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ドクターパズル

――「十二の(しょく)(だい)」を知っている人を探しています。


 《本とかゲームを探しているなら「探してます」コミューンに行くといいよ》

 《聞いたことない》

 《合言葉かなにか?》

 《なんでも知ってる人ー! ここですよー!》

 《知らん》

 《何かの企画だったりする?》

 《知らないなあ》

 《知らない》


   *


――今日の放課後、(ひま)


 雲雀からメッセージが届いたのは六月中旬、雨が降るんだか、降らないんだか、よくわからない曇り空の昼休み。


 昼食を終えて、クラスメイトの一太とスマホゲームの攻略について話をしている時だった。

 もうそのステージ自体は攻略していて、話の内容はもっぱら「どんなメンバーで行ったか」


「お塩って課金してないのになんでそんなにくじ運いいんだよー。俺なんてギリギリまで課金してもいいの全然でないんだぜ」


 一太はゲームのキャラクター一覧を開き、レアリティ順にキャラクタを表示したり、ガチャ画面を開いたりを繰り返している。


「自分でくじ運良いって感じたことないけどなあ」

「宝くじとか挑戦してみろよ」

「当たったらそのお金で課金するとか?」

「それはちょっと試してみてぇな」


 そんなくだらない話をしていたら、突然スマホが震えた。


 昼休みにメッセージを送ってくるとしたら、同じ写真部員の誰かか、雲雀と相場が決まっていた。

 案の定、雲雀からのメッセージ。


 梅雨の時期は、写真部の活動も停滞期(ていたいき)に入る。


 さすがのカメ林――松林さんもお目当ての野球部が室内練習になるので、撮り貯めた写真を部室のパソコンで現像するか、放課後にカメラショップに行ってレンズを試したり。


 他の部員も例にもれずだ。


 部室はパソコン、モノクロ現像組で飽和(ほうわ)状態(じょうたい)になるし、今の時期は全体的に部員の士気が下がる。


 中間考査を終えて気が(ゆる)んでいるということもある。


 三年生たちは模試の結果から部活動と受験勉強の両立のためのスケジュールを組むことになる。


 運動部の三年生たちは六月末から七月にかけて行われれる、総合体育大会でインターハイに進めなければそこで部活動は卒業だが、文化部の場合は十月の総合文化祭と、学校が行う文化祭まで活動は続く。

 バリバリの進学校の場合、文化祭も一学期のうちに終わらせてしまうそうだが、うちの高校はそこまで進学に力を入れているわけではないので、文化祭は他の学校よろしく、十月の開催だ。


 二年はその後、修学旅行もある。


――暇だけど。またどこかに行くの?


 一太と話をしながら、短く返信する。

 雲雀と会う時は基本的にどこかに連れて行かれる。


――どうしようかと思ってるんだ。学校のコンピュータ室だと(さわ)げないでしょ。

――そうだね。


 第一、使用申請が面倒くさい。


――じゃあ、ネットカフェとかは? 駅前の。


 ネットカフェ……、女子高生と? 二人で?


「……いやいやいやいや、やましい気持ちなんてない」

「どうした、お塩?」

「いや、なんでもない」

 

 そうだ、ネットカフェでデートしてる高校生なんて普通にいるじゃない――だから、デートじゃない! 決してデートではない。


――いいけど、少し遅れるかも。

――わかった。


 雲雀のメッセージを見ながら思う。


 彼女は、僕と行動を共にして、付き合ってるとか、同じ学校の生徒に誤解されるとか、そういうのを気にしていないんだろうか?


 僕が自意識(じいしき)過剰(かじょう)なだけか?


 写真部でさえない僕が雲雀みたいな女子と付き合えるわけがないじゃないか。

 はっきり言って、雲雀珠加はかわいいというか、美人な方に部類に入るだろう。

 一方の僕はさえない方。スクールカーストの上でもなく、下でもない。中途半端な立ち位置。


 まさに凸凹コンビ。


 一緒に歩いていたとして、幼馴染か何か、一緒に歩いているのはそういう風に見えるだけで勘違い。行き先がいっしょなだけだって、ほとんどの人ならそう思うだろう。


 雲雀に対し、猛烈(もうれつ)な恋心を抱いている男子がいるとしたら、「なに並んで歩いてるんだよ」って誤解で胸倉つかまれている自分の姿が簡単に思い浮かぶあたりが悲しすぎる。


 放課後、ネットカフェが入っているビルのエスカレータに乗って三階で降りると、スマホをいじる雲雀の姿がすぐに目に入った。

 スマホをいじる彼女はいつも話している「雲雀珠加」とは思えないほどの無表情だ。


「ごめん、遅くなった」


 ごめん、知り合いとのエンカウント率さげるためにトイレの個室に(こも)って時間つぶしてました。


「気にしないで」


 うわ、デートの待ち合わせ会話のテンプレかよ。


「ところで、ここの会員証持ってる?」

「一応」


 このネカフェは名前の「ネット」という部分よりも、漫画をたくさん置いていることから、もっぱら読書のために利用している。

 大切なことは漫画で学んだ。そういう世代だ。


「じゃあ、君の会員証でダブルの部屋って頼めるかな? もちろんお金は折半(せっぱん)で」


 以前、飲み物をおごると言った時、僕が断ったのを覚えているのだろう。


 カウンターで使用時間や部屋のタイプを選び、学生証を提示する。

 その間、雲雀はらしくもなく、キョロキョロと辺りを見渡していた。

 もしかしたら、自分で指定したものの、ネットカフェとかあまり利用したことがないのではないだろうか?


 部屋番号が伝えられ、係員が部屋の場所やフリードリンクの場所を説明しながら明細書を渡してくる。


「雲雀って、実はこういうところ初めて?」

「新宿で一回だけ入ったことあるけど、ここはすごく綺麗だなあって」

「なるほど」


 新宿駅前のネカフェは終電を逃した酔っ払いだとか、ネカフェで暮らしている人とか、なんかもう色々カオスで、清掃するのも大変だし、どこからが喫煙で禁煙かもわからないほど空気が(よど)んでいると聞いたことがある。


「でも、女子高生一人で新宿のネカフェとか、すごいな」

「なにが?」

「いや、なんか怖い人とかいそうじゃん」

「変なことされたらすぐにスタッフに言えばいいだけじゃん」


 世の中には素直に痴漢被害を訴えることができない人もいるというのに。


 フリードリンクコーナーでコーラをカップに注ぎながら思った。

 ――ということは、痴漢行為で電車通学が苦になったというわけではなさそうだな。


 雲雀は、クーラーが効きすぎて寒いのか、ホットのミルクティーをマグカップに注いでいた。


「寒かったらブランケット係員から借りてこようか?」

「大丈夫、バッグにベストが入ってるから」


 女子のバッグって、本当に何でも入ってるんだな。

 他の女子生徒はすでにブレザーではなく、ニットカーディガンなどを着ているが、雲雀は真面目にブレザーを着続けている。


 それぞれの飲み物を手に、指定された部屋へ。


 部屋といっても、ただ壁で区切られているだけで、背が高ければ隣の部屋なんて簡単に覗きこめる。

 だからといって覗き込む人はほとんどいないと思うが。


 扉を開けると、二十二インチ程度の大きさのモニタが二つ、低いテーブルの上に並んでいた。


 俗にいうマット席だが、自分で選んでおいて「今日の靴下穴開いてないよな?」と不安がよぎる。


 これじゃあ、自分の家に雲雀を招いたか、雲雀の家に自分が招かれたとか、そんなシチュエーションじゃないか。

 雲雀は僕の脳内妄想などお構いなく、小声で「失礼しまーす」と言って、靴を脱いで左側の席についた。


「ところで、今日の用事ってなんなんだ?」


 柔らかいマットにもたつきながら、雲雀の隣のパソコンモニタ前に座る。


「それは見てからのお楽しみ」


 そう言いながら、雲雀はスリープ状態だったパソコンを起こし、ネットを起動させる。


 軽快にキーボードを叩いてヴォイシンクを検索から拾い上げ、ログインする。

 もうOLになれるんじゃないかってくらいタイピングが速い。実際、OLが高速でキーボードを叩いている姿なんて想像できないけど。


 そもそも、パソコンの扱いに長けた女性なんて二次元の中でしか見たことがないことに気づいた。


「雲雀のページ、見てもいいのか?」

「見てもらわないと困る」


 雲雀はヴォイシンクの個人メッセージページを開き、一つのアカウントとのやり取りを僕に見せる。


「……ドクターパズル?」


 それが雲雀――アヌトロフにメッセージを送ってきた人物の名前だった。


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