34 決闘
「どうした、女ぁ! 威勢がいいのは最初だけかぁ!?」
ミルディンは声を張り上げながらセリアスへと剣を振るう。
振るわれるは勢いに任せた剛の剣だ。
苛烈な性格をしたミルディンらしい、相手が防御していようがお構い無し。
むしろ、その防御ごと叩き斬ろうとするような豪快な剣であった。
一合、二合と打ち合う度に耳障りな金属音が周囲に響く。
セリアスはというと、ミルディンが罵倒した通り、彼が振るう剣を防ぐので精一杯の様子であった。
「弱い! 弱いなぁ!! そんなことだから国を滅ぼされるのだ、お前たちはっ!!」
「――っ、それが仮にも王家に名を連ねる人間の言うことですかっ!!」
両者は再び剣をぶつけ合う。
今回はお互いが剣を引くことをしなかったため、鍔迫り合いの形になった。
「そもそも、何故我が国に侵攻などしたのです!? 貴方の国と我が国は同盟関係にあったはずだ!」
セリアスはずっと疑問に思っていたことを尋ねる。
彼女の言う通り、セリアスとミルディンの国は不可侵同盟を結んだ間柄であった。
しかし、突然ミルディンの国が同盟の破棄を一方的に宣言し、それと同時にセリアスの国へと宣戦布告を行ったのだ。
これはセリアスの国にとっては、まさに青天の霹靂と言うべき出来事であった。
ゆえに、ろくに防備を整える暇もなく、電撃的に侵攻してくるミルディンたちの軍勢に対処することが出来なかったのだ。
「ハッ! 仕方なかろう、親父が死ぬまで我慢出来なかったのだ!!」
「――我慢!?」
「そうだ、俺は、俺が自由に出来る国が欲しかった! しかし、幸か不幸か、親父はまだまだ死にそうにないのでなぁ! ならばどうする!? ――他所から奪うしかないだろうが!!」
「そ、そんな理由で!? そんな個人の欲望を満たすためだけに戦を仕掛けるなど……国を、そこに住まう民をなんだと思っているのですっ!?」
「そんな些末事を気にしていては王など務まらんわっ!!」
「貴方はまだ王ではないでしょう!!」
「いいや、俺は既に“王”だ! なにせ貴様の国を頂いたからなぁっ!!」
「私の祖国をなんだと――っ!!」
両者は再び剣戟の音を奏であう。
とめどなくあふれ出る殺意という衝動を必死に抑えながら、それでもセリアスは言葉を紡いだ。
「国が欲しいだけなら、もう目的は達成したでしょう! この先には小さな村とダンジョンがあるのみ! 姫様にしても、もはや貴方の国と事を構える気も、またその力もありません!!」
「だから見逃せと!? それは出来ぬ相談だな! どんなに小さな村であろうと、俺の支配が届かぬ場所などあってはならんのだっ!!」
そう叫んだあと、ふいにミルディンは動きを止めてニヤリと笑う。
「先ほどの物言い……そうか、貴様姫の、そして“魔王”とやらの関係者か」
ミルディンの正鵠を射た指摘にセリアスはどう答えるべき迷ったが、暫しの逡巡の後に『はい』とだけ答えた。
「そうか、そうなのか……ふ、ふふっ……フハハハハハハハハハッ!!」
突如ミルディンは大声で笑い出す。
その理由が分からないセリアスは、気味の悪いものを見る目付きでミルディンを見やる。
「な、なにが可笑しいのです!」
「ハッ、これが笑わずにいられるか! 無能な部下が『亡国の姫が、恐るべき力を持った魔王と手を組んだ』などと吹聴するのでな。こうして軍勢を率いてやってきてみれば、立ちはだかるのは女と老人の二人だけ……“魔王”とやらは余程人材に困っているようだな!」
そう言ってミルディンは再び笑い出した。
「ちが――っ」
『違う、この戦にウィザー殿は関与していない』と、セリアスはミルディンの勘違いを正そうとするが、その言葉をすんでのところで引っ込めた。
何故なら、その方が都合が良いと気付いたからだ。
期せずして訪れたこのチャンスを活かすべく、セリアスは頭をフル回転される。
「……そう、“彼”は魔王と言っても大した力を持たず、性格も人畜無害な好青年のそれでした。姫様も当初こそ貴国への復讐心を抱いていたものの、今やすっかりその気がなくなったようで……」
セリアスは必死に言葉を並べ立てた。
姫が既に復讐など考えてはいないこと。
そして、ウィザーが如何に無害な存在であるのかを。
決して出来のよろしくない頭でもって懸命に考え、伝えようとする。
ここには貴国を脅かす“脅威”など存在しないのだ。
だから安心して帰国してくれ、と。
しかし――
「おい、女……」
「――はい?」
「ペラペラとやかましい」
凶刃がセリアスを襲う。
セリアスがすがった微かな希望は、悲しいかな、たった一言のもとに振るわれる無慈悲な一撃にて砕かれることとなった。




