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盗賊~少女の思いと一つの誓い~

少女は古びたベッドの上にたち、自慢気に頷いていた。

だけど、私はダーナ一味がどんな一味なのか知らないので反応に困る。


「おい、お前たち驚け。あの天下一の盗賊団のダーナだぞ!」

「ダーナって、あの衣冠禽獣のダーナのことですか?」

「イカンキンジュウ?どんな意味かは分からないけど、世間ではそう呼ばれているのか。カッコいいな」


セイラは知っていたようだ。でも確か、衣冠禽獣って服を着た獣のような低俗な人間って意味だったけどダーナってどんな集団なんだろう。いかにも荒くれ者って感じがする。


「あ、あの。凄く申し訳ないんだけどダーナ一味ってどんな集団なの?」

「何っ!ダーナ一味を知らないだと?」

「なんか、ごめんね」

「そうですか、サキ様は知りませんよね。ダーナっていうのは簡単にいうと頭のおかしい奴らの集まりです」

「頭のおかしい?」

「そうです。彼らは盗みの才能はずば抜けているんですが、本当にそれだけの集団なんです。道徳心なんて無く、手段は選ばず、何より気分で動く奴らなんです。」

「なんだか、野蛮な印象だね」

「んー、野蛮と言うより頭がおかしいだけなんですよ。この前なんて、国の秩序を盗むとか言って一国を手中に収めたんですが、その先が分からなくなってその国を実質崩壊させたんですよ」

「凄い話だね、、」


その話が本当ならば凄く迷惑な集団だ。

しかし、ここには彼女以外誰もいないけどどういう事なんだろう?


「そういえば名前まだ言ってなかったね。私は衣笠サキ」

「わたしは、勇者サキ様に御使いするメイドのセイラ・リンブルクです。気軽にセイラとお呼び下さい」

「おっ、俺様のことは特別にダーナって呼ばせてやる」

「ダーナって苗字でしょう?名前教えて下さいよ」

「そうだね。せっかくだし名前教えてほしいな」

「なっ、何でだよ!」

「どうしたんですか?恥ずかしいんですか?」

「はっ、恥ずかしくねぇよ、、、、」

「じゃあ教えて下さいよ」

「わ、笑うなよ。絶対に」

「俺様はチェ、チェイルだよ」

「チェイルちゃんか。可愛い名前だね」

「そうですよ。可愛いじゃないですか」

「可愛いって言うな////」


凄く照れている。何でだろう、女の子らしくて可愛い名前なのに。


「どうしてそんなに照れているんですか?」

「だって、名前が女々しいじゃないかぁ。こんなの」

「ねぇ、チェイルちゃん」

「チェイルでいいよ//」

「じゃあ、チェイル。ここには他の人はいないの?」

「いねぇよ。ここには、俺様しかいない」


古びたベッドに、宙づり剥き出しのランプ。床には、ボロボロのカーペットが敷いてあるだけ。広さは六畳半程の広さだ。

ここに2人以上で生活するのは息苦しいだろう。


「チェイルは、なぜここに一人で居るんですか?他のお仲間さんたちは?」

「恥ずかしい話、俺様は追い出されたんだよ」

「追い出された?」

「そう。俺様が女って理由で父さんが追い出したんだ。女には危険すぎる。だからついてくんなって」


チェイルは、悲しそうな、寂しそうな顔で話始めた。


「俺様が生まれたときは、一味みんなが凄く喜んでくれたんだ。親方に女の子が生まれたって。

「それからは本当に大切に育てられた。俺様が欲しいって言った物は何でも盗ってきてくれたし、一味のみんなが俺様を可愛がってくれた。毎日一緒に遊んでくれたし、色んなことを教えてくれた。生活に必要な道具の作り方とか、料理とか

「中でも、俺様は一味の奴等から聞く盗みの話が大好きだった。いっつも奴等の仕事は波乱万丈で嘘みたいな話だったから聞いてて飽きなかった。

「奴等の話を聞いているうちに段々と俺様も一緒に盗みに行きたいと思いだした。憧れていたんだ。一緒に盗みに行けばもっとみんなと仲良くできると思った。感動を共有したいと思った。

「だけど、誰も、盗賊団なのに誰も俺様に盗みの方法を教えてくれなかった。別に俺の方から聞いたことは無かったから始めのうちはなんともおもわなかったんだ。でも、憧れは日に日に増すばかりで、とうとう聞いた。

「始めはみんな驚いた顔をして、そのあとわざと避けるように別の話を始めた。いつ聞いても、誰に聞いても結果はおなじ。中には俺のことを避ける奴もいたんだ。

「始めはおれも悲しかった。なんだか急にみんなが遠ざかっていくような感覚だった。寂しかった。なによりも。

「でも、それは段々と怒りになった。何で俺だけ仲間はずれにするんだ。俺はダーナ一味の親方のローガンの娘だぞって。

「だから、直接父さんに頼んだ。俺も仲間に入れてくれって。雑用でも何でもするからって。

「返事は勿論、ダメだった。分かっていたけど悲しかった。納得出来なかったから訳を聞いた。何でなのって。

「父さんは言った。お前は女だ。こんな危ないことをさせられない。お前はただ家で俺等を待っているだけでいい。

「母さんは?母さんも盗賊だったんでしょ?女の盗賊だっているのに何で私はダメなの?

「父さんは答えた。母さんはもう盗賊じゃない。今はお前の母さんだ。昔のことは昔のこと。それに、お前には未来があるだろう?何も盗賊だけがこの世界の仕事じゃない。お前にはもっと沢山のことを知ってもらいたんだよ。だから、今まで通りでいてくれ。

「私は部屋を飛び出した。何を恨んだらいいのか分からなくなった。今まで通りなんて出来るはずがない。悲しみや怒りを通り越して、もう訳が分からなかった。

「だから、私はその日の夜に決めた。こいつら全員見返してやるって。誰も想像出来ないほどの物を盗んで帰ってやるって。

「その日の夜に荷造りをした。一味の奴が作り方を教えてくれた鞄に必要な物だけを詰めて家をでた。家から出る途中に何人かとすれ違った。奴等は私の顔を見て何かを悟ったように言った。始まりの町ウェルバに行け。

「それ以外は何も言わなかった。奴等の背中から寂しさを感じた。でも、行くと決めていたので引き返すなんてことはできない。だから、奴等の言う通りウェルバを目指した。」


チェイルの目には涙が浮かんでいた。本当に辛かったんだろう。まだ、幼い少女に突きつけられた残酷な現実。自分との葛藤。ここまでの旅路も大変だったはずだ。


私は両腕でチェイルを抱き締めた。力一杯。


彼女は、残酷な現実も悩みも葛藤も悲しみや怒りも全部一人で抱え込んでいたんだ。その小さな体では抱えきれない大きなものを。きっと、何度も溢れだしそうになったはずだ。その度に我慢して一歩ずつ歩んで来たのだろう。


私は力一杯抱き締めた。大丈夫だよ。もう一人じゃない。そう伝えるように。

胸の中で彼女は泣いた。今まで抱えていたものかが溢れたように大声で。私も自然と涙が頬を伝った。


この娘を一人にしたくない。私がこの娘の支えになるんだ。私は一人心の中で誓った──────



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