとしなかったんだろうな。」
「推奨ランクが高かったからじゃない?」
「そうだとしたらランク20以上のやつは関係なくなるだろ?イーストデルトのギルドに20以上がいない訳なくないか?見た限り結構20越えいたぞ。」
「それもそうだね~。でもこのクエストってさ、つい昨日発生した緊急クエストなんだって。」
「へぇ~」
「だから報酬目当ての人は昨日から一足先に向かってるんだって。もしかしたらもう終わってたり?」
「それはない。だったら今朝の掲示板にこの内容は載ってないはずだ。」
「あ、確かに。でもレイくん、今までと同じ剣で大丈夫なの?その背中の剣打ってもらえばよかったのに。」
「ん?・・あぁ、これでいい。というか多分打っても変わらないと思うし。」
神代の祠は、今からかなり昔にイーストデルトの国王が国の安泰を願ってから、イーストデルトの祭事によく使われる場所になった。
それは今の代まで続いており、今ではイーストデルトに無くてはならないものとまでなった。
毎年一回は国王自らその場に出向き、祠の内部の『神代の燭台』に祈りをささげる儀式がある。通年なら昨日のはずだったのだが、儀式の途中で何者かが魔物を燭台に召喚したのだ。
現場は大混乱に陥り、ギルドに急遽討伐を依頼したという。
「ここらへんみたいだな。右に多くの足跡がある。」
その足跡は、幅は広がったり狭まったり、しかしまっすぐ祠のほうへ続いていた。
「ねぇ、祠の方に、何かたくさん転がってるよ?」
しかも、その足跡の道のわきには
「えぇ、どれ・・・ってあれはッ!?」
無数の冒険者の死骸が、無惨な姿で散らばっていたのだ。
「こ、これだけの冒険者が・・・たった一日でやられてるッ・・・!??」
ざっと数えただけでも50人は超えている.
しかも結構強そうな冒険者ばかりだ・・・
「そんなッ・・・!!この人達ってランク20付近の人なんでしょ・・・!?」
すると、奥の祠から突然何かが飛来する。
ビュンッ!!!
「危ないッ!!」
「きゃッ!!」
二人はすぐにそれを避ける。
ザザァァァァ~~・・・・
飛来物はどうやら後方で失速したようだ。
「なんだ今のは・・・!?」
二人は振り返って飛来物を見ると・・・
「「ぼ、冒険者ッ!??」」
なんと飛ばされたのは、つい今まで戦っていた獣人の冒険者だったのだ。
飛ばされた冒険者は微かに口を動かすと、それっきり動かなくなってしまった。
言うまでもなく祠の魔物の仕業だ。
「ここまで飛ばすのかよッ・・・!??」
――― 待ってたぜ レイ=ベルディア ―――
突然祠から声が聞こえた。
その声は邪気を孕んでいて、声の主が魔物だということは瞬時に分かった。
しかしレイはなぜ自分の名が呼ばれたのか、それが不思議で不思議でしょうがない。
その不思議な出来事は、レイの身体を震えさせる。
「う、ウソだろ・・・!?なんで・・・!?」
なぜこんな駆け出しの冒険者の名前を・・・!?
――― 早く来いよぉ・・・待ちくたびれたぜ・・・ ―――
声の主はレイを呼んでいる。
「ッ・・・!!」
レイの身体はさらに震え出す。
今までの敵とはケタが違う相手が、自分を来いよと呼んでいる ―――
レイの脳裏から、自分がこの場に倒れ伏す姿をよぎらせるほどの恐怖が抜け出してくれない。
レイの身体の震えが中々止まってくれない。
「・・・!!」
すると、ミオンが
「レイくん!行こうッ!!何のために来たの!?」
震えるレイに、後ろにいたミオンが喝を入れる。
しかしミオンの声は、心なしか震えている、当たり前だ。ここまで危険信号が強くなる相手は、ミオンも初めてだ。
「みお姉・・・」
しかしミオンは、レイを必死で掻き立てる、なぜならミオンは戦えない。
レイにもう託しているから。
「もうここまで来て、敵に居場所が知られている!だったらもう戦うしかないよ!!逃げられないなら戦うしかないよ!!」
「・・・!!」
「強くなるんでしょ!?」
――― おぉ、良いこというじゃねえか ―――
「・・・」
「レイくん・・・?」
「・・・フゥゥ」
一つ深呼吸。レイはようやく心を落ち着けたようだ。
眼球が座っている。
「ッ!!・・・よし、行こう・・・!」
レイはゆっくりと、しかし相当の覚悟を持って、一歩ずつ祠へと向かっていく。
沸き立つ震えを抑えて、ゆっくりと進んでいく。ミオンもそれについていく。
――― いいねぇ、その眼 ―――
祠から魔物の声がする。
しかし奥から聞こえる声など、レイは気にしない。ただ祠へと進んでいく。
そして
二人はついに、声の主と対面する。
紫の大きな両翼、そして魔を象徴する鬼面、人を一瞬で飲み込むほどの巨体、その姿はまさに『魔獣』そのもの
意思を持ったキマイラ その怪物の名
――― 『黒獣』 ペーディオ
~~~~~~
『待ってたぜレイ=ベルディア、早速始めようか。』
「・・・ッ」
レイは腰の剣を抜いて、ペーディオの前に構える。
「みお姉、サポート頼むわ。」
ミオンも背中の杖を手に持ち替えて、ペーディオの前に構えて準備はオーケー。
「うん、まかせてレイくん。」
「・・・よしッ」
次の瞬間、レイはペーディオの懐に向かって走り出した。
「おおおおお!!!!」
ミオンはいきなり補助呪文。ミオンの杖先が光り出す。
「 『キルディ』ィ! 」
杖先から炎のスペルが召喚され、走りゆくレイの身体に溶け込むと瞬時にレイの攻撃力を一時的に上げた。補強呪文『キルディ』である。
レイはペーディオの前まで来ると、持つ剣で思いっきり振りかぶった。
「ああああ!!!」
ギィィン!!!
ペーディオは手先の鋭い爪で斬撃を受け流す。
『ハッ、こんなモノかよ。よえ~なお前?』
「ッ・・!!」
ペーディオは態勢が一瞬崩れたレイを、鞭のようにしならせた腕で引っぱたいた。
『ふんッ』
!!!!!!!!
「ナッ!!??」ボゴッ!!
レイは地面に叩きつけられる。
!!!!!!!
「レイくんッ!!」
身体を起こすレイにミオンはすかさず呪文を唱える。
「 『シェリエ』ッ!! 」
叫ぶと同時に杖から青色の光の粒が放たれ、レイの傷口を埋め隠していく。
レイの体力を回復させた。
しかし
『回復したからなんだッ!!!くらえッ!!』
ペーディオは今度は自分の足で、今度はレイの身体を蹴り上げたのだ。
!!!!
「ウグッ!!???」
レイはそのまま祠の天井にぶち当たる。
「アハッ・・・!!」
天井にめり込んだ後、重力のままに真下の地面へ落下。
最初からペーディオの一方的な攻撃が続いている。
「~~~!!!」ハァハァ
レイは天井から落ちたまま中々起き上がれない。
「 『シェリエ』ッ!! 」
ミオンは再び『シェリエ』を唱える。イの傷を癒し、体力をある程度回復させる。
だが、
『ムダだぁ!!!』
ペーディオの攻撃は止まずに続く。
地面で大きく態勢を崩しているレイを再び天井へ蹴り上げる。
「 『プロイ』ッ!! 」
瞬時に優しい色の光がレイの身体を包み、レイの周りに光の膜を形成。
レイの防御力が一時的にアップした、
しかし
『ムダムダムダァァァ!!!!』
ペーディオの一蹴が、炸裂する。
!!!!????
「うッ・・・!!!」
レイはペーディオの蹴りで天井まで蹴り上げられ、ついには天井を突き破った。
レイは上空へ飛ばされてしまう。
「そんなッ!!『プロイ』が効いてないッ!??」
『当たり前だ。駆け出しのプリーストの補強呪文なんて効かねーよ。』
今までの敵とは格が違い過ぎる。まるで歯が立たない。
『さぁて、今度はお前だ。楽に逝かせてやるよ。』
「ッ!!??」
ペーディオは次にミオンに矛先を向け、そのしなる大腕をミオンに振り下ろす。
「きゃああ!!!!」
『ともに死んじまいなッ!!!』
その時
『ん? ―――
ミオンを襲うペーディオの真上から、突如斬撃が降りかかる。
ギィィンッ!!!
『なッ!?』
「えッ!?」
急な襲撃に、ペーディオは一歩引いて態勢を立て直す。さすがのペーディオも咄嗟の襲撃に少しとまどっているようだ。
ペーディオは斬撃の正体を見極める。
『!!・・・フンッ、まだ生きてたのか、レイ=ベルディア。』
斬撃の正体は、レイの斬撃
「・・・あんなので死ぬわけねーだろボケッ・・・まぁ見せてやるよ・・・」
『あぁッ!!?何見せてくれんだザコがッ!!??』
レイは一呼吸の後、全身に力を溜め始めた。
「フンッ!!」
レイの身体が震え始める・・・
それと同時にレイの手が、足が、段々と大きくなり、強固なうろこが現れ、背中には大きな竜翼がその姿を現す。
竜人族のレイは、今までの人間体から龍人体に変身。
「れ、レイくん・・・」
龍人体は大きなエネルギーを消費するため、あまり長くは使えない。しかし龍人体は人間体の時のステータスを大幅に増幅させる、諸刃の剣だ。
『・・・ほう、』
「何もう賢者モード入ってんだッバカ・・・レベル上げはこっからだろーが・・・」
『ハッ、来いよザコがッ・・・!!!』
ペーディオ戦セカンドラウンド、開幕 ―――
次回投稿日;4月3日