レベル92 英雄 《ブレイブ》
「待ってたよ、レイくん・・・!!!」
身に纏うのは紅に輝く竜輝の鎧、右手に持つのは業火を放つ竜王の剣
放つ眼光は、あの時のとは比べ物にならないほどの覇気を感じる
紅騎士 レイ=ベルディアが、焔王妃の前に立ち憚った。
「すまんみお姉、ちょっと遅くなっちまった。」
騎士覚醒を果たしたレイが差し出す手は、あの時よりもチカラを感じる。そしてその手を借りて再び起き上がるミオン、
「遅すぎだよ・・・でも、信じてよかった!来てくれてありがとう・・・!!!」
不意に涙がこぼれてしまう。力強く血の通ったその左手に安心感を得たのだろうか、心なしか身体も軽くなっていくような・・・
精神状態は身体まで影響するものなのかと、少し驚いてしまうことも。
・・・いや、これって本当に回復してる・・・?
『スキル5;「ブレイブ」が発動しました。』
ステータスパネルを開いてみると、自分のだけでなくパーティー内全員の体力がみるみる回復していく。
さらにパーティーメンバーでないリオナまで回復しているようだ、倒れていたリオナも今はゆっくりだが立ちあがっている。
突然発動したこのスキル、発動者は
――― レイ=ベルディア
『スキル5;「ブレイブ」
発動条件;特殊条件下
発動内容;あふれる勇気の志が強く共鳴し、味方全員の体力が限界まで回復する。また、この効果は一定時間持続する。』
気付けば翠騎士 フィルまで参上し、ついに獣騎士全員がここに集結した。
先程まで虫の息状態だったシェリーが、今はスキルたちの効果でみるみる体力が回復していく。
段々と息を吹き返すレイたちを前に、シル・ガイアはただ黙って様子を見る・・・
はずがなかった。
『ッ!・・・出てきなさい!!』
次の瞬間、シル・ガイアの周りに無数のペーディオゾンビが召喚された。文字通り、あの時のペーディオをゾンビ化した魔物だ。
しかしその強さは、かつて神代の祠で戦った時以上だ。さらに数は限りなく多い。
『獣騎士が来たから何?だったら圧倒的な数で倒すまでよ・・・!!!!!』
「・・・ふぅ」
『スキル2;「ルート」が発動します。』
敵は覚醒したシル・ガイアと無数のペーディオゾンビ、対するこちらは体力が回復した7人。しかしうち一人はスキル効果で戦闘復帰には難しい。
「・・・賢者二人とフィルはそのザコモンを一掃してくれ!どうやら物理攻撃はほとんど効かないらしい。みお姉はその子が復帰するまで守ってやってくれ!」
「・・んでシェリー、お前は俺と一緒にラスボス戦だ。いいな?」
「うん!行けるよ!」
最終決戦が、幕を上げる。
♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢
とはいえ、今のシル・ガイアには一切の魔法攻撃がまだ効かない状態。レイは状態異常魔法を使った攻撃がしたいようだ。
よって最初の攻撃は、ケミックステルの効果を消す所が始まる。
「エヴィウス頼んだ!」
――― !!! ―――
エヴィウスの放った灼熱の波動により、シル・ガイアに掛かっていた全ての相乗効果がたった今かき消された。
ケミックステル効果は消え、シル・ガイアに魔法が届くようになった。
『・・・あら、この厄介な効果を消してくれたのね。感謝するわ。』
「しかしこれでお前はあらゆる呪文が効くようになったわけだ。」
『でも私ってかなりの魔法に耐性があるのだけど、ご存知かしら?』
「あぁ、スキルでは確かにそう見えた。」
『じゃあ魔法が使えるようになったって意味ないじゃない。ただ私の回復手段が使えるようになっただけよ?』
「・・・だが、お前はただ一つの魔法攻撃に対して、耐性が著しく欠けているようだな。」
『・・・?』
「ハハッ、どうやら分かんねぇみたいだな。じゃあ見せてやる。」
レイは剣を腰にしまい、シル・ガイアへスペルを撃ち出した。
レイは、呪文を唱えた。
「『バゴルディ』!」
青いスペルがシル・ガイアへ放たれると、たちまちシル・ガイアに吸い込まれる形で溶け込んでいき、シル・ガイアにとある効果を与えた。
シル・ガイアは、この魔法の正体がわかっていない。
『・・・結局何したかったのかしら?今私に何の効果も出ていないけれど。』
「分かんねぇならもうけモンだぜ。けどまぁ、すぐに分かるはずだ。」
『へぇ・・・それは楽しみね。』
「・・・おいどうした?かかって来いよ。」
『あら、ではそうさせてもらうわ。』
シル・ガイアは両腕の拳を強く握り、同時に発動した暗黒のスペルを両腕に纏い、
高速でレイに迫りかかる。
『魔神撃ッ!!砕け散れッ!!』
!!!!!
が、
「・・・おいどうした?どうやら覚醒したようだが、チカラは全然大したことねぇな。」
振り下ろされた両腕を、レイは何と片手で受け止めているのだ。
『・・・?!』
シル・ガイアはさらにチカラを入れようとするが、なぜかチカラが全然入らない。
さらにもっと言えば、さっきまではシェリーを岩壁に軽く投げ飛ばすほどのチカラを持っていたはずだ。
それが今では片手で両腕の攻撃を受け止められている。
『まさか・・・さっきのヤツは・・・!!』
「・・気付くの遅すぎだろ。今お前の攻撃力はさっきの半分以下だ。」
一時的に相手の攻撃力を下げる攻撃力減少魔法こそこの『バゴルディ』である。しかしこれは状態異常魔法ではなく能力向上魔法に含まれるため、ほどんどの対象はこれに対する耐性を持ち合わせていない。それはシル・ガイアも例外ではない。
だがその圧倒的無敵度を誇るために、ヒットする確率は結構低いのだが。
今のシル・ガイアの攻撃力は、レベル35くらいのソルジャーくらいの数値だ。
「・・・じゃあシェリー、そろそろお前も出番だ。いいか?お前は狙撃専門だから、この前覚えたあの呪文を使っていけ。」
「・・・あれって効くの?」
「まぁヒットする確率はお察し状態だが、その呪文以外にお前は魔力を消費する宛がない。だから使わないのは勿体ないだろ?」
「たしかに・・・じゃあやってみる!」
『何をさっきからごちゃごちゃ言ってるのかしら・・・あと別に物理攻撃が出来なくたって、攻撃手段なんていくらでもあるわ。』
「じゃあ早くかかって来いよっつってんの。」
『そうさせてもらうわッ』
♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢
「んっ・・・うぅ・・・」
ミオンの膝の上で、カイは目を覚ましたようだ。レイのスキル効果もあり、今のカイの体力は満タンに近い。
「・・・お、起きたみたいだね。」
「・・・ッ!シル・ガイアは?!ヤツはどうしたんだ!?」
「あぁ、それならあそこで頑張って戦ってるよ。」
二人の視界の先では無数のペーディオゾンビと戦う3人の姿や、覚醒した焔王妃と戦う2人の姿。
しかし先程自分が見てきた仲間たちは、ここまでチカラを持ってはいなかったはずだ。
アリナが放つ魔法攻撃は、あそこまでの威力を持っていただろうか?
シェリーの動きはあそこまで素早く、そしてあんなにも活力の満ちたものだっただろうか?
そしてその理由も、カイは一発で分かった。
目の前で紅く輝き、強者のオーラを放ち続ける。
「誰だ・・・あれ・・・」
「・・・あれはレイくん。紅騎士レイ=ベルディア、私達のリーダー。」
「・・・」
「あそこまで強くなるのに数えきれないくらい負けて、突き落とされて、つらい思いをして。」
「それでも立ち上がってきた。何度も何度も立ち上がって、そしてその度に強くなって。」
「例え相手に倒されても、何度でも立ち上がる。例え焔王妃でもかなわない!」
「・・・それがレイくん。私達を護るヒーローで、あなたの未来のお父さんだよ。」
数々の苦難に立ち向かい、その度にチカラを得て強くなる。
最初の旅立ちでは想像も出来なかった所まで。
相手は上級悪魔、霊体魔、幻魔王に魔王獣。例え圧倒的に不利な状況でも、強さを見つけて乗り越えてきた。
業火を纏う、烈火の紅騎士 ―――
「すげぇ・・・・・」
戦闘はしだいに終盤に差し掛かる。
『ハァハァ・・・クソッ!早くひれ伏しなさい・・・・!!!』
2人の高速連撃の数々に、対応しきれなくなってきたようだ。息を荒げる姿は、先程よりも激しい。
しかしそれは二人にも言えることだ。二人は高速連撃を繰り返している上に、シル・ガイアの攻撃も数々と受けている。
双方ともに、体力は大きくすり減っていた。他の3人も、無数の敵なだけにその消耗度も大きい。
早く倒さないと、自分が倒される。
「竜王殺ッ!!」
レイが繰り出す烈火の斬撃を、シル・ガイアは正面から受け止める。
『ウウウゥゥゥ・・・・・!!!!!ウゥァァアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!』
斬撃を受け止めるシル・ガイア、しかし先程と雰囲気が違う。
斬撃を食い止めるその姿から、段々と暗黒のオーラがにじみ出る。
そんなッ・・・ウソだろ・・・?
「(まだチカラを持ってんのかよ・・・??!!)」
『アアアアアアアアア!!!!!!!!!!!』
シル・ガイアは、烈火の斬撃を打ち消した。
そしてその瞬間に、シル・ガイアから暗黒の波動が四方へ放たれる。
!!!!!!!!!
「クッ・・!!」
波動が収まったのを確認したレイ。瞬時に閉ざした目を開けて、味方の安全を伺う。
「おいシェリー!!だいじょうb ――――
が、
「」
返事がない。
「お、おい!!シェリー!!みんな!!」
今度は周囲を見渡す。
「」
「」
「」
「」
「」
「」
しかし、結果はシェリーと同じ。
彼らの時間が、止められてしまった。
このフィールドで動く者は、紅騎士と焔王妃の二人だけ。
あの守護獣でさえも、今はまったく動かない。
そして、
『殺ス・・・殺ス・・・レイベルディア・・・ゼッタイニ殺シテヤル・・・!!!!』
狂気を極限まで解放した、史上最恐の大悪魔。
『“焔王の化身” シル・ガイアが現れた。』