レベル93 紅騎士 《レイ=ベルディア》
自分の目の前には“焔王の化身”となった大悪魔が一人。
そしてこちらは、自分ひとりだけ。
相手は内包するチカラを極限まで解放した、持つパワーは先程の比ではない。
「ッ・・・!!」
相手の眼はまっすぐと自分を見ている。
その眼は『殺らねば殺られる』、まるで野性の本能のように。
焔王妃の時の余裕は、今はひとかけらもない。
「(やべぇ・・・!!)」
「(殺られるッ・・・!!!)」
次の瞬間、化身は呪文を唱えた。
『ッ!』
地が大きく動き出す。
島全体が激しく隆起し、マグマがまるで出血したかのように溢れ出す。
大地が再び、悲鳴を上げた。
地殻魔法最強呪文、『ディ・アース』 ―――
!!!!!!!!!!!!!!!!
「ハァハァハァハァ・・!!!」
レイの体力が、大きく削られる。
「(立てねぇ・・!!)」
そして次には、
『アアッ!!』
「ッ」
レイは化身の拳を正面に受け、島の端まで吹き飛ばされた。
♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢
「ッ・・・・!!」
目の前には、段々と迫り来るシル・ガイア。
そして自分は、ダメージで動けない。
「(クソッ・・・!!)」
ステータスパネルには、
『パーティーリーダー レイ=ベルディア
魔法戦士 HP;3 / 236 MP;12 / 105』
このままいけば、レイは死ぬ。
何とか攻撃を避けなければいけない、しかし現にレイの身体は動いてくれない。
ここで死んじまうのか・・・相手は最恐の悪魔、死んだとしても恥ずかしくない死に方かもな
・・・ん?ステータスパネルが・・・なんだよ、まだ続きがある・・・
『パーティーリーダー レイ=ベルディア
魔法戦士 HP;3 / 236 MP;12 / 105
・・・』
・・・
『あなたは、まだ生きています。』
・・・ハハッ、分かってるっつーの、まったく・・・
そうだな・・・俺はまだ生きてる、死んでいない
まだチカラは残っている、体力はまだ0じゃない
まだ死んでいない・・・だから最期まで生きてやる、戦ってやる
相手もそうだ、死なないために戦っている
だから、
「命まで譲ることは、出来ねぇよな・・・!!!」
レイは剣を握り、残る全てのチカラで立ち上がる。
相手は、“焔王の化身”という名の獣
そして自分も、死なないために戦う一匹の獣に
「(命の、やり取りなんだ。)」
「(死なないために、死ぬまで戦ってやる!!!)」
「来いやぁ!!!!」
ふと声が聞こえる
――― 助けて ―――
どこからとなく、誰かの声が聞こえる
――― ベルディアくん ―――
仲間の声が聞こえる
――― ベルディアくん・・・助けて!!! ―――
芽衣は、まだ生きている
任せろ、今助けに行く ―――
『スキル6;「タイム」が発動しました。』
何も考えるな
何も考えずに、ただ剣を振り抜け
目の前の敵に、剣を振り抜け
――― 竜閃炎 ―――
あれ、相手が動かない
・・・何も考えるな、ただ剣を振り抜け
――― 竜王殺 ―――
何も考えるな 何も考えるな
ただ剣を、振り抜け
――― 極閃炎 ―――
レイの放つ無心攻撃は、ほんの数秒の間に、
シル・ガイアの身体を貫いたのだ
『“焔王の化身”シル・ガイアを討伐。それぞれ経験値120000、0ゴールドを獲得。
スキル発動;レイ=ベルディア、シェリー=クラシアは経験値480000を獲得。
メンバー;松嶋芽衣が加わった。』
そして時が、再び動き始める ―――
レイは持つチカラを出し切り、その場に倒れた。
♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢
今日もイーストデルトの空は果てしなく青い。
天気予報では今日こそ雨が降ると言っていたが、この調子だと雨はもうちょっと先だろう。砂漠とかならないよね?
パーティーはアリナの実家で朝ご飯を食べた後、さっそく支度をする。支度といっても普段の私服に着替えて、女性陣は整ったおめかしをするだけだ。
今日は王国からお呼び出しを受けている。といっても、別に何かやらかしたからではない。
パーティーはこの後、シル・ガイア討伐の感謝状を贈られるのだ。
「おれ、あんまこういう『感謝される』って慣れてねーんだよなぁ。ぶっちゃけあの場は苦手だ。」
「でも感謝されるって嬉しいものですよ?なんでそんなに嫌なのか意味わかりません。」
「ガキには分かんない理由があんだよ。」
「だ、誰がガキですと~~~!!??」
「あーあ、フィルはバックレかますし。アイツも出ればいいじゃん、感謝されるって嬉しいことじゃねーのか?」
「レイくん見事に矛盾してるね・・・でも、このお城も二回目なんだよね。一回目の時もペーディオ討伐した時だったし。」
「ねーねー、これからどこ行くの?この服何だかキツい~」
「あ、シェリーちゃんダメだよそれ脱いじゃ!せっかくオシャレしたのに、勿体ないよ。」
王国城に行くと言ってもただ国王から感謝を告げられるだけのはず。ここまですることはないんじゃないか?
・・・などと思っているうちに、一味は城門の前に到着。
しかしそこで一味の目の前の光景とは、予想もはるかに超えたものであった。
「え?」
「敬礼ッ!!」
ババッ!!
城門から城の扉まで、なんと王国兵隊全員がレイたちに敬礼をして迎えたのだ。
さらにそれだけではない、なんとその後ろで大勢の国民の姿が見える。その多くは自国の旗を掲げて、レイたちに見てもらえるように大きく振っている。
そう、これはまるで・・・
パレードである。
「おいおいおいおい・・・!!!」
「これ何人いるの・・・?!」
「この中を通るって少し緊張しますね・・・!!」
「あ!あの子手振ってくれた~!!」
城門から扉までおよそ徒歩で10分程。その間はまっすぐな大通りを通ることになる。
一味の大半が緊張するというのは、その10分間ずっと多くの人の歓喜を見届ける事。
しかしこの国民にとってシル・ガイア討伐というのは少し実感がわかないのではないかと思うところもあるが、それにも確かな理由がある。
以前この国の南にある神代の祠にて、イーストデルト王国はシル・ガイアの召喚したあのペーディオで多くの戦士を失った。レイたちがペーディオを倒した後も世界有数の大国という規模が仇になり、多くの魔物がこの国に介入してきていたのだ。
人々はそれらから生活を護るために何度も戦ってきた。それが終わりを告げたとなれば、ここまで喜ぶのも頷ける。
「や、やっと城の中についた・・・注目されんのはだいぶ苦手なんだわ・・」
中に入ると、王国の兵士長が迎えてくれた。幸い、城の中は兵士長と数人の兵隊のみのようだ。少し安心する。
レイとミオンは、以前ペーディオを討伐した際にこの階段を登っていったあの時を思い出しながら、まるで一歩一歩刻むようにゆっくりと登っていく。中々気づきにくいが、あれから幾つもの時間が経っている。
アリナは城内に入るのがこれで初めて。幼いころ、家の窓から大きく見えていたあの巨城に今はなんと入っている。そんな今の状況に、少し感激しているようだ。
シェリーはというと、相変わらず好奇心が勝っている。城内のあちこちを眺めては、その一つ一つに『すごい』の言葉を投げかけている。
なお、芽衣はリオナと共にそのままアリナの実家に留まっている。なぜならシル・ガイアとはいわば自分の半身。焔王妃を討伐した一味として迎えられるのに、罪悪感があるというのだ。
実際、あの時のシル・ガイアはあの時以上のチカラを有していた。それまで発動させないように食い止めていたのは、吸収されたシル・ガイアの内部で抵抗する芽衣であった。
なので芽衣も本来はシル・ガイアを食い止めた戦士の一人になるのだが、それを説明すると少し混乱を招きそうだ。
カイは、レイが目を覚ます前にリオナが元の世界へ帰した。何とも青年時代のミオンをネタにして、あちらの世界のミオンをいじってやるなどと言っていたが・・・
さらにそのついでにカイはミオンに、自分に妹がいることも打ち明けた。それを聞いた本人は、何だか少し楽しそうな表情だったのは意外と覚えている。
各々感じるものを感じながら、4人は王室にたどり着いた。
「やぁ、今回は来てくれてありがとう。そして・・・久しぶり、と言ったら思い出してくれるかな?」
4人、特にレイにそう呼びかけるのは、玉座の前に立つ国王本人。
「お、思い出すも何も・・・あの時助けてもらったのを忘れたことねーぞ?」
「ちょッ?!レイくん国王様の前なんだよッ!!もうちょっと敬語つかわないと!!」
「ホッホ、いやいいんだよ。その返答を聞くに、元気そうでよかった。」
「しかし君たちは本当に強くなったね。あの時でも十分強かったのに、そのさらに上を行ってしまった。」
「そんな逸材が国内の村にいたのは、本当に誇らしいよ。ありがとう。」
シル・ガイア討伐で落ち着きを取り戻した世界は、しだいに活気をも取り戻していく。
鳥が舞うこの空も、大地を吹き抜けるこの風も、そしてこの地も
まるで峠を越した後のように、その様子は穏やかそのもの。
もしまたどこかで何かが起きたとしても、その風が、空が、その不安を和らげるかの如く。
平和へ向かう城や町に、その姿を現すのだ。
しかしまだ世界の人々がまだ気づかない所で、
まだ動き続ける影がいる。
それは本当に気づかない所で、しかし確かな段取りで
取り戻しつつある平和に、侵食を始めていた。
第7章 終