コミューン「十二の燭台」
◆
私は王に対して特に興味を持っていなかった。
忠誠心がなかった。
ただ、王から与えられた領地を守るだけ、それだけだ。
王よりも領地や領民たちを思った。
だが、やはり王という存在は大きい。
良い王であっても、悪い王であっても。
王の采配一つですべてが決まる。
民の生き死にもだ。
不作が続いた。
私の領地以外の十一州も同様だ。
隣接する州の領主であったサティソルクと共に城の玉座の間へと向かった。
――今年、領民から税として作物を例年通り取り立てては今年の冬は越せますまい。
私の言葉に、王は怒るわけでもなく、不快を示すわけでもなく、いつも横にいるゾヴに向かい、どうするべきかと尋ねた。
その瞬間、私の中から怒りが沸き起こった。
忠誠心を持たない私にも、≪十二の燭台≫に属していても周りから「火を持たぬ男」と言われた私にも、燃える蝋燭はあったのだと、その時思い知った。
ゾヴに問わなければならないことなのか?
己一人では何も決められないのか?
私には忠誠心はない。
親の跡目を継いだだけだ。
だが、はっきりと、目の前の男は王にふさわしくないと思った。
「ログルフ、王のことであまり熱くなるな」
王城を出て、それぞれの馬に乗った時、サティソルクは言った。
「あの方は即位された時からああなのだよ。陛下は先王が亡くなり、右も左もわからぬまま、玉座を与えられたのだ。それで、何をするにもゾヴ殿の言葉が必要なのだよ」
そう言い残し、彼は己の領地に戻っていった。
それでよく、今まで国が持ったものだ。
ここは他国と隣接していないうえ、肥沃な土地とも言えない。
だからといって、攻め入られないという保証はどこにもない。
その前に、内側から腐っていく果実になるか。
◆
店の前で雲雀と別れて、家に着いたのはいつもと同じ時間。
ずいぶんと長い時間話していたんだなあと、帰ってきて早々、ブレザーも脱がず、ベッドに倒れ込み、スマホが表示する時間を見て思った。
アヌトロフ――雲雀珠加は言った。
僕たちが見ている夢は前世の記憶。
本当にそうだろうか?
やっぱり、昔テレビか何かで見た話を思い出しているだけじゃないのだろうか?
だけど、あんなにも正確に夢の登場人物の名前を覚えていられるものだろうか?
幼い頃、両親と一緒に見た、記憶に残る映画のいくつかを思い出してみるが、どれも断片的な映像で、そのタイトルも思い出せない。
一方、夢のほうはしっかりと覚えている。
他の夢は起きたらすぐに忘れてしまうというのにだ。
ベッドにしばらく突っ伏していると、スマホが震えた。
見ると、アヌトロフからのメッセージ。
――他にも仲間がいるんじゃないかと思って、ヴォイシンクのコミューン作ってみた。
短い文章と一緒に、コミューンへのリンクが張られていた。
親指で、本文とは違う色の半角の文字の羅列をタップ。
<このコミューン参加にはコミューン管理人の許可が必要です>
自分から送っておいてなんだよ。
そう思っていると、すぐに管理人であるアヌトロフからメッセージが届く。
――≪十二の燭台≫が探しているものの名前を答えよ。
なるほど。
このコミューンに参加できるのは、あくまでも「同じ夢」を見てる人に限る。
本当に仲間探し用のコミューンなんだな。
――万能の書、エトネパス。
それだけ書いて送ると、ヴォイシンクのほうから<コミューン参加が承認されました>とメッセージが送られてきた。
コミューンの名前は「十二の燭台」。
夢の記憶が正しければ、僕は王様。
僕は燭台の十二人のうちの一人ではないんだけどね。
現在のメンバーは二人。
それだけ見て画面を閉じた。