レベル9 能力 《プレ=ヴィローゼ》
・・・
え・・・?
「じゅうきし?」
突然司書が言ったその単語に、レイは一瞬硬直する。
「あぁ、“獣騎士”だよ。この背中の剣ですぐに分かる。司書をなめないでもらおうかね。」ワタシナンデモシッテルヨー
獣騎士 ―――
それは遥か昔、シル・ガイアの世界浸食と対抗し、封印することに成功した存在である。
三聖山を護る守護獣を連れてシル・ガイア妃の悪夢に立ち向かった獣騎士だが、その真相までは未だ明らかではない。
ただ一つ分かっていることがあり、“獣騎士”になる資格を持つ者は ―――
「――― “三聖器”を持っている者、ということ。背中の剣は“竜絶の剣”、三聖器の一つだね。」
「でもこれ所々錆びてるんだけど、これって本当に伝説の武器なのか?」
「あぁ、今は能力が秘められている時、いわば武器が眠っているんだよ。」
「じゃあ能力が目覚める時って、いつか分かったりとかは?何かが召喚された時って聞いたけどやっぱり分かんないし・・・」
「分からん。所有者次第なんじゃないかな?・・・おおっと、そういえばスキルについて知りたいんだったね。」
司書は本棚の左方の中くらいの段に手を伸ばすと、深緑色の分厚い書物を取り出した。長年取り出していなかったようで、本の上部の部分にホコリが溜まっている。
「これは『エピス=バウリナ』という魔導書の一つで、ここにはほとんどのスキルの概要が載ってある。君が知りたいスキルについて調べてあげよう。」
司書はその分厚い魔導書を机によっこいしょと置くと、ページを開いてレイの質問を待っている。・・・てかそんなにワクワクした顔でこっち見るなよおっさん。ただスキルの名前言うだけだぜ?
レイはステータスパネルを開き、自分のスキルのページにスライドさせ、スキルの名を読み上げる。
「えっと・・・“プレ=ヴィローゼ”」
「“プレ”というのは早熟系スキルだね。じゃあこのページかなぁ・・・?」
司書は“プレ”欄のページを始めから順に目を通していく。そしてとあるページで司書の手が止まった。
「・・・まったく同じではないけど、似たようなものを見つけたよ。これとかどう?」
「どれだ?」
レイはそのページを除いてみると、
「“プレ=クレイモア”?」
「うん、これは『剣を装備した時、その所有者は剣と共に早熟する。またその時、その剣も同時に成長する。』という激レアスキルだよ。君のそのスキルはこのスキル系統かもしれないね。」
『剣が成長する』というのは、武器自身が所有者のレベルアップと同時に不思議な力で強化されることを言う。
「・・・もしこのスキルと似ているなら、こいつを装備すると早熟スキル発動、剣を成長するってことになるな・・・でもこの剣は使えないし・・・」
「何か使えるようになるトリガーがあるのかもね。でも分かるのはここまでかな、ごめんよ。」
「・・・そうか、でも少し分かった気がする。ありがとう司書さん。」
レイは司書に軽くお礼を言うと、そのまま図書館を後にする。
レイは図書館を出ると、ミオンがいるところへ歩いていく。
確かみお姉は武器を新調したいっていってたな。俺もそろそろ新調したい頃合いだ。
「確かみお姉は商店街の方に行ってるって言ってたな・・・」
(・・・さっきの話、この剣が使えるようになるトリガーってのが出てきたな。)
トリガーとは、おそらく自分を揺さぶるもの。スキル発動に大きく影響する衝動のようなもの。自分の中にあるはあずなのに、一番見つけるものが難しいものでもある。
(まだそのトリガーが何なのかってのはイメージがつかないが・・・)
(そのトリガーは、おそらく自分が成長するきっかけと関係があるかもしれない。だったら・・・)
「あれレイくん?もう終わったの?」
「・・・みお姉?ってかその装備・・・」
ミオンの姿は女子受けしそうなデザインのローブに、天使の絵が描かれたライトシールド、そして少し豪華な杖を装備していた。
「あ、これね!さっき奥の武器屋にいってきてね、神官のローブと天使の盾とホーリーロッド買ってきた!全部で1200ゴールドもしちゃったけどゴメンねッ!?」
「えッ?てことは残り820ゴールド!?」
レイたちの所持金事情で1200ゴールドというのは、全所持金の約6割ほど。今日の飯代や宿代で5割を使う予定だったが、大きくずれてしまったようだ。
「ゴメンねレイくんッ!!」
「う~ん・・・」
(・・・まぁ武器新調は大半がみお姉のためだったし・・・いいか。)
「・・・まぁ次はちゃんと報告してから買ってくれよ?」
「ありがとう!!」
「さて、次は俺の武器防具だけど・・・」
「ねぇレイくん、さっき通りがかった防具屋良さげだったよ!そこ見てかない?」
「お、防具か・・・」
(確かにこの防具じゃこの先使えないし、武器の方はコレがあるしな・・・)
「じゃ、そこ行くか。」
そしてレイも防具新調を済ませ、残り所持金300ゴールド。
「いやぁ~まさかそのベルセルクメイルが700ゴールドもするなんてねぇ。それって初期装備の中で最も強いってやつだけどあそこまでしないよ普通。」
「思わぬ出費だった・・・これって見た目が良くてつい買っちゃったやつだわ・・・あれ?これって何て言うんだっけ?」
「『衝動買い』、でしょ?レイくん昔からその癖あったもんね~。」
「残りの宿代が足りててよかった・・・。今まで装備してたやつほとんど売って正解だったな・・・」
「さ、用事も済んだし、早く宿帰ろ?」
そして翌日。二人はギルドの掲示板前。
「なぁみお姉、今日は受けるクエストレベルを上げてみようと思うんだ。」
「いいんじゃない?そろそろカメラゼ倒しは飽きたもんね。まぁ倒してるのは全部レイくんだけどね。」
「それは違う。まぁでも、確かに飽きてはきたな。」
「レイくんがこのパーティーのリーダーなんだから、私は従うだけだよ。」
「ありがとうみお姉。じゃあこれってどうかな?」
「えッ?どれ?」
ミオンはレイが指差す方にある張り紙を見ると
『南方にある『神代の祠』を占拠するペーディオの討伐 最適ランク;推定20~』
――― 最適ランク;推定20~ ―――
「えええ!?これ受けるのッ!?」
「え?ダメか?」
「ダメってこれ・・・!うちらじゃ歯も立たないんじゃ・・・!」
「まぁ普通はそうなんだが・・・」
「・・・レイくん?」
(難関な条件であればあるほど、あのトリガーも引き出しやすいかもしれない。だから試してみる価値はある・・・)
「・・・」
「・・・ん?みお姉?」
「・・・はぁ、どうせ昨日のスキル調べで何か感化されたんだろうし。仕方ないから行ってもいいよわたしは。」
「ホントか!?」
「ホント。でもちゃんと守ってよね?私レイくんのサポートしか出来ないんだから。」
「分かってる。ありがとうなみお姉!」
二人はその後軽く支度をしてクエスト依頼受注を受け付けに申し出て確認を終えると、祠がある南方へと向かっていった。
次回投稿日;4月2日