05 悪いことをしよう
「ウィザー様、ついに私は気付いてしまいました!」
「どうした、何に気付いたのだ、ドリィ!?」
「何故私たちのダンジョンには冒険者がこないのか! その答えは――悪行ポイントが足りていなかったのです!」
「あ、悪行ポイントだってぇ!?」
説明しよう!
悪行ポイントとは、悪いことをすることで、だんだんと貯まっていくポイントのことである!
沢山貯めると、飲み会の席で『俺も昔はワルでよぉ』とか言えちゃうぞ!
「ま、待て! 何故ダンジョンに人がこないことと悪行ポイントが関係するのだ! ダンジョンとは作るだけで冒険者どもが勝手に群がってくるものではないのか!?」
「そんな受け身な姿勢だから、ウィザー様は草食系魔王とか言われるのです!」
「えぇっ、言われたことないけどもぉ!?」
「とにかく悪行を重ねるのです! 重ねに重ね、ウィザー討つべしとの機運が高まりさえすれば、冒険者なんて向こうから勝手にやってきます!」
「えー、それはそうかもしれんが、それはなんかズルくないか? そういうのはどちらかというと、魔王プレイを楽しみたい奴らがやるようなことと言うか……」
「だまらっしゃいっ!」
「ヒィッ!?」
「ダンジョン過多のこの時代、もはや待っているだけではダメなのです! 守ったら負ける! 攻めろ!」
「お、おぅ、今日のドリィはなんだか熱いな……」
実は押しの強い女性が苦手なウィザーであった。
「しかし、悪行と言っても何をすればいいのだ?」
「私が調査を行ったところ、このダンジョンからさほど遠くない場所に、小さな村が存在することを確認しています」
「その村を滅ぼすのか!? いかん、それはいかんぞ! そんなことをすれば人間愛護団体の奴らが黙っちゃいないぞ!」
「滅ぼしはしません。そんなことをしては、ウィザー様の存在を伝える人間がいなくなってしまいますから。そこで真綿で首を絞めるように、ジワジワと人間どもを嬲ってやるのです」
グフフと怪しく笑うドリィ。
その姿を見て、ウィザーは若干引いた。
「嬲る……どことなく淫靡な響きの言葉だが、具体的にはどういったことをするのだ?」
「それはもう“アレ”ですよ。こういう時、魔王が小さな村に要求するものといえば、一つしかありません」
「ほぅ、それは、いったい……」
「“IKENIE”――生贄です」
「い、生贄だとぉ!? 待て、ちょっと待ってくれ!」
「はい、なんでしょうか」
「生贄ってことは、お前……もちろん“アレ”だよな?」
「はい、もちろん村一番の器量よしである、“生娘”を要求するつもりです」
「素晴らしい! パーフェクトだ、ドリィ! 生贄とは実に王道で、夢がある話ではないか!」
「お褒めにあずかり光栄です。では早速出陣なさいますか?」
「うむ、人間どもに魔王ウィザーの名を、恐怖と共に刻み込んでくれるわ!」
身にまとったマントをバサッと翻し、ウィザーたちは意気揚々と出陣する。
しかし、出陣したその先で、まさかあのような悲劇が起きようとは……。
この時の彼らには知る由もなかったのである。