12 歓迎しよう②
「――全員無事かっ!? 体調が優れないものはすぐに報告しろ!」
侵入者たちは一旦ダンジョンの外へと待避したあと、すぐさま状況の確認を行っていた。
しかし、返ってくるのはいずれも『問題ない』という報告ばかりだ。
そればかりか、むしろ今までないくらいに気分が良いとさえ報告する者もいるほどだった。
(そんなバカな話があるか……?)
部隊の隊長である男は、この不可思議な状況に頭を悩ませる。
問題がないのは僥倖なことではあるのだが、この場合、問題がないことの方が問題なのだ。
でなければ、アレはいったいなんだったのかという話になる。
集団催眠?
記憶操作?
男は様々な可能性を思い浮かべるが、そのどれもが現状を説明しうるに充分とは言い難いものだった。
「隊長、進みましょう」
思い悩む隊長を見かねたのか、副官である女兵士が進言する。
「どのみち我々は手ぶらで帰ることができません。ならば進むしかないでしょう」
蛮勇、ともすれば無謀とも言える進言だが真理でもある。
なにより自身の副官、しかも女にこうまで言われては男も引くわけには行かない。
こうして、侵入者たちは再度ダンジョンへと突入していくのであった。
※ ※ ※
「――アレは私が特別にブレンドした“アロマ”というものですよ」
「ふむ、“あろま”というものはよく分からんが、ともかく毒煙などではないのだな?」
「阿呆、ダンジョンの入口でそんなものを噴出させる奴がいるか」
女騎士とウィザーたちの会話を、姫は少し離れたところで聞いていた。
“あろま”――その正体は姫にも分からなかったが、ウィザーの言葉は理解できる。
女騎士の言葉に踊らされて、つい早とちりしてしまったがウィザーの言う通りダンジョンの入口で毒煙を使用しても効果は薄い。
あのような風通しの良い場所で、しかもすぐにダンジョンの外へと待避することが可能なのだから。
どうせやるならあんなひらけた場所ではなく密室で、逃げ場をなくした状態で一網打尽にするべきだ。
先ほどのウィザーは、こういうことを言いたかったのであろうと姫は理解した。
(焦る必要はない……まだ宴は始まったばかりなのだから……)
姫は拳を強く握りしめて、逸る気持ちを抑える。
モニターを確認すると、侵入者たちはダンジョンのとある一室に突入しようとしているところだった。
「この部屋は“メルさん”が待機している部屋ですね」
「おお、メルのご登場か! さて、人間どもはどんな悲鳴をあげるのやら……」
『クックック』とウィザーは低い声で笑う。
“めるさん”――魔物の名前だろうか?
どんな魔物かは分からないが、ウィザーたちの様子から相当凶悪な魔物に違いないと姫は予想する。
それほどの魔物が相手となれば、あの侵入者たちもただではすまないだろう。
先ほどウィザーがしたように、姫も心の中で同じようにほくそ笑んだ。
『キャァァァーーーッ!!』
モニター越しであっても耳をつんざくような女の悲鳴が聞こえてくる。
その悲鳴を聞いた姫は、体面を保つことも忘れて喜色ばんだ表情を見せた。