60 エピローグを語ろう
リセティアが扉を開けた先には、既に見慣れた“作戦会議室”に繋がっていた。
「む、ようやく帰ってきたな、リセティア! 貴様、この俺を騙したなっ!!」
「帰ってきて早々なんですか、人聞きの悪い」
「貴様はダンジョンを中心に街を作れば毎日のように侵入者がやってくると言ったな!?」
「えぇ、言いましたけど、それが何か?」
「確かに――確かにダンジョンには毎日のように侵入者はやってくるようになった――しかし!」
「――あ、セリアス。頼んでおいた物資の調査はどうでしたか?」
「はっ、やはり人数が人数ですので、食料が圧倒的に不足しています」
あの戦いのあと、リセティアたちはアレックスたちに事情を話し、彼らと共に“リルガミンの迷宮”へと移動した。
しかし、何分人数が多く、クチカ村やミルディンから援助は受けているものの、全員が満足できるほどの食料を集めることは到底不可能だったのだ。
「そうですか……ということですのでウィザー。ダンジョンの宝箱の中身は全て食料が出るように調整しておいてください」
「――いや、だからそれぇっ!!」
「なんですか……先ほどから騒々しい」
「今の状況は俺が思っていたのと違うのだ! 確かにダンジョンには侵入者が来るが、街の住民に不足している物資を宝箱に入れてそれを取りに来させるって――なんか違くね!? それダンジョンじゃなくね!?」
「別にいいではないですか、マッチポンプであろうと“マナ”とやらは貯まるのでしょう?」
ちなみに、つい先日までは何よりも住居の確保を優先したために、建材を多目に出すように調整していたのであった。
「それはそうなんだが……なんか、なんか思っていたのと違うんだよなぁ……」
なお、現在のダンジョンは危険な罠は全て取り外しており、ウィザー配下の魔物も出現しないようになっているので、女性が一人で挑んでも平気な安心設計になっている。
魔物たちもリストラの憂き目に遭ったわけではなく、アレックスたち兵士の訓練相手として充実した日々を送っているので御心配めされぬよう。
「まあ、その話は後日ゆっくりするとして……ウィザー、式はいつ挙げましょうか?」
「ん、なんの式だ? 戴冠式か?」
「とぼけないでください。私の国を差し上げたのですから、それは私の夫になるのも同じ。つまりは挙式――結婚式ですよ」
その言葉を聞いてウィザーはタラリと冷や汗を流す。
「え……そういうものなのか?」
助けを求めるべくセリアスに話しかけるのだが――
「ちなみに、その際はセリアスも共にウィザーと結婚してもらいますからね?」
セリアスが答えるよりも早く、リセティアはとんでもない爆弾を投下するのであった。
「ひひひ、姫様!? 私そんなこと聞いていませんがぁっ!?」
「それはそうでしょう、今初めて言いましたからね。でも、ウィザーのことは憎からず想っているのでしょう?」
「それは、その……その通りですが……」
「ならばいいではありませんか。私も貴方を悲しませる気は毛頭ないのですから、共に同じ夫を持てば全ては解決するのです」
「わ、分かりました! ならば私も覚悟を決めます!」
「――いや、待て。俺は何一つ分からないのだが……!」
「そうです! 人間風情がウィザー様と結婚などと、破壊神が許してもこの私が許しませんよっ!!」
「おお、ドリィ! そうだ、お前からも何か言ってやれ!」
「ドリィさん、対外的には私が本妻ということにさせてもらいますが、内々にはドリィさんに本妻の座をお譲りしようと思っているのですが?」
「――ウィザー様! 式の日取りはいつにしましょうか!? 大丈夫、この日のために花嫁修行はバッチリ積んできましたからっ!!」
「変わり身早いな、おい!」
「さぁ、どうしますウィザー? 女三人にここまで言わせて、恥をかかせる気ですか?」
「むぅ……」
ドリィ、リセティア、セリアスの三人に詰め寄られるウィザーであったが、やがて観念したかのようにため息をつく。
「まさか最後の最後でハーレムルートに入るとは思ってもいなかったが……まあ、長い人生だ、人間の嫁を貰うのも悪くない――いいだろう、三人まとめて面倒をみてやろうではないかっ!!」
「……最初からそう言えばいいのです」
「姫様ぁ……私、自分が結婚出来るだなんて思ってもいませんでしたぁ……!」
「おっしゃぁ! これでこそ花嫁修業に精を出してきた甲斐があったってもんです!」
――こうして彼らの日々は続いていく。
「ウィザーどん、結婚するだってなぁ! 祝いの芋持ってきたべ!」
これより彼らが進むは人と魔が共に歩む共存の道。
それは決して容易いものではなく、行く先にはいくつもの困難が待ち受けていることだろう。
「ミルディン様! ほんともう休んでくださいってば!」
「ええい、ウィザー様の式に出席するためには、無理をしてでも仕事を終わらせて時間を捻出する必要があるのだ!!」
しかし、如何な困難が待ち受けていようとも彼らが歩みを止めることはない。
波乱万丈、なれど最後はつつがなし。
それがどんな道であろうとも、きっと最後には『そんなこともあったな』と彼らは笑っているであろうから。
「そうだ、結婚した記念にダンジョンに触手罠を仕掛けさせてほしいのだが――」
「却下」×3
「何故だぁぁぁっ!?」
ゆえにこれ以上の物語は蛇足である。
大変名残惜しいことではあるが、彼らの幸福を願うため、古来より連綿と続く言祝ぎをもって、この物語を締め括りたいと思う。
つまりは――めでたし、めでたし、である。
ダンジョン作ったけど誰も来ないんだが
おしまい
ご高覧いただきありがとうございました。
2018/07/15 シシド
あとがきは下記活動報告にて。
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