15 歓迎しよう⑤
侵入者たちは、ダンジョンを奥へ奥へと進んでいく。
しかし、その人数は当初の十人から減って、八人になっていた。
減少した人数の内の一人は、メルの活躍によって素っ裸にされた女兵士だ。
マントこそ羽織っているものの、まさかその下が素っ裸の状態でダンジョンを探索するわけにもいかない。
ゆえに彼女は、現在ダンジョンの入口まで待避していた。
また、その際に護衛として一人の兵士がついていったので、現在の侵入者の数が八人となったわけだ。
痛ましい犠牲を出しながらも侵入者たちは進んでいく。
仲間の弔い合戦のつもりなのか、彼らの士気は高い。
「なぁ、副隊長って、結構いい体してたよな……」
「そうだな……普段の厳しい態度とのギャップがたまんなかったよな……」
「やる気……出たよな」
「ああ、出た出た」
理由はどうあれ、彼らの士気は高かった。
※ ※ ※
「あ、あれはァァァーーーッ!?」
モニターに映る光景を見て、女騎士が驚愕の声をあげる。
そこには、侵入者たちが宝箱から武器のようなものを手に入れている光景が映し出されていた。
「ウィ、ウィザー殿、今しがた侵入者たちが手に入れた武器なのだが……アレはまさか“ムラサメブレード”なのでは……!?」
「フッフッフ、分かるか?」
女騎士の問い掛けに、ウィザーはニヤリと笑う。
「ま、まさか本当に……っ!?」
「“ムラサメブレード”……有名な武器なのですか?」
その名前に聞き覚えのない姫は問い掛ける。
それは単純な疑問から来る質問だったのだが、それが女騎士の“スイッチ”が入るきっかけとなった。
「ご存じないのですか、姫!? 伝説とまで謳われ、持ち主に超常の力を与えると伝えられる至宝の刀剣、それが“ムラサメブレード”なのです! また、その切っ先にスズメが止まっただけでスズメの体が真っ二つになったという伝承から別名“スズメ斬り”とも言われており、その斬れすぎる刃は転じて持ち主に不幸をもたらすとも――」
「わ、分かりました、あの武器が凄いのは分かりましたから……!」
武具のことになると雄弁で早口になる――
それは付き合いの長い姫でさえも知らなかった女騎士の一面だった。
「しかし、ウィザー殿。あれほどまでの武器を敵の手に渡してしまってよいのか……?」
「ふん、あんなものは倉庫にいくらでも眠っている。まあしかし? あの程度の武器であっても人間どもにとっては過ぎたるものであることは事実。――さぁ、人間どもよ! 俺の施しを受け、涙を流しつつ狂喜乱舞するがいいわ!」
ウィザーの言葉により、作戦会議室に居た全員がモニターを注視する。
しかし――
『たいちょー、この武器どうしますー?』
『こんな上層で手に入るものなど、どうせ大したものではないだろう。その辺りに捨てておけ』
『了解しましたー』
伝説とまで謳われた至宝の刀剣“ムラサメブレード”は、その辺にポイッと捨てられた。
カラーンという音がダンジョン内に空しく響く。
この事態に誰よりも怒りを露わにしたのは当然ウィザー――ではなく女騎士だった。
「ウィザー殿……ちょっとあいつら殺してくる……!」
「お、落ち着けぇ!」
怒り心頭の女騎士を宥めすかすのには、姫であっても相当の時間を要したという。