小隊員の手記より~〇月2日 霧ノ中デ眠ル
「霧が濃いなぁ」
青年は呟く。
前日の大雨は朝方には晴れたが、代わりに霧が立ち込めた。
青年は分隊の殿を任されていた。
視界は悪く、前を歩く人影すら碌に見えない。
ジャッ
ジャッ
ジャッ
雨で混ざった砂と土の行軍の音が木霊する。
各々が怪我を庇いながら歩いており、
フラフラとした足並みはまるで亡霊のようだ。
(つい、手に取ってしまった。)
青年の掌には昨日のどんぐりが置かれていた。
その後辺りを探索しようとしたが急な大雨により断念。
報告は”敵 視認せず”としか伝えず、雨が晴れるのを待った。
最前列を進む上官が再び動いたのは霧が出てから間もなくのことだった。
ジャッ
ジャッ
ジャッ
出発してから数時間、濃霧のおかげもあってか追撃を執拗にしてくる連合軍の姿は見えない。
青年は思う。
今が上官と別れる絶好の機会などではないかと
ヒンカララ
ヒンカララ
ヒンカララ
(囀りも・・応援してくれてる・・ようだ・・)
濃霧の中聞こえてくる歌声
出発してからずっとその声を聴いていた
(ああ、やっぱりこれは・・故郷の童話だ)
青年は急激に押し寄せてくる睡魔の中
まるでこうなる事を望んでいたように
身を地に伏し
静かに眠る
次はちょっと長めです。