ミステリーというよりファンタジー
悶々とした気持ちは家に帰り、自分の部屋に引きこもっても続いていた。
あのまま撮影をする気にはなれず、「帰りながら撮影します」と言って、なかば逃げ出すように部室を後にした。
その間、章乃がトイレから戻ってくることはなかった。
夕食後も、適当にスマホをいじっていたが、なかなか集中できず、ベッドに倒れ込む。
この気持ちを罪悪感といいのか、どうしたものか。
突っ伏したまま、このまま寝てしまおうかと思った時、スマホが震えた。
しばらく無視しようかと思ったが、ローテーブルの上に置いていたそれをつかみ上げる。
雲雀からのメッセージを伝える表示。
そういえば、夢のことで話しするということをすっかり忘れていた。
同時に、章乃とのやり取りが思い出される。
――だったらなんだと言うんだ。
学校にカウンセリングルームがある。保健室登校というものがある。
だったら、高校生が精神的に思い悩むことは案外普通のことなんじゃないか?
章乃に対しての反論ではなく、世の中全体に対しての意見だ。
実際、そんな相手とどう接したらいいかわからないけど。
アプリを起動させてメッセージを表示する。
――今時間大丈夫?
その一文に、スマホの上隅に表示された時刻を見る。
午後八時半を回ったところだ。
「大丈夫」と一言だけのメッセージを返す。
――とりあえず、ゾヴとだけ話そうと思う。
――何を話すんだ?
――まず、一人二役じゃないか率直に聞く。あっちも私たちのこと、一人二役だと思ってるかもしれないから、君のことを詳しく話したいんだけど、大丈夫?
――別に構わないよ。
それで相手が信じてくれるかはわからない。
こちらも、ゾヴが「一人二役ではない」とメッセージで伝えてきたとして、嘘か本当か確かめるすべはないけど。
一階から、母親が風呂に入れと言ってくる。
――やりとりは雲雀に頼んで大丈夫か? 親が風呂に入れって。
――うん、大丈夫だと思う。ゾヴからすぐに返信があるかわからないから。
――それじゃあよろしく。
――了解。
その一言を見届けて、スマホを手放す。
それにしても。
いまさら気づいたのだが、夢の中での殺人事件を、雲雀はどうやって解こうというのだろうか?
ミステリーに関してはまったくの素人だ。
トリックとかアリバイとか、それくらいの単語しか知らない。
セパスの殺害にトリックがあったとして、どうやって再現する?
アリバイ確認なんて可能なのか?
ミステリーと言うよりはファンタジーだよな。
そう思いながら、部屋を出る。
*
――ゾヴさんが直接会おうだって。あっちも仕事があるから、日曜日くらいしか会えないって言ってるけど、どうする?