レベル92 希望の光 《イグナイトソウル》
さて、まずはシル・ガイアに一切の魔法が効かない状態をどうにかしなければいけない。そしてケミックステルの効果を消したときに、魔法により回復されるのも避けたい。
ならば相手の呪文を封じるのが先決だ。
しかし呪文を封じる魔法である『ケミストラ』、果たして今のシル・ガイアに的中するとは思いにくい。
「・・・」
使える手駒は自分含めて4人、うち2人は魔法攻撃専門。
さてどうする?
『スキル3;「パーフェクトリード」が発動します。』
「アリナちゃんは『ケミセリド』で自分を護って!そしてリオナさんも!シェリーちゃんはもうちょっと待ってて!」
『ケミセリド』は相手の魔法攻撃を跳ね返す補助魔法。確かに相手にも呪文は効かないが、こうすれば自分にも効かない。
「はい!てやッ!」
アリナは呪文を唱えて自分の前に光輝く壁を形成、呪文攻撃を跳ね返すようになった。
すでにリオナも『ケミセリド』を自分で発動していたようだ。
「・・出来ました!」
「よし!じゃあ次は・・・
次にミオン、スキルを発動させた。
『スキル2;「パラディブースト」が発動します。パーティー全員の防御力が上昇、ミオン=プルムの攻撃力が上昇。
持続時間:7分』
どうやら持続時間はレベルによって左右されるようだ。
パーティー全員の防御力も上がった所で、今度ミオンはシェリーを自分の下に呼んだ。
「ミオンどうしたの?」
「シェリーちゃん、今はこの矢を使いなさい。」
といって手渡したのは、矢先に猛毒を染み込ませた蛇毒の矢。
「いい?これで相手の太もも辺りを狙いなさい。」
「え?“しんぞう”とかじゃなくて?」
「うん。太もも、よ?」
「分かった!」
ミオンはシェリーに攻撃力が一時的に上がる呪文『キルディアス』を唱えると、自分も持っていた毒牙の鞭を装備する。
『先程あんなに言われたのに、立ち直りの早いことね。』
「・・・アリナちゃんたちは出来るだけ自分の身を護ってちょうだい。サポートも指示は私がするから、その時は宜しくね。」
『・・・』
『(少し・・・マズいわね・・・)』
「シェリーちゃん行くよ!」
「うんッ!」
シェリーは数本の毒矢を弓の弦におさめ、矢に光のスペルを発動させる。
そして矢を、放つ。
「輝空閃・改ッ!!」
放たれた矢は以前よりうなりを上げて、シル・ガイアの右脚へと迫っていく。
おそらくこのメンバーでもそうは続かない。ならば獣騎士が来るまで耐え続けなければならない。
今のミオンにとって、あのケミックステルの効果を消す方法はもう守護獣の波動頼りだ。よって守護獣が来てくれるまでは、呪文攻撃は封印されたまま。
先程ある程度上げたと云えども、今の攻撃力では致命傷を与える所までは削れない。
ならどうするか?
ミオンはそれに答えを出した。
――― 経過性ダメージ、である。
大きく削れない攻撃力でただひたすら攻撃を続けるより、段々と蓄積されるダメージを負わせるほうがはるかに省エネ。
さらにシル・ガイアの回復方法は魔法によるもののみとカイが暴いた。よって毒がヒットすれば、シル・ガイアはそれを除去することはできない。
脚部に狙えと言ったのは、動きを封じる麻痺効果も期待しての事。動かす器官が毒に侵されると、神経まで染み込み麻痺反応を起こすことがあるらしい。
しかも脚部は心臓部よりずっと狙いやすい、なぜなら心臓部は一つだが脚部は二つだからだ。
確かに相手もかなり高い素早さを持っているが、こちらはそれとほぼ同等の素早さを持つ上に補助魔法でさらに素早さが上がったシェリー。
そして毒矢が、ついにヒットする。
『ッ!?・・・』
矢先に染み込んでいるのは猛毒だ。その効果は普通の毒よりはるかに大きい、それは以前のデュラーデ戦で身をもって経験済み。
シル・ガイアの動きが、あからさまに鈍っているのが分かる。
脚部狙いは正解だったようだ。
「どうやら効いたみたいね、グッジョブシェリーちゃん!」
これで第一関門を突破。次にミオン、今度は味方に呪文を唱え出した。
「シェリーちゃんまたこっちおいで・・・『ベグナス』!」
ベグナスとは能力向上魔法の一つで、味方一人を様々な状態異常攻撃に強くする魔法だ。
相手を状態異常にさせた次は、自分たちの状態異常耐性を上げた。
ミオンはその後も自分やアリナ、リオナにもかけ、これでパーティー全員が状態異常に強くなった。
またさらに、ミオンのシナリオにはまだ続きがある。
「・・・さてアリナちゃん、爆発魔法をお願いしてもいいかな?」
「え?ですが、今の相手には効かないと思いますけど・・・?」
「まぁ確かに効かないね。だから撃つのは相手じゃなくて、この地面だよ。」
といって、ミオンはシル・ガイアと自分たちの距離の真ん中付近を指差した。
これには理由がある。
シル・ガイアは空中戦に弱い。これは以前クルスオード帝国で一戦交えた後に、レイが芽衣にそんなことを聞いていたのを思い出してのこと。
そして今現在、シル・ガイアの足は猛毒で思うように動かせない。
空に飛ぶための脚力を奪うだけでなく、こちらに向かうための道をも壊せば?
シル・ガイアは、攻撃手段がかなり限られていく。
「さぁアリナちゃん、地面を大きく抉ってあげて!!!」
「『スーパーノヴァ』ッ!!」
叫ぶと同時に、双方の間に大きな穴が形成される。
シル・ガイアは、こちらに攻め入ることがほぼ出来なくなった。
『・・・あなた、目つきが変わったと思えば小賢しいマネしてくれるじゃない。』
「ならそこから何かしてみてよ?」
『黙りなさいッ!!“魔界光”!!』
抉れた大地の先から伸ばし伸ばしで放った波動攻撃は、少し離れた距離が原因なのか、4人は容易くそれを回避する。
そして今の攻撃でその反動を受けたのだろう、シル・ガイアに猛毒による経過ダメージがより強力となって襲い掛かった。
『ッ!!・・・』
心なしかシル・ガイアの息遣いが先程より荒くなっているような気がする。
猛毒による経過性ダメージは、想像以上に効果的だったようだ。
しかし、今の優位な状態も長く続かないこともミオンは見えている。
というのもケミックステルの効果が切れたなら、おそらくすぐに解毒と回復をされてしまうだろう。
今ミオンは、その阻止方法を探っている。
「(・・・やっぱり呪文を封じるしかないのかなぁ。)」
しかし、
急にシル・ガイアの様子が変わった。
『・・・ここまで来ると、さすがと言ってもいいわね。ここまで追い詰められるのはあの時以来かしら。』
「・・・?」
『先程のあなたならまだしも、よくここまで考えられたものね。そこの彼や魔女と同じく、称賛するわ。』
「・・・それはどうも。」
『でもこれで終わり。もうケミックステルの効果なんてどうでもいいわ。』
するとシル・ガイア、自分の前に巨大な魔力を召喚し始めた。
これは魔法攻撃のスペルだ、しかし先程放ってきた暗黒魔法のそれとは大きく異なるものだ。
「アリナちゃん『ケミックウォール』かけて!」
ミオンの指示で、パーティー全員の前に魔法攻撃を低減する光の膜が形を成した。
しかし、
『フフフッ、そんなの無駄よ。』
そう言った次の瞬間、シル・ガイアは一味に波動を放ったのだ。
「!!」
漆黒を纏う闇の波動の前に、一味はただ呑まれるだけ。
・・・しかしダメージは意外にもほとんどなかった。では何がしたかったのだろうか?
その答えは、案外早く見つかった。
「・・・あれ!?光の壁が消えてるッ?!」
ミオンだけではない、なんと一味全員の『ケミセリド』効果がかき消されてしまった。
そしてミオンは気づく。
この波動は、守護獣たちのそれと同じ ―――
ミオンたちに掛かっていたあらゆる相乗効果が、たった今かき消された。
『所詮は悪足掻きでしかないのよ。焔王妃復活と共に死になさい。』
そしてシル・ガイアは、呪文を唱えた。
『 「レ・グラビティ」 』
目に映るこの光景は、まるで神の逆鱗に触れたかのようだ。
地面に叩きつけられたスペルたちが地殻内で核変動を盛んに起こし、大地が悲鳴を上げて暴れ出す。
終わりの見えない地獄の世界に、一味は成すすべもなく呑み込まれた。
大地を揺るがす、攻撃魔法の中で最強の属性魔法。
――― 地殻魔法 『レ・グラビティ』
『・・・これでどうかしら。猛毒なんて虫刺されの程度だわ。』
シル・ガイアの目の前では、死の島全域が地殻変動で大きく倒壊している。
その光景は、とてもこの世のものとは思えないほどに。
そしてシル・ガイアは姿を真の焔王妃に変え、かつてないほどのパワーを解放してしまった。
「(くッ・・・立てないッ・・!!!)」
そして一味は“焔王妃”の前に、ただ無惨に倒れ伏す。
『・・・さて、そろそろゲームオーバーよ。』
そして倒れるシェリーの前に現れると、倒れる身を持ち上げて岩壁まで吹き飛ばした。
!!!!!!!!
「」
「シェリーちゃんッ!!!」
『あなたさえ消し去れば、この戦いはすぐに終わるのよ。』
衝撃で岩壁にめり込んだシェリーは、そこから動くことも出来ない。
シェリーは今までかなり動き回ってきた。その反動も相乗してだろうか、シェリーの身体は相当なダメージを追っていた。
「ッ・・・なら先に私をやったらどう?一応リーダーだし、まずは上を消す方が賢い選択だと思うけど。」
ダメージで身体を震わせながらも、ミオンは岩壁のシェリーの前に立ち憚った。
『私にとって、別にあなたは重要じゃないわ。あなたを消したところで、脅威は消えない。』
「・・・」
『でもあの娘を摘めば、もう勝ったも同然だわ。』
「ッ・・・」
『私は獣騎士が3人集まられるのが一番嫌なの。だったらうち一人を消す方がいいに決まってるでしょ?』
ミオンは何とか進撃を食い止めたい、しかし先程の『レ・グラビティ』が想像以上に堪えている。
たった一発の攻撃魔法で、ここまで追い込まれるとは思ってもいなかった。
今では立っているのが限界だ。
『・・・でも確かにあなたも厄介ね。ならあの娘を倒した次に倒してあげるわ、光栄に思いなさい。』
ミオンの眼には倒れるアリナやリオナ、そしてカイの姿。そして自分のほかに動けるものは誰もいない。
ずっと待つ獣騎士の姿も、ミオンの眼には映っていない。
そしてシル・ガイアは、再びシェリーに指標を定めた。
『そこをどきな!!!無惨な形で死なせてやるッ!!!』
シル・ガイアはミオンを軽く払いのけ、動かないシェリーに迫っていく。
『魔光弾ッッ!!!!』
「(お願い・・・)」
「(誰か助けてッ!!!)」
次の瞬間、
――― 竜閃炎 ―――
ミオンの前では、シル・ガイアに衝突する烈火の斬撃
シル・ガイアは勢いのまま、後方へ吹き飛ばされた
紅い軌跡と共に姿を現したのは
虫の息のシェリーに立ち憚った、紅を纏う最後の砦
「レイくん・・・」
『・・・来たのね、紅騎士。』
たった今、耐久戦は終わりを告げる。
「待ってたよ、レイくん・・・!!」
希望の光が、ついに輝き始めた ―――