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55 終末のフール

「ゴホ! ゴホ! ゲェッホ!!」


「ウィ、ウィザー様、大丈夫ですか!?」


「ド、ドリィ……水を……!」


「水はありませんが、代わりにこれをどうぞ!」


 そう言って渡された飲み物を、ウィザーは中身も確認せずに一気に飲み干す。

 すると、何やら自然味溢れるドロリと濃厚な液体が喉に絡み付いた。


「――ぷはぁっ!! あー、死ぬかと思ったぞ……」


 まさに九死に一生を得たウィザー。

 連載が始まって以来、初となる大ピンチであった。


「ところでドリィよ。助かったのは確かなんだが……この飲み物はいったいなんだ?」


「はい、それはタゴサクさんちの新鮮野菜をふんだんに使用した野菜ジュースになります」


「そ、そうか……」


 タゴサクさんちの新鮮野菜シリーズは、いったいいくつ存在するのかという疑問はさておいて。

 むせているところに、こんなドロリと濃厚な飲み物を飲ませるとか……嫌がらせかな?

 そんなことを思うウィザーであった。


「フフ――」


 そして、リセティアはそんな二人のやり取りを見て笑みをこぼす。

 この時の彼女は気付かなかったが、彼女が本当の意味で笑ったのは随分と久方ぶりのことであった。


「……どうした、何が可笑しい?」


「いえ、貴方たちは変わらないなと思いまして……」


 そう、ウィザーたちは変わらない。

 戦場のただ中にありながら、その様子は日常のそれとなんら変わることがない。


 しかし、だからこそ()()()()、とリセティアは思った。

 何故なら、彼らはそんなくだらないやり取りを行いつつも、リセティアとの契約はきっちりと果たしていたからだ。


 リセティアは地上を見下ろす。

 契約内容は、襲いくる隣国の軍勢からセリアスたちを救出することである。


 果たしてここに契約は履行され、リセティアの眼前にはミルディンただ一人を残して、数千人もの数がいた彼の兵隊全てが地に伏している光景が広がっていた。


 つまりウィザーたちにとっては、()()()()雑談まじりで済ませられるような造作もないことだったのだ。


「……殺したのですか?」


 リセティアは恐る恐る尋ねる。


「いえ、彼らには眠ってもらっているだけですよ。私の特製アロマでね」


 そう言ってドリィはニタリと笑う。

 今までドリィが磨きあげてきた驚異の女子力が猛威をふるった瞬間であった。


「なんだ、殺した方が良かったか?」


 そのウィザーの言葉に、リセティアはすぐに答えることが出来ない。

 少し前の彼女であれば、間髪入れずに『はい』と答えていたであろう。


 しかし、どういった心境の変化か。

 あれほど憎んでいたはずの隣国の兵士たちなのに、今となっては殺すには忍びない――そんな風に彼女は思ってしまったのだ。


(いや、今はそんなことよりも……!)


 リセティアは上空から戦場を見渡す。

 するとカーネルたちの無事な様子が見てとれた。


 ほっと胸を撫で下ろしたのも束の間、リセティアの心臓がドクンと跳ねあがる。

 彼女が次に向けた視線の先、そこには――


「セリアス……!」


 思わずリセティアはその名を叫ぶ。

 そう、剣を杖代わりにすることでようやく立っているようなボロボロの状態ではあったが、確かにそこにはセリアスの姿があったのだ。


 リセティアは、今すぐにでもセリアスのもとへと駆けつけたい衝動に駆られるが、それをなんとか堪える。

 何故なら、彼女にはその前にやっておくべきことがあったからだ。


「……ウィザー、私を地上へと降ろしてください」


 そうしてリセティアたちは、全ての決着をつけるべく地上へと降り立つ。

 そこには――


「あ……ああ……!」


 怯えきった顔でその場に佇んでいるミルディンの姿があった。

 ウィザーはそんなミルディンの眼前に立ち、言葉を紡ぐ。


「フッ、どうしたミルディンとやら、随分と顔色が悪いではないか。まるで――()()を敵に回したかのような顔をしているぞ?」


 ウィザーはそう声をかけただけで、他に何かをしたわけではない。

 しかし――


「ヒィ――ッ!!」


 たったそれだけのことで、ミルディンは腰を抜かしてその場にペタリとへたりこんだ。


「おおっ、存在感だけで相手を圧倒するとは! さすがです、ウィザー様!!」


「よせ、照れるではないか」


 ドリィの賞賛の声を受けて、ウィザーは振り返る。

 その直後のことであった。


「――ッ、死ねェェェェェェーーーッ!!」


 ウィザーが自身に背を向けたのを確認するやいなや、ミルディンは弾かれたかのように行動を起こす。

 今この瞬間を逃せば、二度と勝機は訪れない――そんな確信めいた予感があったのだ。


 ゆえにミルディンは、悲壮なる決意と覚悟をもって恐怖を振り払い、ウィザーのもとへと突進する。

 その彼の手には一振りの剣がしかと握られていた。


 しかしてその剣は――


「き、貴様ぁ……!!」


 背から胸にかけて、ウィザーの体を貫通するのであった。


 その光景を見てリセティアは悲鳴をあげる。

 ウィザー、連載が始まって以来、二度目となる大ピンチであった。

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