深夜の「一件」落着
アヌトロフ>「では、王は誰に殺されたのか知っていますか?」
Say1223>「夢の中で王は突然死のように扱われていたと思う。だから、王が誰かに殺されたのだとして、私はそれを知らない。ただ、王の死は民には隠された。
燭台のメンバーと王の世話をしていた使用人にだけ、王の死を伝えられただけで、死んだ事実を隠し、蘇らせるための本探しが始まった、というかんじかな」
=ツグミ籠さんが入室しました=
ツグミ籠>「じゃあ、Say1223さんは時系列順に夢を見ていたということ?」
Say1223>「そんなことはないですよ。王が生きていた頃の夢も見たので。だけど、今までのやりとりを読んでると、王が死んだという事実と、本探しの理由を理由を知っているのは現段階で私だけということになるみたいですね。なので、イレギュラーといえば、イレギュラーかもしれない」
アヌトロフ>「サマダさんが、Say1223はオレックとしての夢をすべて見終わったと聞きましたが?」
Say1223>「もう何年もあの夢を見ていないので、たぶん見終わったんだと判断しました。私は本探しの途中で魔物に殺されて、城に帰還できなかったんです。夢の中での私の人生はそこで終わりました。
ただ、その後も何度か生きている頃の夢を見たのですが、頻度が少なくなり、今の状態です」
旅の途中で殺されて死ぬ。
その死に気づいた者はいるのだろうか?
僕の夢なんかよりもよほど酷い悪夢だ。
ツグミ籠>「じゃあ、俺が前に言っていたことがすべて覆されるね」
=サマダさんが入室しました=
サマダ>「みんな文字打つの早すぎてついていけない」
Say1223>「黙って読んでればいいじゃないか」
アヌトロフ>「サティソルクさんが前言っていたことって?」
ツグミ籠>「王はみんなに恨まれていた。だから十二の燭台のみんなが容疑者の可能性があるって。
だけど、その容疑者たちが王を蘇らせようって本を探してたんだから、たぶん、王の死は事故か何かだったってことにならない?」
サマダ>「先輩俺にだけ厳しくない?」
=ドクターパズルさんが入室しました=
ドクターパズル>「こんばんは。Say1223さん、初めまして、ゾヴの夢を見ている者です。
王の死が周りにふせられた、蘇らせようとしたということなら、王という存在はとても重要だったんだね。ゾヴも王に対して不満を持っているようだったけど、恨んでいるというかんじではなかったよ。
ツグミ籠君は早く寝ようね」
ツグミ籠>「いいじゃないですか、夏休みくらい」
アヌトロフ>「セパス君、さっきから静かだけど大丈夫?」
セパス>「大丈夫」
書き込めたのはその一言だけ。
夢の中で自分が死んでいた。
殺されたと思っていた。
そして、王を殺す動機を《十二の燭台》の誰もが持っていたという事実。
犯人探し。
それが、「王のために本を探していた」という事実で一瞬にして覆されたのだ。
心臓の高鳴りが治まらない。
みんなに殺されるほど恨まれていたわけじゃない。
だけど、それと同時に浮かび上がる新たな疑問。
――だったらなぜ僕は、万能の書探しのみんなの武勇を知っているのだろう?
ドクターパズル>「セパス君、まだ起きてるかな?」
セパス>「はい、少しみんなの話を整理していました」
ドクターパズル>「王の死に関してなんだけど、その時王が飲んでいたのはお酒で間違いないかな?」
セパス>「はい、テーブルに乗っていたのは酒瓶だったし、カップに入ってたのもお酒です。色のついた水があの世界にあったら話は別ですが」
ツグミ籠>「そういう水は出てこないね」
ドクターパズル>「ゾヴの記憶だと、セパス王は健康体だった。突然死という可能性も考えられる。突然死の多くは心疾患が原因なんだけど、それが過度な精神的ストレスで引き起こされる可能性もある」
セパス>「じゃあ、何かショックな出来事があって、お酒を飲んで気持ちを紛らわそうとして、その最中に死んだってことですか?」
ドクターパズル>「それも考えられなくはないんだけど、前に会って話をした時の内容で、王は眠るように死んでいたんだよね?」
セパス>「はい。苦しんだような気配はなかったです。本当に椅子に座ったまま寝落ちしたみたいに死んでいました」
Say1223>「それはおかしくないですか?」
オレックさんが口を挟んでくる。
Say1223>「私も自分が死ぬ夢を見ていますが、死んだ後の自分の姿を見てはいないです。あと、死んでからの出来事も夢では見ていません。
あくまでも自分が体験したことしか夢で見ていません。夢に個体差があると言われればそれまでですが」
オレックさんは僕の頭の中に浮かんだ疑問と同じことを書き込む。
この場合、考えられるのは、僕がセパス王ではないという可能性だ。
それにしたって、王に関する情報を多く持っている。
同じく、王に関する情報をたくさん持っているとしたら、ゾヴである猪野又さんということになるが、猪野又さんがゾヴ以外の誰かとも考えにくい。
第一、性格も姿も性別も夢の中で異なるのだ。
いくらでも、夢の中の誰かだと自分を偽れることは可能だし、誰も気づかない。
それこそSNSと一緒だ。
ドクターパズル>「その点も少し不思議なんだけど、王の死について少し思いついたことがあるんだけど、まずそれを話してもいいかな?」
Say1223>「大丈夫です」
セパス>「はい」
ドクターパズル>「もう一つ、セパス君に質問なんだけど、王が死んでいたその部屋の温度とか、季節とか、何か覚えていないかい?」
あの夢と他の夢との違いはリアリティだ。
香りを感じることもあれば、今聞かれた通り、寒さや暑さ、痛みなども感じる。
セパス>「季節はカーテンが閉まっていたのでわからないんですが、部屋が寒かったことは覚えています。それなのに、薄着に近い状態で、それでおかしいなって気づいたんです。
ただ酔って寝たとしても、近くにはすぐベッドがあったので、寒さで起きて布団にもぐりこむんじゃないかなって」
ドクターパズル>「そう、よほどの泥酔でなければ寒さで目が覚めて布団にもぐるね」
ツグミ籠>「でも、よく映画とかで、雪山で『寝たら死ぬぞ!』って。寒いと眠くなるんじゃないの?」
ドクターパズル>「寒いと眠くなるというのも間違いではない。ただ、雪山で意識が朦朧とするのは意識障害の症状なんだ」
アヌトロフ>「低体温症ってことですか?」
サマダ>「みんな頭良すぎね?」
ドクターパズル>「そう、僕もセパス王は低体温症で亡くなったんじゃないかって思ったんだ。突然死にもいろいろな種類があって、苦しまずにポックリ亡くなってしまう場合もなくはないんだ」
ツグミ籠>「低体温症って、ただ体温が下がるだけじゃないの?」
ドクターパズル>「低体温症っていうのは、体温が下がってから起きる症状のことを指しているんだ。低体温症を引き起こす要因として、周りの気温が極端に低いとか、お酒を飲むと体温が急激に下がるとか、色々あるんだけどね」
ツグミ籠>「それって、セパス王が死んだ状況とぴったりじゃん」
ドクターパズル>「そう、真夏でもお酒を飲んで泥酔して、クーラーの効いた部屋で布団もかけずに眠ってしまい、低体温症で亡くなるってケースもある。
セパス王が寒くて自分のベッドに行くことができなかったのは、たぶん、体温が三十度近くまで下がって意識障害を起こしていたからだろうね。まともに喋ることができないとか、歩けないとか。
この症状が現れて、何かしら手を施さないと体温は下がり続ける一方。三十度を下回れば失神状態。やがて不整脈が起こって、それが原因で亡くなる人もいるし、さらに体温が下がると生命の臨界点に達する」
Say1223>「つまり、セパス王の死は突然死に近いってことですか?」
ドクターパズル>「そうだと思う。検死ができないから、状況判断になってしまうけど。本当に低体温症が原因だったのか、それとも夢の世界特有の謎の病気が原因だったかもしれない。
ともかく、王の死は十二の燭台にとっては青天の霹靂だったんだ。だから、王を蘇らせようと万能の書を探したんだ」
ツグミ籠>「ひとまず、一件落着ってこと?」
ドクターパズル>「亡くなった王であるセパス君が私の想像で納得してくれたなら、落着だろうね。
とりあえず、もう遅い時間なんだから、若い子たちは早く寝ること。夏休みだからって夜更かししない」
猪野又さんのその言葉で、その場はお開きとなった。
しばらく、ぼんやりとソファに背を預けていた。
母親から、テレビの音量を下げなさいと言われ、ニュースが終わって、深夜バラエティーに番組が切り替わっていたことに気づく。
普段見ている番組でもなかったので、そのままテレビを消して自分の部屋へと引っ込んだ。
机の上には参考書やノート、筆記用具が乱雑に置かれている。
ローテーブルにはカメラと雑誌。
――僕は、本当にセパス王なのか?
自分の部屋を見渡しながら、自身に問いかける。