そして会いに来る
とりあえず、整理しよう。話を。
ツグミ籠ことサティソルクのお兄さんは、大学三年生。家がある埼玉県内の大学に通っているのだが、一人暮らしをしていて、夏休みや正月、あとはたまにフラッと帰ってくるのだそうだ。
大学三年生になり、ゼミに入った。そこで出会ったのがサマダだった。
サティソルクは、兄に夢の話をしていたそうだ。兄もそういう夢を見るのかと。答えは、ノー。
だが、弟が見る夢の話は覚えていた。
サティソルクのお兄さんはゼミの飲み会で、サマダの夢の話を聞いた。それが、弟の話と似ている。
サマダのほうもサティソルクに興味を持ち、夏休みを利用して、サティソルクのお兄さんにくっついて、彼の家に遊びに来たそうだ。
そして、彼が「サマダ」であることが発覚したのだ。
さらに、サマダはもう一人、同じ夢を見ている人を知っている。
早速、ヴォイシンクのコミューンに入ってもらったのだが、そこで泥酔してしまった、とサティソルクから連絡が入った。
――夢に出てくるサティソルクも、お酒でけっこう失敗するキャラだったなあ。
ディスカッションルームで話しをするのもいいが、埼玉から東京に出てくることは可能だろうか?
ツグミ籠>「サマダが行くとしても、俺は行かないよ」
アヌトロフ>「どうして?」
ラピュタが今年もバルスで盛大に崩壊した後、三人で軽く話をした。
アヌトロフ>「東京までとなると少しお金かかるか」
ツグミ籠>「お金は別に。ただ、あんまり外に出たくない。猪野又先生には外に出たほうがいいって言われてるけど」
アヌトロフ>「もしかして、不安症とか持ってたりするの?」
ツグミ籠>「猪野又先生から何も聞いてないの?」
アヌトロフ>「カウンセラーは個人情報を他人に漏らさないって。だから、君とはカウンセラーとクライアントって関係ってこと以外聞いてないよ」
ツグミ籠>「そうなんだ」
二人のやり取りに少し緊張する。
また喧嘩っぽい雰囲気にならなければいいのだが。
アヌトロフ>「それに、ネットではいいけど、実際に会うのは気が引けるって人は少なくないと思うし」
ツグミ籠>「サマダは今すぐ会いに行こうって勢いだったけどね」
それって、酒の勢いもあるんじゃないだろうか?
セパス>「それで、サマダが知ってるもう一人って誰なんだろう?」
ツグミ籠>「名前聞く前に寝ちゃったけど、ショックって言ってた」
セパス>「ショック?」
ツグミ籠>「夢と全然違うって」
それは、これまでに見つけ出した全員に言えることではないだろうか?
ノイセテスはわからない。
アヌトロフ>「とりあえず、サマダはわかったとして、もう一人は名前がわからない。それでも六人集まったってことかな」
セパス>「ほぼ半分か」
アヌトロフ>「まだ見つかっていないのが、ログルフ、スミナ、レプセヴ、サタノック、オレック、オンレーテ、オトネモヌ、かな」
ツグミ籠>「よく覚えてるね」
アヌトロフ>「ちゃんとメモしておいたから」
セパス>「すごい」
純粋な感想が漏れた。
コミューン「十二の燭台」。そこに新たに加わったメンバーの名前は「サマダ」。夢での名前そのまんま。
そもそも、ヴォイシンクのアカウント自体持っていなかったそうだ。
僕も、高校生になって友達に進められるまでアカウントを持っていなかった。
ソーシャルネットワークなんてそんなものだろう。
誰かに誘われて始める方が圧倒的に多いのではないのだろうか?
結局、きっかけは現実世界の人間関係。
その人間関係に興味のない人はヴォイシンクで誰かとつながりを持とうとしない。ニュースだってテレビから流れてくるものだったり、新聞で事足りる。
ツグミ籠>「俺、そろそろ寝る。今日はすごく疲れたから」
アヌトロフ>「お疲れ様~」
セパス>「おやすみ」
=ツグミ籠さんが退室しました=
アヌトロフ>「サマダさんは、どこまで夢を見ているのかな?」
セパス>「さあ?」
誰がセパス王を殺したのか?
でも、あの状況で毒殺だなんて気づく人がいただろうか?
夢を見てからだいぶ時間が経ち、僕は自分と切り離し、冷静に考えられるようになっていた。
一見して、彼はただ眠っているだけのように見えた。
だから、他の人も毒殺なんかではなく、心臓発作とか、何かしらの病気で死んだのだと判断するのではないだろうか?
あの時代、あの世界に死因を探る方法があったとは思えない。
「死因」という言葉は、雲雀から教わった。
自然死でなかったとして、どう処理されたのか、その部分だけでも見ている人が一人でもいればとっかかりがつかめそうなものなのだが。
そろそろ日付が変わる。
とりあえず「サマダ」がどこまで夢を見ているか、それから推理をしようということで、その場はお開きとなった。
単純なきっかけで、純粋に始まった仲間探しが、いつしか王を殺害した犯人を捜すための仲間探しと推理へと変貌してしまった。
純粋に、僕が見ていない、セパスが体験していない他のみんなの話を聞く方が個人的には楽しいんだけど。
午前十時、眩しさと熱気で目が覚めた。
だんだん太陽が地球に近づいているんじゃないかと思うほどだ。眩しいを通り越して目が痛い。
カーテンも夏の太陽光の前ではレースのカーテンみたいなものだ。
枕元のスマホを手さぐりでつかみ上げ、何かメッセージが届いていないか確認する。
すると、サティソルクからのメッセージ。
開いてみると「サマダが今日どこに行けばいいか? だってさ」と、顔文字も絵文字もないそっけない文章が届いていた。
本当に来るんだ。
少し呆気にとられながら、その文面を雲雀に転送した。
昨日酔いつぶれて寝たらしいが、メッセージの受信時刻は九時ちょっとすぎ。
「小学生みたいに元気だなあ」と盛大に欠伸をしながら感心した。