44 石
忽然と戦場に現れたのは少数、しかも全員が老人たちで構成された異端の集団であった。
何も知らない者がこの光景を見れば、老人と海ならぬ、老人と戦場かよ、HAHAHA!
――と笑うかどうかは人それぞれだが、ともかく無謀であるとの感想を抱いたに違いない。
言うなれば無理・無茶・無謀の三重奏。
それほどまでに愚かなジェットストリームアタックを、老人たちは仕掛けようとしているのだから。
しかし、敵兵たちは彼らの登場に戦慄する。
数千人からなる兵士たちが、たった十二人の老人たちに恐れおののいたのだ。
それも無理はない。
確かに彼らはタゴサクをあと一歩のところまで追い詰めはしたが、それには多大な犠牲を支払う必要があった。
そう、タゴサク一人だけでもこの有り様なのに、今度は十二人もの老人が一斉にやってきたのである。
なんたる理不尽、なんたる不条理であろうか。
今の彼らにとって“老人”は恐怖の象徴と化しており、端から見れば十二人の老人が立っているだけの、なんてことのない光景も、敵兵たちにとっては悪夢として映っていたのだ。
しかし――
「タゴサクどん、今助けてやっからなぁ!!」
「んだんだ! よそもんはけぇれ、けぇれ!!」
そう勇みながら老人たちは、敵兵たちへと向かって石を投げつける。
当然ながら敵兵たちは最大限の警戒態勢をとるのだが、結果としてその行動は全て無意味に終わることとなった。
何故なら、残念なことにただの老人である彼らが投げる石に、屈強な敵兵たちを倒せるほどの力があろうはずもない。
それどころか、その石は敵兵たちに届く前に推進力を失ってしまい、全てが大地へと墜落してしまうという有り様であったからだ。
「ク……ハハ……脅かしよって! 何かと思えば、ただの老いぼれが増えただけではないか!」
逃げる準備に入っていたミルディンは、安堵の息をもらすと共に再び戦場へと向き直る。
タゴサクという規格外の老人の相手をしたせいで勘違いしてしまったが、老人と言っても異常なのはただ一人だけなのだという事実が判明し、敵兵たちも士気を回復させた。
颯爽と戦場に現れた老人たちであったが、結果として彼らはタゴサクを助けるどころか、敵兵に損害を与えることすら出来なかったのだ。
――が、それでも彼らは投石を続ける。
「クハハハハハハ! どうした老いぼれども! せめて届かせる程度のことはやってみせたらどうだ!?」
敵にバカにされ、滑稽だと笑われようとも、それでもなお彼らは石を投げることを止めようとはしない。
ひたすらに、ひたむきに、彼らは届かない石を懸命に投げ続ける。
「おんどりゃあーーーっ!!」
「オラが石を食らうべぇーーーっ!!」
何故なら、彼らにはそれしかないからだ。
彼らには戦うだけの力がない。
策を練るほどの頭もない。
ついでに言うと、金もないし運もないし、おまけに顔も悪い。
そんな彼らにあるのは想いだけ。
仲間を、友を助けたいという想いだけなのだ。
「タゴサクどん! タゴサクどぉーんっ!!」
ゆえに彼らは投げ続ける。
ここが戦場だとか、効果の有り無しだとかは関係ない。
意味があろうがなかろうが、それでも声を張り上げて“今、自分に出来ることの精一杯”を行い続けるのだ。
それは愚かではあったが、どこまでも真っ直ぐな、愚直な行為であった。
しかし我々は知っている。
どうにもならない状況を打開するのは、時としてこのような愚者たちなのだということを。
かくして老人たちの一念が道を切り拓く。
その道はまさに、老人の老人による老人のための道、ロージンロードであった。




