19 侵入者たちと遊ぼう②
「ふはははは! 次は大技でいくぞ!」
ウィザーは手を頭上にかかげる。
轟ッと凄まじい熱風が辺りに吹き荒れたかと思うと、ウィザーの頭上に巨大な炎の塊が現れた。
直径5mはあろうかというほどの巨大な炎の球体だ。
「しっかり避けろよ? さもないと骨まで灰になってしまうぞ!」
ウィザーがかかげた手を振り下ろした瞬間、炎の球体が放物線を描きながら侵入者たちめがけて襲いかかっていく。
あらかじめ攻撃が宣言されていたこともあり、侵入者たちはこれをすんでのところで回避することに成功するが――
炎の球体は、侵入者たちのすぐ近くの床に着弾し、その身を弾けさせる。
その際に生じた余波まではどうすることもできず、侵入者たちは炎の球体が放つ超高温度の熱風にさらされてしまった。
「ぬぅ――っ!?」
咄嗟に顔だけはガードするが、それ以外、腕などの肌が露出している箇所に火傷を負ったのか、ジンジンと痛み出す。
「た、隊長! このままでは全滅してしまいます! 撤退しましょうっ!!」
侵入者の一人が今にも泣きそうな声で、撤退を進言した。
そもそも彼らの任務は事の真偽の究明、つまり本当に姫が生きているのかどうかを確認することなのだ。
もちろん、最上が姫の生け捕りで、次点が姫の殺害なのは言うまでもないが、姫の生存を確認した今、最低限の目的は果たしたことになる。
それにこの男だ。
姫に“魔王ウィザー”と名乗る、巨大な力を持った協力者が現れたことを、一刻も早く本国に伝えなければならない。
しかし、撤退は出来なかった。
正確には、する余裕がないのだ。
現在位置から突入してきた扉までは、30mほどの距離が離れている。
全力で走ったとしても数秒はかかる距離だ。
(数秒もの間、奴の攻撃に背を向ける……? バカな、自殺行為だ!)
ゆえに、今の彼らに出来ることと言えば、ウィザーの攻撃を必死に避けつつ、撤退を悟られないようにジリジリと後退していくことくらいだった。
(せめて一瞬でも隙があれば……!)
そうすれば“切り札”が使えるのだが、そのチャンスがない。
一見ふざけて戦っているように見えるウィザーだが、実際には侵入者たち一人一人の行動に目を光らせており、まるで隙がないのだ。
このままではマズイ――。
そう感じた侵入者たちの隊長はある行動に出る。
「――臆するな! 上級魔法をあれほど連発していては、いつまでも魔力が持つはずがない! もう少しだけ耐えれば俺たちの勝ちだ!」
それは憶測ですらない。
心が折れそうになっていた部下たちを鼓舞するための、単なる“でまかせ”だった。
しかし――
「なんだと――っ!?」
ウィザーは驚愕の表情を顔に浮かべた。
そして侵入者たちも、ウィザーが驚愕したことに驚愕した。