災難~ゴロつきたちと白い粉塵~
さっきは、災難だった。いきなりぶつかられ、ソーレナの書には物騒な文が浮かび上がってきて。
まさかとは思うけど、面倒事なんかに巻き込まれないよね。平穏がこそが私の人生の指標だというのに、巻き込まれたらたまったものじゃないよ。
「着きましたよ、サキ様!」
セイラの前には、大雨が降れば倒壊してしまいそうなボロボロの民家が建っていた。暖簾には食堂とだけ書いてあった。
ガラガラッ──
「こんにちはー」
「いらっしゃい。おお、セイラか。久しぶりだな!」
セイラが挨拶すると、厨房にいる店主と思われる人物が挨拶を返した。ただ、店主の頭がトカゲだったので少し驚いた。
「おい、セイラ。後ろの女は誰だ?」
「勇者のサキ様です!」
「勇者?まったく、人間はすぐに面白いことを言いやがるなぁ」
「嘘じゃないですよぉ」
「まぁ何でもいいから、とりあえず席に座って注文決めてくれ」
そう言われ、席についた。メニューを見てみたがよくわからない食材の名前だらけだったのでセイラと同じものを注文した。料理が届くまでセイラに色々質問してみた。
「ねえセイラ、さっき話してたのってサラマンダーなの?」
「違いますよ」
「でも、トカゲじゃん」
「あれは、リザードマンですよ。サラマンダーなんて伝説上の生物ですよ」
「そうなんだ。ってことは他にも種族がいるんだ」
「そうですね。この世界には12の種族が混在しています」
「そんなにいるんだ」
「12の種族と言っても、例えばフェアリーなら『ピクシー』や『グレムリン』など地域によって様々な種類がいるので、もっと多いと思いますよ」
なるほど。やはり種族によって個体差はあるんだろうな。せっかく異世界に来たんだから、全種族には会っときたい。
「ほら、出来たぜ。」
「おぉ。ありがとうございます!」
注文した料理が運ばれてきた。パッと見た感じでは唐揚げ定食のようだった。
「勇者様、食べましょう!」
「そうだね。食べよっか」
とりあえず、何が使われているか分からないけど食べてみることにした。
サクッ────
「あっ。美味しい」
「でしょ、でしょ。美味しいでしょ、勇者様」
揚げ物は、匂いもクセもほとんどないので普通に美味しかった。味は鶏肉のようで、醤油のようなタレの味がよく染み込んでいてすごく食べやすい。
「ねぇ、セイラ。これって何の肉使ってるの?」
「これはですね、カマキリです」
「カマキリ?」
「はい。勇者様の国にはいませんでした?カマキリ」
「いやぁ、いたはいたよ。カマキリ」
嘘でしょ。知りたくなかった。別に虫が苦手って訳じゃないけど、衝撃的すぎるよ。でも、カマキリって大きくても精々15センチ位だよね。揚げられるってことはどんな大きさなのこの世界のカマキリって。
「すごく大きいんだね。カマキリって」
「こんなの全然大きくないですよぉ。」
「おい、セイラ。何言ってやがんだよ。」
いきなり、店主が会話に割って入ってきた。
「だって店長、いつもケチって小さいやつばっかり仕入れるじゃないですか」
「何を言いやがる、今日は大物を仕入れてきたんだぜ?」
そう言うと店主は厨房の前のカウンターにガラスで出来た籠のようなものをドンッと置いた。中には、鎌がパンパンに膨れ上がったヤシガニみたいなアンバランスなカマキリが群がっていた。
「全く店長は。大物って、これじゃ子供の虫取のほうがよっぽどいいの採れますよ」
「お前は酷いこと言うなぁ。全くよぉ、、」
店主が落ち込んだ。でも、これでまだ小さいってことは大きいやつってどれ位のサイズになるんだろうか。想像するだけで気持ち悪くなってきた。
しばらく食事をしたあと店をあとにした。店の外まで店主が見送ってくれた。
「このあとどうする?」
「そうですねぇ。もう日もくれているので今日は宿に泊まりましょうか」
「そうだね。じゃあ、また案内よろしくね」
「了解しました!勇者様!」
しばらく歩いていると、路地裏で柄の悪そうな三人の男が小さな子に言い寄っているのが見えた。やはり栄えている街の路地裏の治安って悪いんだろうか。
「あっ。」
思わず声が出た。あの小さな子、さっき私にぶつかってきた子だ。でも、面倒事に巻き込まれたくないのでそのまましれっと横を通り過ぎよう。
「あ、姉貴!助けてくれ!」
「あぁん?姉貴ぃ?お前、他に仲間がいんのか?」
まずい。姉貴って多分私のことだ。ここは、平常心で通り抜けよう。
「サキ様、姉貴って言われてますけどあの人知り合いですか?」
「さ、さぁ、、、、?しらないなぁ。人違いじゃない?」
「やっぱり知り合いなのか。よし、お前ら行ってこい!」
「「了解です!兄貴!」」
あ、これはダメなやつだ。追い付かれたらいけないやつだ。
後ろから迫る足音がどんどんと大きくなる。
「セイラ!走るよっ!」
「どうしたんですか?」
「いいから、早く!」
「わっ、分かりました!」
私は、セイラの手をとって走り出した。でも、ここの土地勘が全くないのでとりあえず闇雲に走った。
「待て、こらぁ!」
「止まれ、こらぁ!」
「何なんですかあいつらは?」
「分かんない!けど、とりあえず走って!」
人混みに出ればなんとか撒けるだろう。そう考えて私は賑やかな方に賑やかな方にと走った。
「サキ様、どうしましょう。行き止まりです!」
「えっ。嘘でしょ」
3メートルはある塀が目の前に立ちはだかっていた。これはさすがに登れない。万事休すってこう言うことを言うんだな。
「追い詰めたぞ、こらぁ!」
「堪忍しやがれ、こらぁ!」
「あわわぁ。どうしましょうサキ様ぁ?」
戦うか?いや、男二人に女がかなうはずない。
ダメだ。頭が廻らない。ここで終わるのかな、私の異世界生活って。
「おいっ!お前ら!────
振り返るとそこには、さっきの子がいた。
両手には火の着いた筒を持って。
「あぁ?なんだ?ってお前何もってんだよ!」
「ってあれ、爆弾じゃねぇのか!」
「あの子何持ってるんですか!」
「ば、爆発なんてしないよね?」
その子は、私たちの声を無視しておもいっきり筒を地面に叩きつけた。
ズドォォン!!──────
「「「「うわぁ!」」」」
大きな爆発音と共に、白い粉塵があたりに散らばった。
「くっそ、何も見えねぇ!」
「おいっ、あいつらを逃がすなよ!」
「こっち、早く」
「えっ」
私は、手を引かれ走り出した。
「ど、どこにいくんですか!」
「いいから、ついてきて」
しばらく走った。さっきから追われたり爆発したりと続いて、体力も限界に近かった。
「着いた。入って」
「入ってって、」
「このマンホールにですか?」
「いいから、早く!追い付かれるよ!」
「わかったよ、、」
私たちは言われるままにマンホールに入って行った。マンホールだけど、下水臭さは無かったのでスムーズに入ることが出来た。
パチンッ──
灯りが着く。
「よくきたなっ!大盗賊団ダーナ一味の隠れ家へ!」
少女は高らかに声をあげると、自慢気に腕を組んだ




