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03 冒険者になろう

「ウィザー様、今日は私たちが冒険者になってみましょう」


「は?」


 一瞬、ウィザーの脳裏に、“自作自演”という言葉がよぎる。


「考えてみれば、私たちはこれまでずっと管理者側の視点で迷宮作りを行ってきました。一度、冒険者の視点でダンジョンを見直してみることで、改善点や新たな発見が見つかるかもしれません」


「お、おお、そういうことか。驚いたぞ、冒険者が来なさすぎて、ついに自作自演にでも走るのかと思った……」


「そんなことはしません。自作自演では一時的に自尊心などが満たされても、その後それ以上の虚しさに襲われるだけですから」


「そ、そうか」


 ドリィは、まるで体験談のように語る。

 しかし、『やったことあるのか?』などと聞く度胸を、ウィザーは持ち合わせていなかった。




「さて、そんなわけで、ダンジョンの入口までやってきたわけだが……」


 ウィザーはダンジョンの入口を覗く。

 しかし、入口を付近こそは陽の光によりまだ明るさを保っているが、そこから先は闇に覆われていた。


「ドリィ、これはどういうことだ。第一階層は全て魔力光で照らしおくよう指示していたはずだが?」


「フッフッフ、ウィザー様。それは一歩でもダンジョンに足を踏み入れてみれば分かりますよ」


 自信満々にそう言うドリィ。

 怪訝そうな顔をしつつも、ウィザーは彼女の言う通りダンジョンへ足を踏み入れた。


 すると、突如頭上に光が指す。

 しかも頭上だけではない。光は先ほどまで暗闇に覆われていたダンジョンの、はるか先まで満たされていた。


「ドリィ……これは……?」


「誰もいないダンジョンを、常に照らし続けることほど無駄なことはありません。冒険者おきゃくさまが侵入してきた時のみ、ダンジョン内部を照らすように設計させていただきました」


「す、素晴らしい! まさか消費魔力のことも考えて設計してくれていたとは! 少しでもお前を疑った俺がバカだった!」


「今は何をするにも省エネの時代ですからね。ささ、ウィザー様、どんどん先に進んでいきましょう」


 ドリィに促され、ウィザーはダンジョン内を進む。

 しかし、それから十歩も歩かない内に、ダンジョンの壁からプシューという音をたて、勢いよくガスのようなものが噴出され始めた。


「む、これは毒ガスか?」


 これが人間であればガスを吸い込むまいと鼻と口を塞ぎ、すぐさま待避するところである。

 しかし、高位魔族であるところのウィザーに毒ガスなどが効くはずもない。

 ゆえに彼はガスをまったく意に介さず、平然とその場に立っていた。


「いや、これは毒ガスではないな……催眠、もしくは催淫系のガスか?」


「惜しいですが、そのどちらでもありません。それは私が特別にブレンドした“アロマ”です」


「アロマだと?」


「はい、最近暇に飽かしてアロマテラピーも始めてみましたので導入してみました」


 また趣味を増やすとは、よほど暇なんだなとウィザーは彼女に申し訳なく思う。


「なお、そのアロマにはストレス軽減や集中力アップなどの効果があります」


「なるほど! 探索時に極度の緊張は逆効果となる、そこで冒険者たちにより良い結果を出してもらうために、一旦ここで彼らの緊張をほぐそうというわけだな!」


「さすがウィザー様、仰る通りです」


「カーッ、さすができる女は違うな! まさか趣味までも仕事に活用するとは恐れ入る!」


「恐縮です。また家事全般を完璧に修めておりますので、いつでも嫁にいく準備はできております」


「そうか、そうか! ドリィを嫁に迎える男は幸せ者だな。それじゃ、ダンジョン探索を再開するか」


「あ、ウィザー様……」


 チッ、とドリィは心の中で舌打ちする。

 それと同時にウィザーの背筋に冷たいものが走った。




「確かにドリィの言う通り、たまには冒険者の視点になってダンジョンを歩いてみることも大事なことだな」


「色んな改善点が見つかりましたね、ウィザー様」


 探索が終わった彼らは、いつもの作戦会議室で今日の調査結果を報告しあっていた。


「ああ、さしあたりダンジョンのいくつかのポイントに、冒険者の休憩場所となるような空間を作るべきだな」


「あと、脆弱な人間のことです。ずっと似たような景色が続くと気が滅入ってくるかと思いますので、天井に空の映像を映し出すというのはどうでしょうか?」


「それ採用! 冒険者たちの喜ぶ顔が目に浮かぶようだ!」


 ウィザーは高笑いをあげる。

 今日も彼らは、自身の努力の方向性が間違っていることに気付くことはなかった。

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