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18 侵入者たちと遊ぼう

 玉座の間では、ウィザーと侵入者たちの激闘が繰り広げられていた。

 いや、激闘というと少し語弊があるかもしれない。


「どうした、人間ども! 情けなく逃げ回ってばかりでは、この俺を倒すことなど出来んぞ!」


 何故なら、侵入者たちは防戦一方。

 ウィザーが次々と繰り出す炎の攻撃を、彼らは回避するので精一杯の状態だったからだ。


 そんな設定はとっくに忘れているかもしれないが、“燎原の魔王”の異名を持つウィザーだ。

 彼にとって、炎の魔法こそがもっとも得意とする攻撃方法なのであった。


「くそっ、姫を目前にしながらっ!」


 侵入者たちは歯噛みする。

 目標を目の前にしながら近付くことすらかなわない。

 これは彼らにとって、屈辱以外のなにものでもなかった。


 ならば、と侵入者の一人が短剣を姫に向かって投げつける。

 この行動は、何も姫を殺害しようとしてのものではない。


 これで男の方に、少しでも隙が出来ればと考えての行動だったのだが……。

 しかし、ウィザーは短剣を迎撃するどころか一瞥すらしなかった。


(姫がどうなろうと構わないのか!?)


 そんな侵入者たちの思惑をよそに、玉座の間にガキンという音が響く。

 それは、短剣が障壁にぶつかった際に生じた音だった。


 推進力を失った短剣は、そのまま地面に落下する。


 これこそが姫に短剣が投げつけられようともウィザーが行動しなかった理由である。

 姫は、ウィザーがあらかじめ展開しておいた障壁によって守られていたのだ。


(なんという姫だ――っ!?)

 

 侵入者は内心で驚愕する。

 これは先ほどの障壁を、姫の力だなどと勘違いしたわけではない。

 驚いたのは、姫の胆力に対してだ。


 いくら障壁で守られていようとも、普通は投げつけられた短剣に対して何かしらのリアクションがあって然るべきなのだ。

 しかし、先ほどの姫は身構えるどころか、眉一つ動かすことすらしなかった。


 とても姫とは思えぬ、尋常ならざる胆力である。

 よほど障壁を、男のことを信頼しているのか、それとも――


 侵入者は姫の目を見据える。

 その瞬間、ゾクリと背筋に冷たいものが走るのを感じた。


(なんて目をしてやがる――!)


 憎悪――いや、あの目はそんな生易しいものではない。


 死だ。

 あの目は、ただ死だけを望んでいる。

 アレは死に魅入られ、死だけを渇望する亡者の目だ。


 その時、侵入者たちは理解した。

 自分たちは敗戦国の姫を追い詰めているつもりで、その実、愚かにもおびき出されていたのだということを。


 今目の前に居るのは、姫であって姫ではない。

 生きとし生けるものをダンジョンに誘い込み、魔王という鎌をもってその命を刈り取る死神――そんな存在に成り果ててしまっているのだ。

 

 侵入者たちが忘れて久しい恐怖という感情。

 再び彼らにそれを思い起こさせたのは、なんの力も持たない一人の姫だった。

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