新たな仲間に滅びの言葉投下
やはり今年は梅雨明け宣言がなかった。
ジメジメした空気の中、一学期の終業式が行われた。
ステージに立った校長は、一年生には高校生になってハメを外さないように、二年生には受験の準備をがんばれ、三年生には受験勉強を本格的にがんばれといった。三分の二が勉強に関する話。
その後、高校総体で好成績を残した生徒の表彰式や、インターハイへ進む生徒の紹介が行われた。
生徒指導部からは夜遊びするな、ガチャを回しすぎるな、部活動をしている生徒は熱中症に気を付けろなど、いつもと変わらない内容だった。
クラスのロングホームルームで担任が語る内容も、集会で言われたこととほとんど変わらなかった。
三年生から部活を任された運動部の人たちは夏休み明けの新人戦に向けて夏は部活動に励むだろうし、文化部は文化祭に向けて本格的に動き出す。部活に入っていない人は予備校に通ったりするのだろう。
かくいう僕も、父親からやんわりと夏休み中だけでも予備校に通わないか? と言われた。
これまで僕の成績に興味がなかった父がそんなことを言ったのは、たぶん母親に言えと頼まれたからだろう。
「教育ママ」ではないが、スーパーなんかで幼馴染の母親から聞いたことをすぐに実践したり、僕に聞いてきたり、話してきたり。
まったく興味をもってもらえないのよりはいいけれど、正直なところ、僕には将来の夢というものがない。
なにか特別な才能があるわけでも、頭がいいわけでもない。
平凡。
だから、父親のようにサラリーマンやって、趣味でカメラとか土いじりをしたり、そんな未来を想像していた。
そう考えれば、大学も別に有名どころでなくともいいのだ。
わざわざ倍率の高い大学を受けて落ちるよりは、そこそこの大学に行ってそこそこの企業から内定がもらえればいい。
宿題も一年の時よりも多く出てるし、受験勉強は市販の参考書で済ませると、父親の言葉をやんわり断った。
その後、父は母になぜもっと強く言わないのかと、少し怒られていたみたいだけど。
今の時代、東京六大学と呼ばれるいわゆる名門を卒業しても、就職に有利かといえばそうでもないらしい。
企業が求めているのは、学歴よりも率先力。技術が求められる職場では、専門学校卒業生の採用率のほうが高いそうだ。
理由は、余計な知識を持っていないから。
変に雑学なんか身につけてて、先輩である自分よりも賢かったら嫌だ、というのが「社会人三年生の本音」と、前に髪を切ってもらっているあいだに読んだ雑誌に載っていた。
間近に迫った問題は大学受験。その後、留年しないように講義を受けつつ、就職活動。無事に大学を卒業でき、就職も決まれば晴れて社会人。そしたら今度は、就職先の仕事を覚えつつ働き、年金など、老後のことを考えなければならない。
両親だって、いつまでも健康とは限らない。
認知症、アルツハイマー症、そんなものにかかったら介護が必要になる。
そんな先のことまで簡単に予想できるというか、わかってしまう現代で、将来に対しどんな夢を抱けを言うのだろう?
「少年よ、大志をいだけ」なんて言葉があるけれど、高校生って少年に含まれるのか?
夏休みに入り、のんびり起きて、適当に宿題をこなし、カメラをいじったり、テレビをぼんやり眺める日々が続いた。
夏休みスペシャルと称し、八月いっぱい金曜ロードショーでジブリ映画を放送するようになって何年になるだろう?
第一週目は「天空の城ラピュタ」だった。
どうやら、数年前のバルスからの修復が終わり、またヴォイシンクで「バルス」発言でラピュタと、ヴォイシンクの日本サーバーを落とす日が来たようだ。
風呂上りに、リビングのソファに座ってぼんやりラピュタを見ていた。
「あんた、またラピュタ見てるの?」
次に風呂に入る母が着替えを手に、呆れ気味に言う。
「他に見るものないから見てるだけだよ」
「それもそうね。最近、ドラマとかも面白くないしね」
そう言い残し、母は浴室へと消える。
ああは言っているものの、新ドラマの第一話、二話あたりまではちゃんと見ているのだ。
――四十秒で仕度しなって、お前、鳩逃がしただけじゃん。その鳩、周りの農作物荒らすんじゃないか?
純粋な心を失った僕が辛辣なツッコミを入れていると、脇に置いていたスマホが震えた。
意外なことに、サティソルクのディスカッションルーム入室を知らせるものだった。
シータが囚われている基地だかよくわからない石造りの場所が盛大に炎上しているシーン。もう、空でセリフも言える。
脳内では、テレビのスピーカーから漏れる音に合わせて映像が再生されている。
ヴォイシンクを開いて、サティソルクの書き込みを読む。
=ツグミ籠さんが入室しました=
ツグミ籠>「もしかしたら、他の十二の燭台のメンバー、見つかったかも」
もしかしたら? かも?
セパス>「もしかしたらって?」
テレビではパズーがめっちゃ「シーター!」って叫んでるんだけど。
同時に、数式が頭に浮かんでくる。
「θ」ギリシャ文字のほう。
ツグミ籠>「俺、兄貴がいるんだけど、兄貴の大学の友達がいつも同じ夢を見てるって、お前と同じ夢なんじゃないか? って。八月に入って大学休みで家に戻って来てるんだけど、今それ言われたんだけど」
パズーが「おばさん!」って叫んでる。
ドーラの顔面に石が当たったのだ。
今、僕の頭にも石が飛んできた気分です。小石だけど。
セパス>「お兄さんに頼んで、その友達に夢の中でどんな名前だったか聞いてほしいんだけど」
というか、雲雀は今いないのか?
ツグミ籠>「サマダだって。めっちゃ酒臭い」
酒臭いってどういうことだ?
ツグミ籠>「兄貴がその人家に連れてきてお酒飲んでて、勝手に部屋に入ってきた」
「はぁ!?」
パズーとドーラの乗ったハエみたいな小さな飛行機が岩にぶつかりそうになるのを寸ででかわし、空に高く上る。
BGMが一変する。
セパス>「本当にサマダ?」
ツグミ籠>「サマダそっくりだよ。中身が。しかももう一人知ってるとか」
そんな調子いい話あるのか?
=アヌトロフさんが入室しました=
アヌトロフ>「バルス!」
雲雀さん、あなたもラピュタ見てたんですね。
それ、滅びの言葉だから。
せっかくサティソルクと打ち解けてきたんだから、それを壊すような発言はやめてください。