「物語の強制力」の威力、執筆側編。
物語の強制力。悪役令嬢物をよく読む読者さんには見慣れたワードだと思います。
このジャンルに触れてない人に、にわかものながらに簡単に解説すると、
悪役令嬢物のテンプレート設定で、「『主人公が今いる劇中劇』のシナリオ」が、
人物の意志や現在の関係性を無視して、主人公たちの状況を
強制的に劇中劇の流れへとシフトさせにかかって来る
と言う、なんともややこしい現象のことです。
ちょっと毛色は違いますが、こんなような現象に以前遭遇したので、
それについて語ろうかと。
こちら、俺が執筆してる時に起こったことでした。
ので、なんとか抗うことに成功しましたw
まさに、「その時不思議なことが起こった!」
内容が、ちょっと「きょうのでんぱ」的ではありますが。
今なろうに掲載してる文章といっしょに載せるので、すごく長くなると思われます。
ご了承ください。
これは拙作、ちみしょこと「地域密着型異世界召喚譚」の終盤も終盤、
ほんとに終わり際を書いてる最中に起こりました。
その文章がどう違うのか。以下が、その比較です。
二度乱入を試みて来まして、
一度目は、元の世界に戻って来た明斗と碧が、
高校の入学式を終えて学校から出る直前の場面。
以下、なろう掲載中Ver。
「神尾君」
「おう、どうした稲妻?」
放課後である。睡眠導入式やらなんやらかんやらを終え、
まだ午前中だが放課後である。
幸い俺達は同じクラスだった。以前からの友人がいるのは、
始まったばっかの高校生活では心強い。そこだけに固まる可能性もあるけどな。
特に俺と稲妻は異世界を行ったり来たりできるって言う、とんでもない秘密の共有者だ。
余計固まりそうだぜ。
「あの、なんか。わたしたち、注目されてませんか?」
そう。こいつは人見知りである。注目されたりってことには慣れてないし、好きではないらしい。
俺も好きとは言えない性質だけど。
だからだろうか、サクサクと教室を出ようとしてるので慌てて後を追う。
「俺達? 稲妻ならわかるけど、俺もか?」
「はい。ひそひそ声が、わたしと神尾君セットで語ってるんですよ」
人見知りってのは、人の目を気にするからなのか、そういうことには敏感らしい。
「気のせいじゃないのか?」
「いえ。『さっきの会話聞いてたんだけどさ。あの二人、神尾明斗と稲妻碧だよな?』って聞えました」
今の似せる気のない誰かのものまねはいったいなんだよ?
「サラちゃん並みに耳いいな。ひそひそ話だろ、それ?」
昇降口に付いた。配置があいうえお順らしくて、
俺と稲妻の靴箱の位置が近い。
「はい、ちょっと大きめだったので聞こえただけですよ」
「そういうもんかな? しっかしセットねぇ。俺、そんな
注目されるようなことやったことないぞ、中学時代含めても」
昇降口を出ながら言う。
「いえ、神尾君かっこいいですから注目されてもおかしくn ってなにいってるんだろわたしっ」
いきなり真っ赤になってあわあわし出した。あっちじゃ鳴りを潜めてたけど、
こいつこうやってよく赤くなるんだった。なんか俺と話してる時限定らしいんだよな。
なんでだろ?
ちょうど校門を出たところで。俺達は奇妙な物を目撃することになった。
ここからなろう版では、モブどもにいろいろ言われて連中をタックルで一人弾き飛ばして逃亡します。
で、一方の強制力Ver(仮)を、おぼろげな記憶プラスアルファで。
これを、こうして書こうと思ったの、もうずーいぶんと前ですので。
そして、こうして公開に至るまでに更に時間が経っていると言う無駄情報w
乱入されるより前は同じなので、大部分をカットさせていただきます。
「そういうもんかな? しっかしセットねぇ。俺、そんな
注目されるようなことやったことないぞ、中学時代含めても」
昇降口を出ながら言う。
「いえ、神尾君かっこいいですから注目されてもおかしくn ってなにいってるんだろわたしっ」
いきなり真っ赤になってあわあわし出した。あっちじゃ鳴りを潜めてたけど、
こいつこうやってよく赤くなるんだった。なんか俺と話してる時限定らしいんだよな。
なんでだろ?
「見つけましたわよ、神尾明斗 稲妻碧っ!」
昇降口を出かかったところで、いきなり背後からでかでかと名前を呼ばれた。
それも俺と稲妻セットで、しかもフルネームだ。
「なんだ?!」
そりゃ振り向くだろ、こんな「ここであったが百年目」みたいな言われ方したら。
俺が振り返った先には、両手を腰にやって立っている女子の姿があった。おそらく声の主だろう。
「あの、なんですか? わたしたち、そんな恨まれるようなことしてませんよ?」
明らかに困惑した稲妻の切り返し。それに俺は、
うん うん、と声に出すのと同時に頷いた。
「お二人がつけている、その竜のブローチをいただきたいのですわ」
「突然なんだ、藪から棒に?」
「お二人は、それで世界を行き来しているのでしょう?」
「……なんで、知ってるんだ?」
「生放送で流れてましたわよ」
「あんの女神……!」
「と、ゆ う わ け で。その、世界移動アイテム、わたくしにくださいな」
「断る」「いやです」
踵を返して走り出す。
だが。走り出してすぐ、俺達は止まることになった。
“以下、なろう掲載Verと同じ流れではあるものの、上記女子の台詞に合わせてちょっと加筆修正”
「なんだ、あいつら? こっち向いて、ずらーっと横に並んでるぞ?」
「明らかにこっち見てますっ」
「俺の後ろは避難所じゃねえんだけどな……」
苦笑するしかない。
「あいつだ! リア充の上に異世界でハーレム築いた男の敵!」
誰かが叫んだ。
「視線がバッチリ俺に向いてるんだけど。って言うか異世界ハーレムだと?!」
「今さっきの言葉を考えると、もしかして。神尾君の様子、
ずっと動画で流れてたんじゃ?」
「最初から最後まで配信されてたって言うのかよ? いや、あるいは最初と最後だけかもしんねえか。
いや、どっちみち納得の行く話じゃねえって!」
「このハーレム野郎がサラたんにお兄ちゃんって呼ばれる権くれ!」
別の誰かがいきり立っている。
「言ってる事がわけわからん」
「アイシアたんにさげすまれたいので銀の竜ください!」
「絶対にやらん。って言うかんな理由であっち行ったら
お前ら間違いなく死ぬぞ」
「猫様に蹴られたいので銀色の竜を!」
「絶対にあげませんっ!」
なんだこいつら、アホと変態の集まりか!?
「アオイたんペロペロさせてください!」
「ひいぃっっ!」
稲妻のこのしがみつき方。これ、ベクターへのガチ恐怖と同じだぞおい……。
「お前らあんまふざけてると押し通るぞ」
すごんでみたら。
『異世界ボケしやがって! 異世界の身体能力のままなわけねえだろ! 押し通るのはこっちだ!』
これである。
「同時に言う台詞の長さじゃねえだろ!」
『ウオオオオ!』
「って突っ込んでくんな変態ども! 稲妻、掴まってられるか。つっきるぞ!」
「は、はいっ!」
返事を確認して、俺は駆け抜けた。
『ウワアアア!』
一人弾き飛ばせれば充分。俺達の勝利だ!
『バカな! あの野郎、化け物かっ!』
ってことだ。こいつらの予測は見事に大外れだったわけだ。
「だから同時に言う台詞じゃねえだろって!」
連中に突っ込みを入れながらそのまま走る。あれこそまさにケダモノだろうな、と思うよ うん。
「神尾君、どこまでいくんですかっ、けっこうついていくの大変なんですけどっ」
ガッチリとしがみついたままでそういう稲妻。
「おっと、そうだな」
速度を落としながら続きを伝える。
「今朝の公園までとりあえず行く。おk?」
「あ、はい。おkです」
そのままジョギング気分で目的地まで走った。
これが乱入されたVerです。とはいえ、俺が鮮烈に記憶にあったのは「見つけましたわよ」の台詞の部分だったりはするんですが。
んで、モブどもが通せんぼしてるのは、この女子の差し金だったって状態だったんですよね。
で、二度目は上記の目的地へのランニング中、背後にこのお嬢様が現れると言う物で、
ダッシュで追撃してきてました。
その時俺が思ったと言うか実際言ったのは、「どんだけ出たいんだよ」でした。
でもこのちみしょ、公募に出す作品として描いてたので
その関係上、この終盤の終盤に新キャラを登場させるわけにはいかなかったので、
泣く泣くこの娘の場面をオールカットすることになりました。
ちみしょ完結時の活動報告 かっぽーで、この場面カットの際に
このお嬢様に「ひどいですわ」ってしょんぼりされました、と書いたのが「きょうのでんぱ」方面だなと思ったのでした。
で、このお嬢様が誰なのかと言うと。
拙作「ボソっとタグペタ時空ハッシュ!」のオ嬢こと、葉月寺覇司魔ちゃんです。
ちみしょ執筆中、覇司魔ちゃんの存在は頭の片隅にもなく、
上記の場面を執筆中に、言い方は悪いですけど、
文字通り降って湧いた女の子でした。
だから乱入って表現したんです。
物語の強制力とは違うものの、物語の側から執筆者に干渉して来るって点では、
物語の強制力と近い物があるんではないかな、と思ったんですよ。
ボソっと作中で、「いったいこの学校に誰がいると」って言う台詞は、
この明斗と碧ちゃんのことでした。
が、掌編にまとめる関係上掘り下げるわけにはいかなかったので、言葉を遮る形で
ちみしょとの関連を濁しました。
で、この覇司魔ちゃんの出現を経験して、俺はすごく嬉しかったんです。
なぜかと言えば、本当の意味でちみしょの世界と繋がったんだなと思えたからです。
第二回の、ちみしょの登場人物であるカグヤとのエピソードは、
もしかしたら覇司魔ちゃんの乱入があったからこそ、起きた奇跡だったのかもしれないなぁ、
なんて思ったりもします。
そんなわけで、今回のエピソードはここまでになります。
長文、お読みいただきありがとうございました。