22 質問に答えよう
「――そんなことだろうと思いました」
ドリィが行った“後始末”を映像で確認し終えた姫は嘆息する。
既に期待はしていなかった。
とはいえ、こう改めて映像で確認すると、心の底に残っていた『もしかしたら』という微かな希望が完膚なきまでに崩れさっていくのを感じる。
希望、そう希望だ。
ウィザーに出会ってからというもの、姫はある希望を抱いていた。
抱いてしまっていた。
それは復讐だ。
既に叶わぬものとして諦めていた復讐を成し遂げることが出来る――そう思っていた。
今や姫の願いはただ一つ。
父や母、愛する者たちを惨殺した憎き侵略者どもを、一人でも多く地獄の底へと引きずり落とすことだ。
ウィザー、この男さえいれば……。
魔王と名乗るこの男の力を利用すればそれが可能だと思ったのだ。
しかし現実はどうだ。
十人もの侵入者が現れたにも関わらず、ただの一人として殺すことが出来なかった。
いや、出来なかったというのは正しくない。
殺せる機会は何度もあった。
しかし、この男はわざと殺さなかったのだ。
魔王――悪魔たちを統べる者にして魔界の王。
伝え聞く限りでは、性格は残忍にして残虐、人を人とも思わず自らの欲望のままに破壊を繰り返すという。
そんな男が何故、自身の領域を侵した無礼者たちを殺さなかったのか。
それが姫にはまったく理解できなかった。
ゆえに姫は、今まで被り続けてきた“姫”という仮面をかなぐり捨て、ウィザーに問い掛ける。
「……何故、殺さないのですか」
それは、姫がウィザーの行動を監視するようになってから、ずっと抱いてきた疑問だ。
問いたい――しかしそれを問い掛けてしまうと、暗に『殺せ』と言っているようで、ずっと胸の内に秘め続けてきた想いだ。
そう、姫だけに。
……失敬。
殺してほしかったのだ。
当然それが姫として、いや人としてもあるまじき感情であることは理解していた。
しかし、たとえ“人でなし”との謗りを受けようとも、それでも殺してほしかったのだ。
姫の愛した者たちがされたように不条理に、そして無慈悲に。
そして、そんな姫の問いに対するウィザーの答えは、至極単純明快なものであった。
「阿呆、せっかく来た侵入者を何故殺さないといけないのだ。そんなことをすれば再度来てもらうことが出来なくなるではないか」
ウィザーの返答を聞いて、姫はギリィッと歯噛みする。
頭に血が上っていくのが感じられる。
なんという間抜けな回答なのだろうか。
“再度”なんてものは必要ない。
どうせ人間なんて放っておけば勝手に増える。
来る人間、来る人間を片っ端から殺していく、そのくらいで丁度良いのだ。
何故お前には、そんな簡単なことが分からないのだ。
何故お前は、私の思い通りに動いてくれないのだ。
そんな思考が姫の頭をグルグルと巡る。
そして、それはついに思考を飛び出し言葉となった。
「――貴方は魔王でしょう!? 悪魔なのでしょう!? なら殺しなさい! 悪魔らしく人間を殺しなさいっ!!」
姫はひた隠しにしていた本性をさらけ出して、うちに秘めていた想いをウィザーにぶつけた。




