表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/39

そして謎解きは始まる

 誰が殺した駒鳥の雄を

 誰が見つけた死んだのを

 誰が取ったかその血を

 誰が作るか死に装束を

 誰が掘るかお墓の穴を

 誰がなるか司祭になるか

 誰がなるか付き人になるか

 誰が運ぶか松明を運ぶか

 誰が立つか喪主に立つか

 誰が担ぐか棺を担ぐか

 誰が運ぶか棺覆いを運ぶか

 誰が歌うか讃美歌を歌うか

 誰が鳴らすか鐘を鳴らすか

 

 空の上からすべての小鳥が

 ためいきをついたり すすり泣いたり

 みんなが聞いた 鳴り出す鐘を

 かわいそうな駒鳥の お葬式の鐘を



   *


「それで、気分は大丈夫なの?」


 雲雀はいつもと変わらない口調で聞いてきた。


 セパス――僕が死んだ夢を見て、僕はその場の勢いでアヌトロフ――雲雀にメッセージを送った。

 さすがに夜に迷惑だと思ったけれど、寝ているならそれで構わない。

 僕が飛び起きたのは午前二時半。いわゆる(うし)()つ時だ。


 雲雀からの返信はなかった。

 しばらく恐怖で寝付くことができなかったが、自然と(まぶた)が降りてきて、次に気づいた時、手にしたままのスマホが、起きる時間を知らせるアラーム音を鳴らしながら振動していた。


 そして、雲雀からの返信があった。


――君自身は死んでないから。大丈夫だから。


 たった一文。


 それでも、起き上がって学校に行くには十分だった。

 いつものように支度して、朝食を軽く胃に入れて、人の多い電車に揺られて、他の生徒たちと一緒に歩いて、学校にたどり着いた。


 雲雀と直接会って話をしたのは昼になってからだ。


 昼休み、保健室で待ち合わせた。


 いつもは購買部か、通学途中にあるコンビニで適当に昼食を買うのだが、買ったのはスポーツ飲料一本だけ。

 空腹感はあるのだが、どうしても何かを口にする気にはなれなかった。


 保健室には雲雀と医務の先生がいた。

 ちょうど、自分たちの親くらいの歳の女性の先生だった。


 保健室なんて、年度初めの健康診断くらいの時しか来ることがなかった。


 談話用のスペース。


 並んだパイプ椅子に、僕らは座った。


 雲雀の膝の上には、親が作ったであろう、小さな弁当。

 女子の弁当箱って本当に小さい。


「私はそこまで見てないんだけど、そのうち見ることになるのかな?」

「王が死んでるところ?」

「うん」


 端から聞けば、漫画か何かの話だ。


 校内で二人きりで話しをするというのは意外と難しかった。


 場所がないのだ。


 どの教室も喫煙という非行防止のためと、貴重品や壊れやすいものが置かれているという理由で鍵がかかっている。

 鍵がかかっていないのは、僕らが普段使っている教室くらいだ。


 部室は部室で、昼休みは三年生が自由に使っている。


 ここで誰かが入ってきたら、付き合ってるって思われるのかな?

 座っている位置はカーテンで仕切られていて、入口からは見えないけれど。


「自分が死んだような気持ちになったよ」

「……それは、嫌だね」

「なあ、セパスって何か病気を持っていたとか、そういう話はなかったよな?」


 一口サイズのおにぎりを頬張(ほおば)りながら雲雀は頷く。


「うん、王の健康管理、というか《十二の燭台》全員の健康管理はゾヴの役目だったし、死に至るような病を抱えてたとして、ゾヴが治療してなかったなんてことはないと思う」

「でも、突然死ってあるじゃないか。最近よくテレビで予防法とかやってるけど」

「だとして、どういう死因だったかだよね。――お昼、食べなくていいの?」

「う、うん……、いくら夢とはいえ、自分が死んでるとかショック大きすぎるから」

「あまり気にしすぎないほうがいいと思うよ。私も人のことは言えないけど」


 そう言って、紙パックのオレンジジュースのストローで吸う。「やっぱり、なんで死んだかだよね」


「僕は……」


 目覚めてすぐに思ったこと。


「僕は、殺されたと思った」

「どうして?」

「なんでかはうまく説明できないけど、なんか、自然すぎてさ。そこが怪しいっていうか」

「ミステリーとか好きだったりする?」

「二時間ドラマっていうのか? あの、よく崖で犯人説得するとか、ああいうの以外はテレビでやってれば見るかな」

「サスペンスもの以外ってことか。なんだか本格か、新本格ミステリーっぽいね」


 そう言って、雲雀は笑う。


「なにそれ?」

「私はミステリーとか読むけど、うまくは説明できないかな。要はガチなミステリー」

「ガチか」


 僕はガチで殺されたのか。


「ところで、殺人だったとして、その部屋は密室だったの?」

「その部屋っていうか、セパスの寝室だけど……鍵なんてなかったんじゃないか? 鍵ったって、あの時代だと閂みたいなものだろ」

「私も夢で鍵を見たことがないなあ。だったら密室殺人ではないのかな」


 本格とか、新本格とか、今聞いたばかりの言葉だけど、「密室殺人」とか言われると、「本格っぽいな」って思う。たぶん、僕が思っているのと全然違う意味なんだろうけど。


「あと覚えていることは?」

「テーブルの上に酒瓶と杯が乗ってたことくらいかな」

「だとしたら毒殺の件は考えられるかな?」

「いや、漫画で読んだ知識だけど、銀食器って、毒物に反応するんだよな?」

「そういえば、王様の食器は全部銀製だったっけ。そのカップには異常はなかったの?」

「……うん、なかったと思う」

「はっきりしてよ。じゃないと犯人を捜せないじゃない」


 雲雀は弁当箱を片付けながら言う。


「犯人?」

「殺人事件だとしたら、必ず犯人がいる。事件なんだから。犯人がいないのだとしたら事故」


 なるほど。


 でも、誰がなんのために?

 こういう場合、財産目当てとか。でも、ノイセテスとセパスの間に子供はいない。だから相続云々という話ではない。

 他の誰かが――


「あのさ、犯人がいるとして、怪しい人って――」

「容疑者のこと?」

「それ。その容疑者に《十二の燭台》も含まれるんじゃないのか?」


 相手は王だ。そう簡単にお目通りが叶う相手ではない。

 だから、犯行が可能だとしたら城にいた人物ということになる。


 城に出入りできる人物は限られてくる。


 それは城で働く者たち、そして《十二の燭台》。


「つまり、私も容疑者の一人ってことね」

「いや、悪気があって言ったわけじゃ」

「そんなのわかってるよ。ただ、私はそこまでまだ夢を見ていない。だから、もし私が犯人だったら、その時はちゃんと謝るから。それで許してもらえるかわからないけどさ」


 そう言って、雲雀は小さいトートバッグに弁当箱を入れる。


「そうだ、あの……ノイセテスで、……ごめん」

「だから、君は何も悪いことはしてないし、言ってないんだから謝らなくていいってば」


 笑う雲雀は本当に気にしていないようだが、僕の方は簡単にメッセージを返せないほど悶々としていたことは事実だ。


「とりあえず、仲間探しは継続で決まりだね」

「え?」

「このままだと寝覚めが悪いでしょ」

「寝覚め?」


 何のことだ。


「誰がセパスを殺したのか。どうやって殺したのか。情報収集しなきゃダメでしょ」

「でも、僕はそれで誰かを責めたいとか、そういうわけではないから」

「私だって誰かを責めたいわけじゃないよ。だけど、これが私たちが夢を見ている理由にならない?」


 理由?


「たぶん、セパスの夢の終着点は死。君は真実を何も知らない。それを知るために今に生まれ変わったんじゃない?」


 知って、その後はどうするんだろう。


 その疑問は心の中に留めておいた。


 夢の終着点。


 だとしたら僕はこれ以上、夢を見ないということだろうか?


「もう一度、ゾヴとサティソルクにアプローチをかけよう。そして、他の仲間も集めて、謎解きしよう!」


 前世の自分。


 前世であったとしても、僕にとっては他人に近い。

 だけど、十年以上、彼の視点で夢を見てきた。だから、簡単に彼の死を切り捨てることはできなかった。


 この謎が、現世に受け継がれた謎であり、解くために夢を見せられたというのならば、解くしかないんだろうなあ。


 午後の授業の予鈴が鳴る。


マザーグース「誰が駒鳥殺したの」原題「Who Killed Cock Robin」より一部引用


ブックマーク、評価点ありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ