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23 質問に答えよう②

「フン、一気に興がそがれたわ」


 姫の罵声を浴びたウィザーは、今までの上機嫌な様子から一転して眉間に皺を寄せた。


「俺は悪魔ではなく魔族だ――と言っても貴様には通じないだろうから置いておくが……『悪魔らしく人を殺せ』とは、また実につまらんことを言い出したものだ」


「つ、つまないとはなんですか! 人であれ悪魔であれ、それぞれに生まれ持った使命、責務があるはずです! 私は自身の責務を果たしなさいと言っているのですっ!!」


 姫の言葉を聞いて、ウィザーの眉間の皺はさらに深まっていく。

 既にウィザーが姫を見る目付きは、不快なものを見る時のそれへと変わっていた。


「――では、聞くが。そういう貴様はどうなのだ? 貴様は姫として生まれ持った責務とやらをキチンと果たしているのか?」


「当然です!」


 ウィザーの問いに姫は即答する。

 しかし、ウィザーは――


「――いいや、まったく果たしていない」


 その答えをすぐさま否定した。


「貴様がこの俺を利用しようと企んでいたこと、気付いていないとでも思ったか? 企みの内容に興味があったがゆえに今まで泳がせてやっていたが……」


 ウィザーは一旦そこで言葉を切って鼻で笑う。


「まさか祖国の奪回や自国民の救出などではなく、ただただ復讐のために俺を利用しようとしていたとは思いもしなかったわ。そんなざまで何が姫の責務だ、聞いて呆れるわ」


 そう言われて姫は初めて気付く。

 ウィザーの言う通り、今まで自身の頭には徹頭徹尾“復讐”の二文字しかなかったことに。


 祖国の奪回、自国民の救出――。

 確かに“姫”であるなら、国を統べる王族の一人であるならば真っ先に考えなければならなかったことだ。


 しかし、そんなことは今まで欠片も彼女の頭にはなかった。

 これでは責務を果たしていないと言われても仕方ない。


「な、な――っ!?」


 図星を突かれた姫の顔が赤黒く染まっていく。


 反論したいが出来ない。

 そんな時、人はどうするか?


 大多数の人間は皆同じような行動に出るのが相場だ。

 そして残念ながら彼女も、その大多数の内に含まれる側の人間であった。


「だ、黙りなさいっ!! いいからお前は黙ってあの蛮族どもを殺せばいいのです! これは命令です、殺しなさい! 殺すのです! 殺せェェェーーーっ!!」


 姫は昂った感情のままに喚き散らす。

 ウィザーはその様子を、冷ややかな目でじっと見ていた。


「……仮にも一国の姫が殺せ殺せと、なんとも品のないことだ。これではあの女騎士の方が余程姫らしいではないか」


 ふとウィザーが漏らした呟きに姫はハッと気付き、思わず振り返った。

 当然ながらそこには誰もいないし、何もない。


 そんなことは分かっていた。

 しかし、振り返えらざるをえなかったのだ。


「ああ、もちろんさっきの様子は、バッチリと女騎士に見られていたようだぞ」


 ウィザーの言葉に、姫は目の前が真っ暗になってしまったかのように錯覚する。


 今、この玉座の間にはウィザーと自分の二人しかいない。

 そう思い込み、自身の本性を感情のままにさらけ出してしまった。


 散々自身で体験しておきながら、何故気付かなかったのか。

 ここには、あの作戦会議室と呼ばれる場所に居ながら、各所の様子を見渡すことの出来る不思議な“魔法”があるということに。


 全てを見られていた。

 自身のもっとも知られたくない本性を、もっとも知られたくない相手にさらけ出してしまったのだ。


「ち、ちが――っ、違うのです……私はっ、私は――!!」


 姫は虚空に向かって弁明の言葉を紡ぐ。

 しかし、そこに女騎士の姿はなく、言葉が空しく玉座の間に響くばかりだ。


「何が違うものか。一国の姫でありながら“国”よりも、自身の欲望を満たすためだけに復讐を選んだ女――それが貴様だ」


 その言葉を皮切りにして、姫は膝から崩れ落ちた。

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