09 お願いを聞こう
始まりは唐突に――
そう、本当に唐突にやってきたのである。
「大変です、ウィザー様! ダンジョンに侵入者が現れました!」
「なにぃ!? ついにこの時がやって来たか! それで侵入者はどんなやつだ! 冒険者か? 騎士か? それとも勇者か!?」
「そのどれでもありません! 侵入者は――姫です!」
「どゆことーっ!?」
リルガミンの迷宮の記念すべき初の侵入者――それは姫だった。
※ ※ ※
「――なるほど、隣国の侵略の際、命からがらクチカ村まで逃げおおせたはいいが、連れの騎士が重症をおったと?」
「……はい、村人たちから貴方が高位治癒魔法の使い手であることを聞き及んでおります。騎士の命を助けるため、どうか力をお貸し頂きたいのです!」
ふむと呟き、ウィザーは眼前の姫の姿をじっと見据えた。
髪はボサボサで、格好も以前映像で確認した際のきらびやかな姿とは比べ物ならないほどにみすぼらしい。
しかし、目の前の人物は、確かにこの国の姫その人であった。
「一応聞いておくが、それは俺が普通の人間ではないことを理解したうえでの申し出か?」
「はい、村人から貴方が“魔王”という存在であることは聞いています。しかし、今の私には貴方しか頼れる者がいないのです!」
「ふん、その物言いは気に食わんが……まあ、力を貸してやらんこともない」
「本当ですか!?」
「――で、代わりにお前は俺に何をしてくれるのだ?」
「……え?」
「え、ではない。その騎士の命を助ける代わりに、哀れな亡国の姫であるお前は、俺にいったい何を与えてくれるのだと聞いているのだ」
「そ、それは……」
「ああ、先に言っておくが、体とか忠誠とかそういうのは間に合ってるからいらんぞ」
「まあ、ウィザー様ったら……」
ウィザーの言葉に、何故かドリィが顔を紅くした。
「わ、私に出来ることは……」
「特にないのであればこの話は終わりだ。早々に立ち去るがいい」
「ま、待ってください! 私が差し出せるもの――それは“知識”です!」
「……ほぅ? 続けろ」
「貴方がここで何をしようとしているのかは分かりません。しかし、私の持つ“王族の知識”が役に立つ場面が必ずあるはずです!」
「ふん、面白い。貴様は人間の分際で“運営アドバイザー”になろうというのだな」
「運営アドバ……? 国家運営のノウハウであれば多少は学んではおりますが……」
「よかろう! 貴様の願い、聞き届けようではないか! その騎士とやらのところに案内するがいい」
「あ、ありがとうございます!」
「……ウィザー様、宜しいのですか?」
「うむ、丁度ダンジョンについて、人間の視点で意見を言える者が欲しいと思っていたところなのだ」
「そんなもっともらしいこと言って、実は情にほだされたとか……そんなことはありませんよね?」
「ななな、何をバカな!? そんなことがあるはずないだろう!?」
「怪しい……」
こうしてウィザーたちのダンジョンに、姫とその従者である騎士が新たな仲間として加わったのあった。