小隊員の手記より 願(ねがい)
朝日が森を茜色に染める
丘の上の大木の傍に
一匹の狐と青年が寄り添うように座っていた
「・・上官の命には逆らえんかった。」
「あの時、首を締めた時、お前は何て言ったと思う?」
「"ありがとう”って感謝しよった。]
「それが辛かった。」
落ち着きを取り戻したのか
青年は静かに語る
狐はジッと話を聞いていた
「行こうか。」
「どんぐり池へ。」
青年はゆっくりと立ち上がり
再び歩を進める
視線の向こう先には
逆さの虹がかかっていた
その虹を追いかけるように
二人は歩いていく
♢♢♢
ある日
三匹の動物が森で迷っていました。
「全く!出口は一体どこなんだ!?」
常に怒っている暴れん坊のアライグマ
「アライグマ君落ち着いて~」
ニコニコとアライグマをなだめるお人好しの狐
「ひぃ・・今何か通らなかった・・?」
小さな虫すら苦手な怖がりのクマ
3匹はとても仲良しでした。
「お困りのようだね。けけけ」
そんな3匹を遠くから見ていたリスが話かけてきました。
困っていた三匹にいたずら好きのリスはいいました。
「逆さ虹が出た時、ドングリ池でドングリを落とすと願いが叶うよ。」
「無事に帰れるといいね。けけけ」
そう言うとリスはドングリを置いてどこかへ去っていきました。
「あ!池の場所はどこだ!?最後まで教えていけ!」
「まぁまぁ、とりあえずリスの後を追いかけましょう」
「更に奥に行くの・・?戻ろうよぉ・・」
三匹はリスを追いかけて森の奥深くへと進み―
「お父さん?何を描いてるの?」
一人の少女がそう質問すると、父親である男は優しく答えた。
「ん?これかい?今度出そうとしてる子供向けの絵本だよ。」
"ふーん"と言うと、少女は書斎の間を後にする
男は誰もいなくなった部屋で再び腰を下ろし
淡々と絵を描きながら昔を思い出す
「戦争が終わって…20年か…」
ふと
平和になった日本で男は呟いた。
1945年8月15日
日本の敗戦という形で戦争は終結した
青年がいた地は後に、白骨街道と呼ばれ
そこで一冊の絵本と手記を見つける
傍らには一人の白骨化した兵士が
空を見上げるように道端に腰掛けていた
青年は最後に何を願ったのか
それを知るものは誰もいない