15.5 おまけの話
「ふへ、ふへへへ……」
気味の悪い笑い声をあげる者がいた。
ウィザーだろうか?
それともドリィだろうか?
いや、そのどちらでもない。
その声の主、それは――
「ど、どうですか、姫様。この鎧、似合ってますか……?」
――女騎士だった。
女騎士は身に纏った真新しい鎧を姫に見せびらかしている。
白と蒼を基調としたその美しい鎧は、名を“清らかなる鎧”といい、先の“ムラサメブレード”と同じく、伝説の武具として言い伝えられるほどの一品であった。
何故彼女がそんな鎧を身に纏っているのか?
答えは単純、ウィザーが彼女に贈呈したのだ。
“ムラサメブレード、ポイ捨て事件”からこっち、女騎士の怒りは留まることがなかった。
見かねたウィザーが、『ならお前にもくれてやる』と提案したのだ。
なお、ウィザーは言葉通りに侵入者たちと同じ、“ムラサメブレード”を彼女に与えようとしていたのが……。
しかし、武器を与えて万が一があってはいけないとドリィに止められ、代わりに今彼女が身に纏っている“清らかなる鎧”が与えられる運びとなったわけだ。
最初は不満たらたらだった女騎士だが、“清らかなる鎧”を一目見てからは態度が一変。
「“蒼穹の騎士”――この鎧を着てたらそんな風に呼ばれたりなんかして、ふへへ……」
そして今やご覧の有り様であった。
「ウィザー殿、こんな良いものをいただいてしまい誠にかたじけない! この鎧は我が家の家宝にさせてもらうぞ!」
そう言って女騎士は頭を下げる。
実直な女騎士らしい、実に気持ちの良い礼だった。
「――ま、“我が家”と言っても、とっくに国ごと滅んでいるんだがなっ!」
突如、女騎士が渾身のブラックジョークをぶっこんでくる。
これには堪らず一同、どっと大笑い。
ただし、姫は除く。
「ひ、姫様……これは、その……!」
姫は真顔だ。
真顔で女騎士の顔をじっと見つめている。
下手に怒られるより怖い。
「どうしました? 可笑しいのであれば存分に笑えばいいでしょう――もっとも、自分の国が滅んだことの何がそんなに可笑しいのか、私にはまったく理解できませんが」
「も、申し訳ありません! 不謹慎でしたァァァーーーッ!!」
女騎士、渾身のジャンピング土下座が華麗に決まった。
「ほぉ、素晴らしい」
「回転、高さ、着地、どれも申し分ない土下座でしたね」
ともすれば“金”さえ狙える――。
それは、そんな可能性を感じさせるほどの土下座だった。
※ おまけのおまけ ※
「イライラ、イライラ……!」
件の鎧を女騎士にを与えてからというもの、ドリィの機嫌が明らかに悪くなっていた。
なにせ『イライラ』と実際に言葉に出してしまうほどなのだから、これはもう相当なものである。
暫く放置しておけば治まるだろうと楽観視していたウィザーであったが、いくら待ってもドリィの苛立ちは治まる気配がない。
仕方なくウィザーは、恐る恐るドリィに尋ねた。
「えっと、ドリィさん……あの女に“清らかなる鎧”を与えたのはまずかったでしょうか……?」
「は? そもそもあの鎧を与えろと言ったのは私ですが?」
『じゃあ、なんで怒ってるんだ? というか、今も充分語気が荒いですやん』とは言えないウィザーだった。
「私が怒りを感じているのは、あの女騎士めが私を騙していたからですよ……!」
「な、なにぃ!?」
女騎士がドリィを騙していた……。
詳細はまだ分からないが、穏やかではない話である。
「あの女が“清らかなる鎧”を身に付けるのを手伝っていた際、私はハッキリと見たのです! あの女は――サキュバスでした!」
「……は? サキュバス?」
「ええ、間違いありません! あの女はまごうことなき巨乳でしたっ! 服の下に実に凶悪なものを隠し持っていたのです!!」
「あ、ああ……奴は着痩せするタイプなのか」
「おのれぇ、よくも私を騙してくれたな! この世の巨乳は全員呪われろぉ!!」
ドリィの慟哭を聞いて、世の女性たちは大変だなぁと思うと同時に、そのルビは無理があるんじゃないかなーと思うウィザーであったとさ。