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とある青年のレベル上げ ~グラド・サーガ~  作者: あいうえおさん
第8章 混沌が漂うこの国で 《ラスト・サーヴァント》
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レベル98 番人 《ヴェルディナート》


一味のダンジョン探索はまだまだ終わらない。

現在いるのはおそらくダンジョンの深層辺りだろう、入口付近と比べてかなり暗い。しかし決して前が見えない程でもなく、前を歩く分にはさほど問題ない。

一応レイは、前がほとんど見えなくなったら引き返そうと決めている。

竜人族は他の種族に比べて視力が長けており、特に視界の良し悪しが明暗によって左右されることは少ない。


だがそれとは別に、この場の雰囲気は不穏一色。魔物どころか何の音も聞こえない。


「も、もう帰りませんかぁ・・・?」


「もうちょっと進んでみようぜ・・・これで引き返したらいよいよココへ来た収穫ゼロだ。」


「で、でもぉ・・・」


「我慢しろ。もうすぐで終わる。」



それからまた少しの時間が過ぎた頃、一味はようやく何かを見つけたようだ。

それはおそらくダンジョンの最奥部、一本の地下道の終点にあたる所で。


「おいおいこれ宝箱じゃねぇか?」


「ひょっとしてこの中に入っているのかなぁ・・・でもこの箱なんかちょっと大きいね。」


神木の源を水差しのようなものと予想していたミオン。


「・・・開けないのですか?」


「もしかしたら宝箱トラップかもしれないだろ。こんなあからさまに置かれちゃあな。」


トラップというのは、宝箱に擬態した魔物の事を指す。冒険者を騙して捕食するという恐ろしい魔物で、厄介なのは開けるまで魔物の気配が感じられないことだ。

レイは『ルート』スキルを使い、目の前の宝箱が魔物か宝か判別を行う。



「・・・兜、か?」



魔物でないことを確認し、レイはその宝箱を開けてみる。中から出てきたのは、どこか神聖な雰囲気を纏ったようなとある兜が一つ。

さらに手に取ってみると、取った場所から光が溢れ出していく。


「変わった兜だな。でもちょっと装備は無理っぽいか・・・」


「レイさん、その兜はどんな兜なんですか?」


「名前ってことか?それは知らん、俺も初めて見た。」


レイは兜をアリナに手渡す。受け取ったアリナも試しに装備を試みるが、兜がアリナの頭部に収まるのを拒否する。

他のメンバーも試みるものの、メイリアを含めた全員がこの兜を装備出来ないようだ。


「さて、この兜どうすっかな・・・」


誰も装備出来ないものを持ち続けることはただ荷が重くなるだけで、正直持つ意味がない。武器屋に売るとしても、これではおそらく値が張らないだろう。

なぜなら誰にも装備出来そうにないからだ。


「・・・ちなみにその兜、ステータスパネルで調べてみたら?まぁそれでも手放すのは変わらないけど。」


「ま、一応名前だけでも調べてみるか。」


今度はその兜を正面に置き、ステータスパネルを開いて簡単な情報を収集。ステータスパネルのとある項目を選択すると、調べたい対象のおおまかな情報を知ることが出来る。


「えーっと・・・『伝説の兜』だってよ。まぁ確かに伝説っぽいカタチしてるけど。」


「『伝説の兜』・・・ですか?」


「名前はそうだ。」


「・・・その『伝説の兜』って、二つ存在するんですかね?」


「は、はぁ?・・・まぁ『伝説』って名前付いてるし、一つしか無いんじゃねーの?知らんけど。」


返答を聞いたアリナの表情を見るに、アリナは何かに引っかかっているようだ。


「・・・どうしたお前?なんかあるのか?」


「いや、私もちょっとおかしいって思ってるかも。」


と言ったのはミオン。そして二人はその兜をより凝視し始める。

そして少しの凝視タイムの後、ミオンが口を開く。


「ねぇレイくん、私達がイーストデルトを出発する前日の夕刊新聞を思い出してみて。」


「それって大湿原に行く前か?」


「うん。」


夕刊の新聞というのは、あの日ミオンがレイに見せたとある記事のことを指している。

・・・しかしあまり思い出せなかったので、それを悟ったミオンはその記事自体をレイに見せる。どうやらその記事を持ってきていたようだ。



~~~~~

伝説の勇者がラドウィン郊外のヴィンデクト村にいることが分かった。名はエンデ=マエストル、16歳の青年である。

この村に古くから伝わる伝説の兜を装備できる者が現れ、伝説の勇者の呼び声が高まっている。

~~~~~


「ここはクルスオード帝国の領地。それについ一昨日に装備出来たその兜が、なんでここにあるのかなって思ったの。」


伝説の兜がこの世界に二つあるのだとしたら、今の現象も理解できる。しかし一つしかないのなら、色々不可解な点が浮かび上がってくる。

つい一昨日までラドウィン郊外の一村にあった兜が、今はこの聖域洞窟の最深部の宝箱に。

昨日誰かがこの場に立ち入ったのなら話は別だが、


「ううん、昨日この聖域の門を開けたのは一人もいないよ。まぁ開けるのは私とお姉ちゃんだけだし、昨日は一日中一緒だったから。」


と言っている。つまり昨日において、外部からこの場に侵入出来る手段はなかったわけだ。


「何かおかしいね。一応持っておいたら?」


「そうだな・・・どこかでその勇者とやらと遭遇するかもだし。」




一味はその兜以外には何もないことを確認すると、来た道を戻りながら地上を目指す。

結局お目当てだった『神木の源』も見つける事敵わず、伝説の兜獲得を考えてもかなりのタイムロス。

また地上部でもう一度探索でも・・・そう思っていた。


しかし、登り階段の途中にて、



「シッ・・・みんな止まれ」


と、先頭を行くレイが何かを見つけたようだ。後ろをつくメンバーにそれを知らせる。


「何かいるの?」

「あぁそのようだ、しかもあの大門の近くにいやがる。」

「攻撃とかしてきそうですか?」

「あまり戦闘意識はなさそうだけど警戒しとけ。」


一味はあまり音をたてぬように、階段を上がっていく。しかし段々と登っていくうちに、レイが言っていたその何かが他のメンバーにも見え始める。


「・・・あれは獣人(ビスタ)の人でしょうか?」

「なんで部外者が他にいる?俺達全員が入った時、メイリアは門を閉めてたろ。」


そしてまた登っていくと、その存在はどうやらレイたちを待っているようだ。


「・・・マジか、入口で仁王立ちしてやがる。」


こうなればもう忍び足など意味がない。ならば早めにこの階段を登り切った方がよさそうだ。




そして六人全員が入口まで戻ってくると、その獣人が明らかに。



「どうもこんにちは。この場への来訪者は久しぶりなものなので、ちょっと驚きました。」





♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢


姿を現したのは、アリナが言っていた通りで獣人族の冒険者のようだ。しかしどこからとなく神聖なオーラを放っているような気もしなくもない、ただの冒険者ではなさそうだ。


「そんなに身構えなくてもいいですよ。私は別に悪いものではありませんので。」


「・・・俺達に何か用か?ひょっとしてこの兜とか・・・」


「そうですね。その兜も確かにそうなのですが、それ以上に用があるのはあなたたちです。」


「・・・この聖域に入っちゃいけなかったってヤツか?」


「いえいえ、別にあなたたちの侵入が障ったわけではありません。あなたたちはとある目的のために来たのでしょう?」


と言いながら差し出したのは、レイたちが探し求めていた『神木の源』のまさにそれ。


「なんでコレを探しているって分かったんだ。まさかあの時裏から見てたとか・・・」


「まぁ裏からコソコソではありませんが、見ていたことに変わりありません。」


どうやら話を聞くに、この場はこの獣人のテリトリーだろうか。

・・・そして先程から、その獣人はレイたちに『神木の源』を差し出したままだ。


「・・・まさかそれを譲ってくれるのか?」


「だってこれらを探していたのでしょう?」


「何か見返りとかは?」


「それはありません。」


「ますます怪しいな。ここはあんたの根城なんだろ?俺達はあんたにとって侵入者だぜ?」


「あなたは帝国から許可が下りたのでしょう?侵入者とは思いませんよ。」


かなり裏がありそうな展開だが、差し出すのならということでそれらを受け取ることにした。

レイは5人分の『神木の源』を獲得した。


「・・・しかし、あなたたちからは何か強者のオーラを感じます。特にあなたからは。」


「・・・それはどうも。」


その獣人は『神木の源』を渡した後も、レイたちの前から離れない。しかし別に襲ってくるわけでもない、ただレイたちを見ているだけだ。特にレイは、見る時間が一番長かった。


「・・・俺の顔に何かついてるのか?できればこの聖域から出たいんだが・・・」


「・・・申し訳ありませんが、もう少しの間だけお待ちを。」


本当はそれも拒否して早々に出ていきたいものだが、アイテムを譲ってくれたこともあってどうにも断れない。

・・・にしても見る時間が長い。


「な、なぁ・・・もしかしてまだ俺達に用事があるんじゃ・・・」


後半からはレイと・・・おそらくシェリーを交互に見つめているようだ。

この二人を見続けるということは・・・


「・・・あなたたちは、あの守護獣たちに認められた方たちですね?」


獣騎士がらみだと予想がつく。しかし、


「なぜ分かった?もしかして装備してるこの武器か?」


「いえ、私はオーラを見て判断しました。あなたは紅のオーラ、そしてそこのあなたは蒼のオーラを。」


相手から出るオーラだけでなく、なんとその色の概念まで見える。どうやら本当に只者ではないようだ。


「・・・あんた、一体誰だ。」


ここまで言い当てたとなると、いわれるこちらがわとしてはかなり不気味である。

そして次には、こんなことを言うのだ。



「申し遅れました。私はヴェルディナート、この世界では“獣神”と呼ばれています。」



獣神というのはその名の通り“獣の神”、獣たちが崇める存在そのもの。

獣たちの生みの親でもあり、獣神が滅されると獣たちもまた同じ道をたどると言われている。

ちなみに獣神を崇めるのは獣人ではない、“獣”たちである。

つまり、



「あなたたちを援護する守護獣の創造主・・・と言えば分かりやすいでしょうか?」



守護獣の創造主がなぜこんな場所に。



「私はこの世界の平穏を願い、彼らをこの世界に創造しました。」



「彼らのチカラは、彼らが選んだ主の強さと大きく関係します。彼ら単体では持つチカラの半分も出せないのです。」



「そこで私は彼らに自分の主を探せという問いを出しました。そしてその問いに、彼らはあなたたちという答えを出しました。」



「そんな彼らに私が果たす目的は、彼らの選択が正しいものであったかを確認するため。」



ここまで聞くと、この後の展開は予想できる。

レイは腰の剣に手をあてる。




「この場で、あなたたちを試させて頂きます。」




獣神なる存在が、レイたちに戦いを挑んできた。





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