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とある青年のレベル上げ ~グラド・サーガ~  作者: あいうえおさん
第8章 混沌が漂うこの国で 《ラスト・サーヴァント》
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レベル99 欠落《クーフーリン》

自分自身で肩書きまで名乗るのは珍しいが、確か“獣神”と名乗っていた。

獣の神なる人物が本当にその肩書き通りならば、まさに不意打ちレベルのボス戦を強いられたわけだ。


しかし、戦いを挑んできたわりにはその場から一歩も動かない。

・・・まるでこちら側が動き出すのを待っているみたいだ。先制攻撃をしてこずに出方を見てくるタイプの敵は今までも経験してきたが、今回はそれとも少し違う。


お互いただ見つめ合う時間だけがそのまま過ぎていく・・・




「・・・な、なあ」


あまりにも長かった。レイは沈黙がそこまで得意でない。


「『あなたたちを試させて頂きます。』と言ったわりには、ぜんぜん攻撃してこないんだな。」


目の前の相手は、別に武器も持っていないが身構えもせず、ただその場に立っているだけ。


「何も間違ったことは言っていないつもりです。文字通り、『あなたたちを試す』予定です。」


「・・・?」


おそらく力試しの意味で言っているのだろうが、こういう時は敵との殴り合いが相場と決まっている。(のか?)


「・・レイさん。もしかしてですが、こちらからの攻撃を受け止めるために動いていないんじゃないでしょうか?」


アリナはその後も続けて、


「力試しというのは、私たちの攻撃がどれくらい強いのかを身をもって体感する・・・みたいな、まるで肉壁所業のような力試し方法だってあるはずです。もしかして今回は、そのパターンじゃないですか?」


アリナはレイにこう告げた。

しかしその時の音量は結構大きかったようで、どうやらあちらさんにも聞こえていたようだ。


「そこの賢者さん、ありがとうございます。その通りです。試すというのは文字通り力試しですが、私があなた方の攻撃を受け止める形の力試しをしたいのです。」



その後の説明では、要約するとこんな感じだ。

守護獣の選んだ2人の騎士の力量を試したい、それだけが目的なので、別にこちら側にダメージを与えることはしないとのことだ。

そのため、その説明の後にレイとシェリーを名指ししてきたのも納得だ。


「それでは、お二人の1番得意な技を仕掛けてきてください。・・・ああ大丈夫、避けたりなんてしないです。」


と言われてしまったので、レイとシェリーは武器を構え、



竜閃炎(イグナイトソウル)!!」

輝空閃(シェロスパーダ)!!」




炎の軌跡と光の矢は、そのまま一直線にヴェルディナートへ。

そして「避けない」の宣言通り、2者は獣神を確かに貫いた。





!!!!!!!!!!!!





・・確かに命中する音がしたはずだ。しかし、



「うーん・・・レイさんもシェリーさんも、あまり攻撃に重みがないですね・・・致命傷レベルは難しいかな・・・」


と、辛口評価までされてしまった。

今までの敵は、攻撃をモロに受けた場合は何かしらのダメージを与えていたが、ヴェルディナートに対しては攻撃のあとすらついていない。

“獣神“の肩書きは、どうやら本物らしい。

しかし続けて、


「しかし獣騎士の素質はいい感じに浸透しているみたいですね。レイさんの攻撃からは紅のオーラを、シェリーさんの矢からは青のオーラを感じました。」


「守護獣が騎士なるものに精神的に馴染み始めると、騎士側には守護獣のオーラが滲み出てくるようになるのです。そしてそれは向こう側も同じで、騎士の性格や思考が彼らに少しずつ受け入れられ、時にはそれを自身に取り込むようにまでなるんです。」


「あなたたちの攻撃にオーラが滲み出てくるとだいぶ慣れてきている、そしてそれはおそらく彼らも同じ。どうやらあの2匹は、あなたたちにだいぶ懐いているみたいですね。」


と、1人で解説し始めてしまった。

まるで自分が飼い主かのようにさらさらと語っているが、その中で少し気になったのは、


「待ってくれ。シェリーはともかく、俺は懐かれていない気がするんだよな・・・。俺はシェリーほど守護獣と共にいた時間が長くなければ、そんなに会話もしていない。懐くような要素はゼロに等しいと思っているんだが・・・」


「別に共にいる時間が長ければ長いほど懐いていく・・・そんな単純な話でもないんですよ。なぜなら、守護獣とはいえ本質は獣の類。そのため、もちろん守護獣にも性格というものが備わっているんです。」



その後、ヴェルディナートはこう語っていた。


まずはシェリー側。ゲリュオンは3匹の中でも割とおてんばで、感情に富んでいる方という。

シェリーはよくゲリュオンが時々姿を表す森に、山菜取りをしながらよく遊びに来ていた。そんなシェリーを、最初は「ただのエルフ」と認識していただけだったが、シェリーがゲリュオンを見つけ、そして少しずつ会話を交え、時には共に山菜を取りに行ったり普通に遊び回ったり・・・気づけばゲリュオンはシェリーに懐いていった。

最初の遭遇時、シェリーがゲリュオンに対し守護獣だからと警戒しなかったのは、単に守護獣であることに気づいてなかったからである。

このような形で、実は意外と人間味のある主従関係だったりするのだ。いや、主従というよりは友達感覚の方が近しいかもしれない。


次にレイ側。エヴィウスは3匹の中でも気まぐれ、かつ1人を時間を好むタイプ。

レイと出会った最初のきっかけは、転生直後の芽衣とバル・グラデ山の洞窟に入った時だ。

最初は異世界からの刺客だった芽衣からレイを守るために動いただけだったが、何を思ったのかレイを見るなり、そのまま静かにレイの行動を見守り始めたのだ。

ランク0の冒険者が、自分を消そうとしている相手を引き連れて、誰も近づかない自身の巣窟に足を運んできたことに驚き、その過程でレイそのものの性格と行動に興味を持ち始めたのだろう。

気づけば『プレ=ヴィローゼ』という固有スキルまで付与し、レイが冒険者として成長していく過程を遠くから見守っていくうちに、それが徐々に懐いていくきっかけとなった。



「私があなたたちの力試しを提案したのも、彼らがあなたたちにどれだけ心を許しているかを見たかったからなのです。言葉だけではわからない部分もあるので、その者の攻撃からオーラを感じ取る方法が最も手っ取り早いのです。」



ヴェルディナートの結構詳細な解説に、意外と自分に懐いていたと気づいたレイはどことなく嬉しそうな表情を浮かべていたのだが、解説を終えた後のヴェルディナートの表情が、先ほどの柔らかい感じから少し変わった。



「・・・さて、ところでレイさんはなぜ『神木の源』を求めていたのでしょうか?このアイテムはいわば蘇生目的で使用するものです。正しくは、戦闘中に瀕死状態になった仲間に対し、瀕死状態になってまもない間に使用すると蘇生できる、そんな代物ですが。見たところでは、瀕死状態の仲間がいるようには見えないですが・・・」


「ああ、そういえば目的を話していなかったな。実は俺たち、ラドウィンに行きたいんだ。だが道中の湿原で即死魔法を使用する上級魔物がいてな・・・その対策としてコイツを使いたかったんだ。」


現在、パーティーメンバは各々1つ所持している。無論自身に使用するものではなく、戦闘中に即死魔法を受けてしまった者に対して使うものだ。


「なるほど、ということはラドウィンへと向かわれるのですね。それなら丁度よかった。」


「ん、何かラドウィンでしてほしいことがあったりするのか?」


「はい。実は少し調べてほしいことがあるのです。ラドウィン王国そのものというよりは、ラドウィン王国領に位置するバル・イデオ山麓のとある集落なのですが・・・」


「その集落って、もしかして“ヴィンデクト”って名前だったりとか・・・」


「そうです。・・・ということは、おおよそ把握されている感じですね。・・・まあもったぶらずに説明すると、実はあの村に翠騎士がいる可能性が見えてきました。その者をここへ連れてきてほしいのです。」


ヴェルディナートご所望の相手は、記事に書かれていたあのエンデ青年ではなく、何回か顔を見たことがあるフィルだったようだ。

今頃フィルとソリュー、あんなところまで行っているのか・・・


「翠騎士か・・・なんだ、俺たちも何回か会ったことある顔馴染みのやつだ。もうそんなところまでいっていたのか・・・」


「あれ、顔馴染みの方なのですか?そもそもその方が翠騎士になりうる存在なのかも気になる・・・といえば気になるのですが。」


「え、素質?素質どころか、もう翠騎士になっている姿を見たことだってあるぜ?」


レイの言葉を聞いてさらに疑問を浮かべるヴェルディナート。

まさかヴェルディナートは、翠騎士フィル=ガイゼルを知らないのか。


「・・・レイさんが言うその翠騎士とは、レイさんやシェリーさんと同等の主従関係まで浸透させた翠騎士をイメージされているように見えました。」


「あ、ああ・・・合っているぞ。」


「・・・」


「・・・もしかして、翠騎士フィル=ガイゼルを知らないのか?」


かつてのフェージョ=サタナ戦でフィルが言っていたことだが、翠騎士→紅騎士→青騎士の順に誕生した、という内容を聞いていた。

レイはともかくシェリーは1番若い騎士だが、その存在もヴェルディナートは知っていた。ならば最年長のフィルも当然知っていると思っていた。

しかし実は、フィルが1番若い騎士なのだろうか?しかしその割に、フェージョ=サタナ戦では慣れた戦い方をしているように見えていた。

しかし、



「フィル=ガイゼル・・・?それはどなたでしょうか?翠騎士はここ200年ほど不在という状態ですが・・・」







♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢


「フィル=ガイゼル・・・?それはどなたでしょうか?翠騎士はここ200年ほど不在という状態ですが・・・」



かなり驚いた。

なんとヴェルディナート、フィル=ガイゼルを知らなかったのだ。それどころか翠騎士は今しばらく、この世に存在していないとまで言っていた。


しかしレイたちにとって、今の発言はだいぶ矛盾しているように聞こえる。

実際フィルが守護獣リモラを連れている場面を見たこともあれば、3獣騎士が揃った段階で発動するスキルも、実際に発動しているところを見ていた。

そのほかにも思い当たる節はそれなりにあり、その経緯をまとめて詳細に話した。

しかしそれに対しヴェルディナートは、


「3獣騎士集結によって発動するスキルは、何も騎士本人が集まったことで起こるわけではなく、三聖器が集うと、それを装備している者に対して発動されるものです。つまり、三聖器さえ持っていれば発動するスキルです。」


これは3獣騎士集結方スキルに対する見解だ。続けて、


「ただ、なぜリモラがその者に鉾を授けたのか・・・獣騎士になりうる存在だということでしょうか。」


三聖器が3つ揃えばスキルが発動すると言ったが、進化していない三聖器を3つ揃えても発動しない。

レイが最初の冒険で手にした竜絶の剣、シェリーが最初に持っていた光絶の弓、鉾も同様だ。あれらを3つ揃えても発動しない。

1段階以上進化した状態の聖器が揃うことが条件だ。

さらに聖器が進化する条件として、進化する際に獣騎士の資質がある者が手にしており、守護獣とスキルを通じて共鳴することだ。

しかしもしフィルが翠騎士でなかったとしたら、手にしていた天颯の鉾はどのように進化させたのか。


ヴェルディナートは次にこう告げる。


「そのフィルという者は単独行動ですか?それとも誰かを引き連れて行動をしていますか?私はそのフィルなる者を探してみようと思います。」


「今はおそらく2人行動をしているはずだ。うち一人はソリューっていう俺の旧友。」


「わかりました。2人で行動している者をターゲットに、鉾を持ち合わせているパーティを片っ端から探していくのは骨が折れますが・・・まあ致し方なしです。」


獣の神、という肩書きを持っているから、そのような作業も簡単にできると思っていたが・・・

やはりできないこともあるみたいだ。



「俺たちはラドウィンへ行く。確かヴィンデクト村にいる翠騎士の素質を探すって仕事だったな。神木の源ももらったし、これでなんとか湿原を乗り越えられる。」


「はい。お願いします。」




その言葉をレイたちへ告げると、ヴェルディナートは残像だけを残して姿を消した。



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