02 おもてなししよう
「誰も来ないなー」
「来ないですねー」
今日も今日とてウィザーたちのダンジョンは、開店休業状態であった。
「ちゃんと道しるべだって立てたのになぁ」
「何がダメなんでしょうね。あ、ウィザー様、これ私が作ったザッハトルテです。宜しければどうぞ」
そう言ってドリィは、全体に満遍なくチョコレートを塗りたくったようなケーキを差し出す。
「お、おう。なんか女子力高そうなもの作ってるな」
「そりゃあ、こう言ってはなんですが、毎日暇ですからね。最近ではお菓子作りの他にフラワーアレンジメントにも挑戦し始めました」
「へ、へぇ、そりゃ女子力高いな……?」
と言いつつ、フラワーアレンジメントとは、いったいどういうものなのか分かっていないウィザーであった。
「当然です。私は自分磨きに余念はありません。万年発情期のサキュバスとは違うんですよ」
「……お前が時折見せる、そのサキュバスへの対抗心はなんなの? いやまあ、深くは聞かないけどさ?」
“君子危うきに近寄らず”や、“触らぬ神に祟りなし”がウィザーの座右の銘であった。
「そんなことより、ウィザー様」
「な、なにかね?」
「最近、フラワーアレンジメントの材料採取のため、ダンジョンを出入りすることが多くなったんです。それで気付いたのですが、我々のダンジョンは暗くないでしょうか?」
「む? それはそうだろう。ダンジョンというものは暗いものだ」
ダンジョンというもののは、基本的に地下や洞窟などに存在する。(ウィザーたちのダンジョンは地下型)
こういったダンジョンは陽の光が差し込むのは入口付近のみで、少しでも先に進もうものなら一寸先も見えない闇が待ち受けているのが通例だ。
なので冒険者たちはダンジョンに挑む際、たいまつなどの準備が必須となっていた。
「ウィザー様、常識に縛られないでください。ただでさえ私たちのダンジョンは、こんなへんぴな場所にあるんです。そんなお手本通りのダンジョンで、果たして冒険者たちが来てくれるのでしょうか?」
「そ、それは……っ」
「わざわざ遠くからお越しいただいた冒険者たちに、せめて第一階層くらいは暖かい光をもって迎えてあげる……それが“おもてなし”の心なのではないかと私は思うのです」
「お、おもてなしの心っ!?」
その時、ウィザーの全身に衝撃が駆け巡る。
「なるほど、確かにドリィの言う通りだ! 魔力消費は痛いが、すぐさま第一階層全体を魔力光で照らせるように手配しよう!」
「ありがとうございます!」
「だが、ちょっと待ってくれ! 今ので俺も一つ思い付いたことがある!」
そう言って、ウィザーは手を掲げると、ブォンという音と共にスクリーンのようなものが空中に現れる。
そこにはダンジョンの入口が映し出されていた。
「ダンジョンの入口がどうかしましたか?」
「ふふん、まあ見ておけ」
その後、ウィザーが何かを呟くのと同時に、ダンジョン入口の上部にアーチ状のオブジェクトが出現していた。
そしてそこには、『ようこそ、ダンジョンへ!』といった文言が記載されている。
「こ、これはぁ!? 遠くからやってきたせいで疲れているであろう冒険者たちを暖かく出迎える歓迎の言葉っ! これは嬉しい! さすがウィザー様、おもてなしのなんたるかを理解していらっしゃる!」
「フッ、よせ。俺のはお前の発想あってこそのものだ」
「さすがです! これだけの偉業を成し遂げたにも関わらず、それを部下の手柄とする器の大きさといったらもう! いよっ、魔王の中の魔王!」
「ハッハッハ、褒めすぎだ。ともかくこれで明日から冒険者がわんさかやってくるに違いない!」
「望むところですとも! 熱烈歓迎、冒険者御一行様ですよ!」
そして、一週間後。
「誰も来ないなー」
「来ないですねー」
今日も今日とてウィザーたちのダンジョンは、開店休業状態であった。