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とある青年のレベル上げ ~グラド・サーガ~  作者: あいうえおさん
第8章 混沌が漂うこの国で 《ラスト・サーヴァント》
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レベル94 異変の在り処 《ラドウィン》


さて、あのパレードからはや二週間が経つ今日のリビングで、一味はアリナ宅で朝食を食べている。

実はあの後、レイの右腕は骨折をしていた。骨折と言っても重度のものではない、なので安静にしているだけで回復するらしい。そして今日か明日でその安静期間が終わるというのだ、本来ならば。

しかしあのレイがその二週間何もしないワケがなく、なんと安静期間中に外でモンスター狩りを行っていた。

よってその安静期間もその分伸びるワケで、本当の旅立ちは明日になりそうだ。


「あーヒマだぁ・・・何もすることねぇ・・・」



「(・・・誰もいないよな?)」



ギィィ・・(ベッドから降りる音)



レイはベッド横にある剣を音たてぬように装備し、ゆっくりと忍び足で、部屋を出ようとする。

が、



カチャッ(ドアが開く音)


「ねぇレイくん、どこ行くの?」ニコッ


「・・・ちょっとトイレに」


「なんで剣なんて持ってるの?必要ある?」


「・・・杖がわりに」


「骨折した箇所って脚だったっけ?」ジト―


「いや、あの・・・



言葉を重ねるうちに、レイを見るミオンの目が段々と険しくなっていく・・・



「戻れ」ギロッ

「はい」



バタンッ・・・




「はぁ、まったく・・・なんでレイくんは二週間くらい我慢出来ないのかしら。」


「ま、まぁ・・・それくらいベルディアくんも冒険したくてたまらないんじゃない?」


「・・・レイさんの見張り役、そろそろ私の時間ですね。」


こんなことを話すのは、レイの部屋の隣の女子四人の部屋。さらにレイが逃げ出さないように、なんと見張り役をローテーション付きで設けている。


「確かにそろそろかな・・・アリナちゃん気を付けてね。レイくんに騙されて部屋から出しちゃダメだよ?」


「了解です!またこの前みたいに『俺治った治った詐欺』には騙されません!」 





「失礼しま~す・・・見張り役に来ましたよ~。ちゃんと安静にしてますか~?」


「あぁ、ついさっき戻されたばっかだっつーの・・・」


アリナはレイの部屋に入ると、レイの寝るベッド横の椅子に腰を掛ける。


「・・・二週間くらい我慢したらどうです?」


「俺が引きこもりを出来ると思ってんのか?」


「はぁ・・・やれやれですね。」


「次は確かローテーション的にシェリーだったな・・・」


「あ、次の見張り役はお姉さまになりましたよ。シェリーはレイさんに簡単に騙されるので。」


「チッ」

「また出ようとしてたんですかッ?!」



♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢


アリナがレイの見張り役になってからもうすぐで一時間が経つ頃だ。

このままレイが外に出なければ、明日の朝にはここを出発できる。その先の予定や行先について、少し気になったアリナ。


「・・・あの、少しいいですか?」


「んあ?どした。」


「このまま我慢できれば、明日の朝にはここを出発できます。そしたら、レイさんはどこに行く予定ですか?」


「どうすっかなぁ・・・まだ決めてねぇな。まぁとりあえず行ったことの無い場所に行くことは確定事項だぞ。」


「なるほど・・・そうですよね。レイさんはそういうタイプですよね。」


「どういうタイプだ。」


「まぁ何というか・・・知らない場所に行きたがりというか、危険とかあまり気にしなさそうなタイプってやつですかね?」


「バカかお前・・・危険を察知出来ないヤツは冒険者失格だ。ちゃんとメンバー全員の実力を踏まえて判断してるぜオレは。」


「おぉ、さすがリーダーです。」


「・・・んでどうしたんだ?行きたい場所でもあるのか?」


「まぁ行きたい場所というわけではないのですが・・・まず話す前に、この記事を見てほしいのです。」


アリナはそういうと、あらかじめレイの部屋に持ってきていたポーチの中から、綺麗に折りたたまれた一枚の新聞をレイに見せた。

その記事は、つい一昨日に出された夕刊の新聞の大見出しの一面。


「『ラドウィン王国領の洞窟にて、滅魔の聖水を大量投入』・・・か。んで、これが何か引っかかるのか?」


アリナはその問いかけに、首を縦に振った。


「そうか・・・じゃあなぜそう思う。ココ周辺の住民が警戒を強めただけかもしれねーぞ?」


「レイさんもご存知かと思いますが、滅魔の聖水とはどういった場合に使われるものだと思われますか?」


「・・・ま、少なくとも警戒レベルで用意するものじゃねーな。しかも大量に。」


滅魔の聖水とはその名の通り、魔を滅するための聖水。つまり悪魔を寄せ付けぬようにするものではなく、悪魔そのものを退治する。

警戒しようという段階で使うほど、この魔道具は易くない。さらにこの滅魔の聖水は、普通の聖水より断然値が張るものだ。


「昔からこの滅魔の聖水を使用する場合は、その周辺に悪魔の拠点があることが多かったのです。しかしこれを見てください。」


といってレイに渡すのは、昨日の朝刊だ。


「・・・なるほど。お前が疑問に思ってるのはコレか。」


アリナが手渡した二枚目の新聞に聖水を投入した場所が記載されているのだが、その場所とはなんと・・・


「はい・・・滅魔の聖水は、少なくともこのような場所では使いません。バル・イデオ山の聖殿洞窟でなんて。ラドウィンとバル・イデオ山は、まぁ正反対ってわけでもないですけどとても離れているし、人里すら無いような場所です。」



バル・イデオ山の聖殿洞窟とは、三聖山の一つバル・イデオ山の中腹付近にある神聖な空間。また、守護獣リモラの聖窟だ。

この神聖な場所に悪魔がいるとは考えにくい、そして人里すらない場所に聖水を撒くなんて、お金を溝に捨てるような行為だ。あまりにも不自然・・・アリナはそう考えた。



「・・・分かった。少し考えてみるわ。」


レイがアリナにそう言った次には、



「レイくんこれ見てッ!」ガタッ

「うおッ」


ミオンたちが自分の部屋に急に押しかけてきた。さらにミオンは、何やら新聞の一面をレイの前に掲げている。日付を見ると、今日の夕刊のようだ。

そしてその大見出しには、


『伝説の勇者、現る!!』



「・・・なんだこりゃ?出てくんの遅すぎじゃねぇか。」


「いえ、問題なのは見つかった場所よ。」


といって、今度はアリナ母のリオナまでそのまま入ってきた。なにこれ、プライバシー無いの?


「見てほしいのはその勇者なる者が現れた場所よ。」


『伝説の勇者の装備を纏った者を、国の役人がラドウィン郊外の山村で発見。』


「ラドウィン?これってさっき話してた場所じゃねーか。」


「あら、ではアリナからも話は聞いているようね。そうなの、伝説の勇者と滅魔の聖水が投入された場所は同じラドウィン王国内なの。」



その後の新聞にはこう記されている。

~~~~~

伝説の勇者がラドウィン郊外のヴィンデクト村にいることが分かった。名はエンデ=マエストル、16歳の青年である。

この村に古くから伝わる伝説の兜を装備できる者が現れ、伝説の勇者の呼び声が高まっている。

~~~~~



それから夕食を食べ、そして寝る時間になるとそれぞれはそれぞれの部屋へ解散。レイの部屋にはレイ一人のみとなり、状況を考察する時間を得た。


少し整理しよう。

昨日の夕刊では、バル・イデオ山の聖殿洞窟で滅魔の聖水の大量投入が行われたと記してあった。

そして今日の夕刊では、ラドウィン郊外の山村に伝説の勇者疑惑を持つ青年が現れた。


レイは再び考える。

まずは聖水の大量投入。なぜ場所がそこなのか?よほどの子供でなければ、その場がどのような場所であるかを知っているはず。さらに投入した滅魔の聖水の金額を見るに、子供が好き勝手触れるような代物ではない。悪戯という線は消える。

ではその聖窟が悪魔の住処と化した、これはどうか?確かにありそうな線ではあるが、これは守護獣リモラやその主であるフィルが気づくはずだ。そして助けを求めることはせずとも、警戒するようにという助言を含めてレイの所にも連絡するはずだ。フィルはそんな性格をしている。よってこの線である可能性も薄い。

加えて次は伝説の勇者が現れたという記事。なぜ今になって勇者を探そうとした?さらにその枠は人物紹介コーナーのようなものではなく、まるで世紀一大ニュースでもあるかのような見出しである。

なぜだ?なぜそこまで勇者を見つけたい?悪の元凶である焔王妃は倒したはずだ。まさかまだ裏に誰かいるのか?



「確認しに行ってみるか・・・」



明日にはレイの骨折も完治する。レイは明日の旅立ちために、今日はもう寝ることにした。

月明りがぼんやりと室内を照らす。時々吹き抜ける風がカーテンを撫でながら入ってきてはすぐにまた外へ。

旅立ち前の前夜はいつもこんな感じだったのを不意に思い出す。

何事もない静かな夜・・・レイにとっては不吉の予感がするものだ。

予測が出来ない二つのニュース、そしてそこから考え出した事のシナリオ。

今までの冒険は難しい謎解きのようなものであった。そしてその謎の行きつく先は予想を超える最悪な現実。


果たして、今回もまたそのようなものであるのか?



しかし、今のレイは今一つそのような予感はしなかった。

なぜならレイは、ついに二週間前にあのシル・ガイアを倒したからなのだ。



ところでレイ、以前から気になっていたこともある。

それはなぜシル・ガイアは“焔王妃”なのかということ。

あれだけ強い存在ならば、“焔王”そのものを名乗っていても問題ないはずではないかという、すごく素朴な疑問である。



しかしこの事実にはまだ続きがあることをもうすぐで知ることになるとは、今のレイは思っていない。

そしてそのことを知ったとなれば、平和ボケしかけた今の状況に危機感を抱くことは避けられないであろう。






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