小隊員の手記より~〇月1日 逃走ヲ考エル 森デ奇妙ナ事有リケリ
童話を書こうとしたらこうなりました。
≪昔々、ある森に立派な虹がかかりました。
その虹は逆さまで、珍しい虹がかかったその森はいつしか「逆さ虹の森と呼ばれるようになりました。≫
「何を見ている!?」
後ろからふいに声が掛かる
「分隊長殿!はっ!故郷の童話を読んでおりました!」
「馬鹿者!何故斥候にいかん!?敵がどこにいるかわからんのだぞ!?」
ビタンッ!ビタンッ!
と、頬を叩く音が鳴る。
(さっき10分程休息をすると言ったじゃないか)
1944年、ビルマ(現在のミャンマー)における日本軍の戦況は悪化の一途をたどる。
物資や弾薬、食料は不足し、連合軍の猛攻になす術がなく撤退を余儀なくされていた。
青年が所属する小隊も連戦に次ぐ連戦により多くの隊員が疲弊し、そのまま病死や餓死する兵士が後を絶たなかった。
(あの優しかった上官がこうも変わってしまうとは)
道なき道が続く山岳地帯をどのぐらい歩いたのだろうか。
補給もない。
戦闘だけでなく飢えと病も深刻だった。
(弾も食料ももう底をつく。斥候して何になる?)
青年は斥候をしながら思う。
そもそも作戦自体が無謀だったのではないかと。
一緒に戦った仲間が朝起きると、ハエがたかり屍と化していたとき
青年は心底後悔した。
何故彼を助けることが出来なかったのか。
あの時、一緒に逃げてさえいればこんなことにはならなかったのではないかと。
(指示に従ってたら・・)
このまま彼らと同じように死へと近づいていく。
そのような事ばかり考えていた時、ふと上から何かが落ちてきた。
銃口を上に向け青年は身構える。
敵は何も連合軍だけではない。
ビルマの少数民族が兵士を襲ったという報告もなされていた。
「はぁ・・!はぁ・・!」
息遣いが荒くなる。
小さな何かが一瞬樹上を横切ったが今は夜、暗くてよく見ることが出来なかった。
呼吸を整え注意深く確認。
ボトッ
先程よりも鈍い音が奥の方で鳴る。
(なんだ?何かいるのか?)
再度銃を構え、一歩、また一歩と暗がりへと進む。
音が鳴った方へ進むと、平地に奇妙に山なりになった影を確認。
(何かある?)
近づいて青年はその影を確認した。
(これは・・)
(どんぐりか?)
ポツッポツッ
ザアアアアアアアアア
水の滴りと共に、大雨が鳴り響いた。
最初の動物はあいつです。