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共有・BL・インストール

「本当に、ドッキリカメラとか、何か仕込みとかないの?」


 少し味が薄くなったジンジャーエールを飲みながら、僕はアヌトロフこと雲雀(ひばり)珠加(すずか)に聞いた。


「ドッキリカメラって、いつの時代よ」

「じゃあ、ユーチューバー的な」

「この会話が英語だったらそれはありかもね」


 同じ夢を見る者同士の邂逅(かいこう)

 誰も信じないんじゃないか? 僕だってまだ半信半疑(はんしんはんぎ)だ。


「ところで、セパス君はどこまで見たの?」

「見たって?」

「夢に決まってるじゃん」


 最後に見たのはいつだろう? ここ最近見ていない気がする。


「えーっと、万能の書を探しにみんな国の外に散って、一時的に戻ってきて話を聞いてるところかな」


 王――セパスは「万能の書」を求めた。

 それは何でも願いを叶える。願いを叶えるための知恵を与える書、そんな位置づけだったと思う。


「万能の書、エトネパスね」

「なんかそういう話なかったっけ? 海外モノのファンタジーでさ」

「本を求める話は知らないけど。まあ、似たような話はいくつか思いつくかな。――夢を見るようになったのはいつ頃?」


 聞かれて記憶のクローゼットの扉を開けてみる。


「たぶん、夢自体は物心つく前から見ていたと思う。ただ、普通の夢と違うって感じたのは小学生とか、けっこう遅かったと思う」

「そっか、私も似たような感じだなあ。何度も同じ人たちが出てくるっていうのは不気味だなって思った」


 不気味。


 僕は夢をそんな風に感じなかった。

 ただ、車窓から見える景色を見続けるだけ。

 感動も何もなかった。


 夜、見上げた先にある二つの月が印象的だった。


「なんで、僕は君と夢を共有してるんだろう?」

「私は共有なんて持ってないな」


 そう言って、彼女は腕を組む。


「共有じゃなかったら何だって言うんだ?」

「まずね、」


 彼女は自分のスマホを持って、モニタをこちらに向けて言う。


「情報の共有っていった場合、同じ内容のメールが届く。クラスの連絡とか、部活の連絡とか」

「それと同じじゃないのか?」

「全然違う。そこでさっきの話に戻るけど、『視点』が現れる。セパスという人物の視線、アヌトロフという人物の視線。たとえば私と君でかなり濃いめのボーイズラブ映画を一緒に見たとする」

「ボーイズラブって、あの、本屋の隅っこに置かれた男同士が抱き合ってる表紙の本のこと?」

「略してBLと呼ばれてる」


 そこまで詳しくなりたくないんだけど。

 彼女は話を続ける。


「一緒に見たとして、私は内容にもよるけど(とうと)いと感じるかもしれない」


 男同士のイチャイチャが尊いってどういうことだよ?

 ボーイズラブって宗教なのか?


「でも、男である君が一般的な男子の場合、気持ち悪いと思う可能性が高い」

「うん、ちょっと想像する限り、感動するとは思えない」

「そこなの」


 スマホを元の位置に戻して彼女は言う。


「情報の共有は『配られる』というところで一度区切られる。私たちはその次の段階にいる」

「次?」

「同じものを見て、どう感じるか。そして、感じた結果、私は本屋に原作を買いに走る。君の場合は、カルチャーショックで寝込むんじゃない?」


 女子は尊いって思うのに男子はカルチャーショック受けるってどういうことだよ?

 残り少ないジンジャーエールをストローで飲みほしながら話を整理する。


「……僕らは、情報共有後の行動を夢の中でやっている」

「そういうこと。王は基本的にお城にいて、みんなの帰りを待っていたから、あまり城の外のことは知らないと思う」

「でも、他のみんながどこに行って、どんなモンスターに会ったかは……そうか、城でみんな集まった時に武勇(ぶゆう)を語りあって、それを聞いて自分が経験したような気になっていたってことか」

「それも情報共有よね。だから、他のメンバーの名前を知ってたりしてる。でも、その人物しか知らないこととかもあると思う」

「アヌトロフしか知らない情報とか?」

心情(しんじょう)とかね。感情は自分だけのものだから、戦った時に怖かったとか、こんなもんは()でもないとか、サマダは『怖くなかった』が口癖ね。だけどアイツ、実際は相当のビビりだと思うな」


 サマダというのは、筋骨隆々、オレンジ色の髪をモヒカン風にした男だ。

 サマダの場合、その重さで片道で馬がへばってしまい、あまり遠くまで万能の書を探しに行けなかったと記憶している。


 それにしてもだ――


「同じ世界の夢って言えばいいのか。なんでそんなもの見るんだろう? なんか、変な電波受信してるとか?」

「誰かに見せられてるとかって?」

「うん」

「アメリカならそういうのもアリなんじゃない? UFOに連れ去られましたとか」

「それで、例えばゲームのソフトを頭にインストールされて――」

「寝てる間にそのゲームをプレイしてるって? それはそれで面白い話ね。スピルバーグに脚本送ってみたら? あの人まだ映画作り続けるみたいだから」


 その監督自体がエイリアンとかって、何かの映画で言ってなかったか?


「私は純粋に『前世』の記憶だと思ってる」

「前世?」


 スマホでニュースサイトとか見てるとたまに出てくる、前世占いの広告。


「前世って、地球の衛星が二つあったなんて歴史でも科学でも教わったことないぞ」


 夜空に(またた)く星々と、二つの月。

 太陽と言っていいかわからないけど、昼に浮かぶ太陽に似た恒星の光を反射する二個の衛星。その二つの間には少し距離があるらしく、満ち欠けが微妙に異なっていた気がする。


「二十一世紀世代の発想がそんなに貧困(ひんこん)だなんて、そりゃ世の中には異世界作品ばかりあふれるよね。あと、イヤミスと泣けるホラー、人の死なないミステリー」


 もう何を言ってるのかわからない。

 「人の死なないミステリー」は本屋で見かけるようになった言葉だけど。


「こう言ったらなんだけど、異世界は少しアリかなって思ってるんだけどね」

「異世界?」


 バーチャルワールドに行って戦うアニメ、あれ結構好きだったなあ。


「私たちが見ている夢って、異世界での出来事だと思うんだ」


 紅茶も飲み終え、テーブルに頬杖をつきながら彼女は言う。


「異世界からの転生者。それがこうして前世の記憶を夢として見てるんじゃないかって、私は思ってるんだ」


 夢の中ではなんでもありだ。

 だけど今は真昼間だ。

 少し陽は(かたむ)いてるけど。


 白昼夢ではない。


 空になったグラスの冷たさは本物。


 夢オチなんて今更流行らない。それどころか批難(ひなん)の炎で燃やされる。


 ここ、本当に現実世界か?


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