【目覚め】
結末から言ってしまおう。
この物語には救いがない。救いようがない。
僕はただの人だ。人間だ。何処にでもいる、ただの高校生だ。
世界を守る事なんて出来ない。剣なんて触った事ない。魔法なんて使えない。お姫様を助けになんて到底ムリだ。むしろ、僕を助けてほしい。
ぐじゅっ!
そんな音がする。
「ひぇぁっ」
自分でも情けない、と思う声が出た。
怖い・・・と言うよりも、気持ちが悪い。
ドブ川の水で作ったゼリーの様な物がズリズリ、と擦り寄って来る。いや、じゅりじゅり、と擦り寄って来ている。
僕の膝以上の大きさのあるゼリーが、だ。
落ち着け、落ち着け。
深呼吸してみる。幸い、ゼリーの擦り寄るスピードは早くない。
状況を整理しよう。
―――寝て目を覚ましたら何故か森に居て巨大なゼリーに襲われている。
以上!
うん、意味が分からん。
状況を整理してみたが、状況を把握するには至らずだ。
次は状況を打破を試みる。
辺りを見渡し、足元にあった石を拾う。
やる事はただ一つ。モーションをとって、ゼリーに向かって全力で投げ付ける。
ゼリーと僕との距離は数メートル程。野球なんて体育の授業位でしかやった事ないが、この距離を外す事は凡人な僕でも有り得ない。
ぼむっ!
泥に石を投げたような音と感触。
見た目通り、ゼリーには水分がたっぷり含まれているらしい。
どうだろうか、と僕はゼリーを観察する。
少しゼリーが飛び散った、と思う。
じゅるじゅると動いていたドブ川ゼリーは動きを止めていた。
前のめりになっていたと思う。
耳元を何かが掠って行った。
音と同時に背後にあった木に拳程の穴が空いた。
遅れて、熱と、痛みと、血が、僕の頬から―――。
「―――うわぁぁああああぁぁぁ!!!」
きっと僕は今まさに、目を覚ましたのだろう。
―――僕は走り出した。逃げ出した。
きっと今まで眠っていたのだ。
―――ゼリー状の謎の生物らしきものから全力で。
まず、地球上にあんな生物は存在しない、
―――そこは森の中だった。木々の枝や草の葉が体を傷付ける。
観察?石を投げ付ける?何をやっているんだ僕は…っ!
―――足が縺れたのか。何かに引っ掛けたのか、身体が宙を舞う。
「あっぐ……」
地面に叩き付けられる。
ここまで盛大に転んだのはいつぶりだろうか。
そんなどうでもいい事が頭を過ぎるが、すぐさま、我に返って背後を振り返る。
そこにゼリーは居なかった。