59 それから
あれから数ヵ月ほどの日々が過ぎた。
「――ミルディン様! いい加減に体をお休めになってくだされ!」
「ならん! 今この瞬間にも民が苦しんでいるというのに、どうして私だけが休めようか!」
ミルディン――突然の同盟破棄と、それに伴う電撃的侵略によってリセティアの国を征服した男。
彼はリセティアの国を奪うことで、望み通りに自分の国を手に入れることに成功していた。
「しかし、既にミルディン様は三日三晩もの間、不眠不休で働き通しではないですか!」
「それがどうした! 私は、かつての私が犯した大罪を償うためにも、一刻も早く民たちが安心して暮らせるように国を復興しなければならんのだ!」
もっとも、それはかつての彼が望んでいたような形とは少々違っていたのだが……。
なお、彼のこの変貌振りは、もちろんウィザーの仕業である。
ウィザーは、王都をミルディンの手から取り返すことをリセティアに提案したのだが、彼女はもはや自分に統治能力はないこと、またウィザーとの約束を果たすためには彼の傍らにいる必要があるという理由により、これを辞退。
代わりに彼自身が望んだことでもあるということで、王都の統治はミルディンに任せることになった。
その際、暴君になられても困るので、ウィザーが徹底的に教育(調教?)を施した結果、今や彼は民の暮らしを第一に考える善政の人に生まれ変わっていたのだ。
「ミルディン、その心がけは立派ですが、そのせいで体を壊しては元も子もありませんよ」
「おお、これはリセティア様……!」
もちろん、王都の統治をミルディンに任せたといっても、完全に任せっぱなしにするような無責任なことをリセティアはしない。
ウィザーと共に“リルガミンの迷宮”を中心とした街作りに励む傍ら、こうして王都の様子も頻繁に確認してきているのであった。
もっとも、最近はミルディンが倒れるまで仕事をしていないか見張るための、監視役のようになってきているのだが。
「しかし、リセティア様、私は――」
なおも食い下がるミルディンに、リセティアはため息をつく。
そしていつも通りの手段を使うことにした。
「――寝ろ、ウィザーがそう言っていましたよ」
「なんと! ウィザー様がっ!?」
他の者が言ってもガンとして聞き入れずに仕事に励むミルディンなのだが、教育の成果か、ウィザーの言うことに対しては絶対服従であった。
ゆえに言葉の端に『ウィザーが言っていた』とさえ付ければ、何においてもその言葉通りのことを実行しようとするのだ。
「して、私はどれほどの時間を眠ればよろしいのか! ウィザー様はなんとっ!?」
まあ、多少教育が行き届きすぎてしまっている感はあるが、それは些細なことであろう。
多分、きっと……。
※ ※ ※
「リセティア様、ありがとうございました!」
「いえ、貴方たちにも苦労をかけますね」
「も、勿体なき御言葉でございます!」
恐縮しきりな男を尻目にリセティアは自室へと戻る。
それは、彼女がもう決して戻ることは出来ないと思っていたリセティア本来の自室だ。
リセティアは部屋の中へと入る。
そこには、あの頃から何も変わることのない光景が広がっていた。
ただ一つ、変わったことがあるとすれば、部屋の中に扉が置かれていることであろうか。
そう、リセティアの自室には今、一つの扉が設置されていた。
壁ではなく部屋の中ほどに設置されている奇妙な扉。
どこにも繋がっているはずのないその扉を、しかしリセティアは躊躇なく開け放つ。
何故なら、その扉を開けた先にこそ、彼女が帰るべき場所があるのだから。
扉を開けた先、そこには――




