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20 顔を真っ赤にしよう

 ウィザーが驚愕した理由を説明しよう。

 もちろんそれは、侵入者たちに図星をつかれたなどといった理由ではない。


 ウィザーが驚愕した理由。

 それは、侵入者たちが彼の想像以上に“愚か”であったからに他ならない。


 侵入者たちは言った。

 ウィザーが使用しているのは上級魔法だと。

 そして、そんなものを連発していては魔力が持つはずがないと。


(あの人間どもは本気でそんなことを言っているのか……?)


 驚きを通り越して、思わずウィザーは呆れてしまう。


 何故なら、それがまったくの的外れな見解だったからだ。

 上級魔法()()であれば、たとえ一日中連続使用したとしても、ウィザーの魔力は尽きることはない。


 さらにである。

 先ほどからウィザーが使用していたのは、その上級魔法ですらないのだ。


 では、中級魔法なのか?

 いいや、違う。


 ウィザーが先ほどから使用していたのは、彼にとっては児戯にも等しい下級魔法であった。

 そんなものを、中級ですらない上級魔法だなどと人間どもが言い出したから驚いたのである。


 これについては、手持ち無沙汰の際にお遊びで書いた落書きが、芸術作品だと騒がれる様子でも想像してもらえれば、ウィザーが驚愕した理由が分かってもらえるだろうか。


 とはいえ、これはウィザーの視点から見た場合の話である。

 これだけで侵入者たちを愚かだと断言するのは酷というものだ。


 人間と魔族では体内に蓄積できる魔力の許容量に大きな差があり、使用できる魔力の量が桁違いなのだ。

 ゆえに同じ下級魔法でも、人間と魔族ではその威力に雲泥の差が出てしまう。


 そのことを知りえない侵入者たちが、魔族であるウィザーの下級魔法を上級魔法だと勘違いしてしまったのも無理からぬことであろう。


「ふははははははははははははははっ!!」


 ウィザーは笑った。

 声高らかに、大いに笑った。


 何故か?

 想像してしまったからだ。


 “真実”を伝えた際に、人間たちがどのような顔をするのかを。


 人間たちは、自分の言葉が見当違いだと指摘され、顔を真っ赤にして怒り狂うだろうか。

 それとも力の差に絶望し、恐怖で顔を真っ青に染め上げるだろうか。


 どちらでもいいし、そのどちらでもなくていい。

 人間たちがどんな顔を見せたにせよ、ウィザーが楽しめるのは間違いないのだから。


 表情に喜悦の色を浮かべて、ウィザーは言う。


「――俺が先ほどから使用しているのは上級魔法などではない」


 突然笑いだしたウィザーを警戒していた侵入者たちが、ピクリと反応する。

 次の言葉を聞き逃すまいと全員がウィザーに注目した。


 そして――


「きゃきゅ――っ」


 噛んだ。


 『下級魔法だ』。

 そう言いたかったウィザーであったが、肝心なところで噛んだ。


(噛んだ……!)


(噛んだぞ、あいつ!)


(ドヤ顔まで決めてたのに噛んだっ!?)


 ウィザーを除いた、その場に居る全員の心が一つになった瞬間であった。


「貴方という人は……」


 この時ばかりは姫も例の人ならざるものの目をやめ、代わりに可哀想なものを見る目をウィザーに向ける。

 ウィザーは羞恥のあまり、顔を真っ赤にした。


 なお、ウィザーたちの様子をモニターで観ていた女騎士は大爆笑。

 そして、それを無礼だと窘めるドリィと喧嘩になるのだが、それはまた別の話である。

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