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14 歓迎しよう④

「さすがメルさん、見事な職人芸です!」


「女兵士の鎧破壊アーマーブレイク! やはりダンジョンといえばコレだよなー! 浪漫だよなぁー!」


「見てください、ウィザー様! メルさんの活躍でマナがこんなにも貯まっています!」


「……え? ちょっと引くくらい貯まってるんだが……これは奴にボーナスを出してやらんといかんな!」


「さっすが、ウィザー様! 太っ腹ぁ!」


 メルの活躍に、ウィザーとドリィは大いにはしゃぐ。

 それはもうどったんばったんと、上から下への大騒ぎだった。


 しかし、そんなウィザーたちの様子とは対照的に、姫は苛立ちを募らせる。


 何故上手くいかない。

 何故思い通りにならない。


 自分がこんなにも苛立っているのに、何故あの二人は無邪気にはしゃいでいるのか。


 声が煩い、癪に障る、騒ぐな、鬱陶しい。


 不快、不快不快不快――

 今の姫は、目の前のものすべてが不快だった。


 そして、その苛立ちはついに爆発する。


「――何故なのです!」


 作戦会議室に怒声が響き渡る。

 先ほどまでは喧騒に包まれていた作戦会議室が、一瞬にしてシンと静まり返ってしまった。


「ひ、姫様……?」


 姫の怒声に真っ先に反応したのは女騎士だった。

 その女騎士は、“信じられない”といった面持ちを見せている。


 姫付きの近衛に選ばれてから既に五年が経つ。

 しかし、このように声を荒らげた姫は見たことがなかった。


 ましてや、あんな恐ろしい、この世のすべてを憎んでいるかのような形相をしている姫の姿などは言わずもがなだ。


(あれではまるで……)


 『悪鬼羅刹のようではないか』――つい思い浮かべてしまった不敬な言葉を、女騎士はかぶりを振って無理やりに打ち払った。


 そんな女騎士の様子を見て、姫はハッと我に返る。

 場を取り繕うように、姫はコホンと一つ咳払いをした。


「い、いえ、先ほどあのスライムは、鎧さえ溶かすほどの酸を持っていると言っていたではないですか。なのに何故あの兵士は“無事”なのですか?」


 姫の言葉通り、先ほどメルの襲撃を受けていた女兵士は、身に付けていた鎧などは溶かされていたものの、その肌には傷一つ付いていなかった。


 それでもダンジョン内で素っ裸にされたのだ。

 無事とは言い難い状態ではあるが、少なくとも命に別状はなさそうだった。


 モニターを確認する。

 今その女兵士は、仲間たちにマントを羽織らせてもらっているところだ。


「フフン、凄いだろう。あれこそがメルが“職人”と呼ばれる由縁だ。対象の肌に傷一つ付けることなく鎧と衣服を溶解ブレイクさせる! 素晴らしい、これぞまさに職人芸!」


「メルトスライムといえど、ここまでの技術を持つ者は稀ですからね。彼には通常の給与の他に、技術手当として十万にゅるにゅるを支給させてもらっています」


「え、あいつそんな貰ってたのか!? やはり専門技術持ってる奴は違うなー」


「というか、何故ウィザー様が驚くのです。部下の給与については、キチンと報告しているはずですが?」


「……あ」


 ウィザーは『しまった』という顔をする。

 口笛を吹こうとしたが、“ふひゅ~”という気の抜けた音が出るばかりだ。


「さーて、人間どもはどうなったのかなーっと」


 誤魔化し方が下手くそなウィザーであった。

 そんな二人のやりとりを見て、姫はさらに苛立ちを募らせる。


 自分は聞きたいのはそんな答えではない。

 『何故敵を殺さないのか』――その理由を知りたいのだ。


 そしてその一方で――


(十万にゅるにゅるって何……?)


 そんなことが気になっている姫だった。

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