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永遠の一秒  〜佐久間警部の帰郷〜(2024年編集)  作者: 佐久間 元三
差し迫る脅威
9/26

内部闘争(2024編集)

 ~ 警察庁公安部 ~


 現地捜査を終えた佐久間たちは、善後策について、緊急会議をしている。佐久間は、捜査過程で知り得た情報を、ホワイトボード上で整理し、説明した。


「では、佐久間警部()の考えでは、『無差別テロの脅威は、少ない』と。そう言いたいのかね?」


 ざわつく幹部たちの前で、佐久間は補足した。


()()()()()()()()と結論付けただけです。捜査過程で、分かったことは、『個人、かつ、最低限度で使用している事実』であります。試験的に撒いて、効果を検証してはいません」


「どういうことかね?」


「過去のサリン事件では、気化したサリンを、不特定多数の人間が、吸ってしまったことで、被害が拡大しました。二件の共通点なのですが、サリンが気化した形跡は、無かったことから、被害者(ガイシャ)の口に直接入れたか、注射による犯行が疑われます。岡山県の捜査では、犯行の発見を遅らすために、被害者の妻を装って、工作が成されたことから、無差別ではなく、個別事件のイメージを持ちました」


 佐久間が、地理的状況などを、細かく書き足していくと、公安部の一人が、挙手をした。


「佐久間警部、宜しいか?中川と申します」


「どうぞ」


「浜松市の医療品メーカーが、サリンを製造していることは、間違いないと思われますか?」


「断定はまだ出来ませんが、サリン製造過程で精製される、メチルホスニックジクロライドと、治療薬のアトロピンを、同時にやり取りしていた事実から、可能性は高いと思います」


「では、早々に乗り込んで、証拠を押さえてしまえば、もう事件解決では?」


 佐久間は、やんわりと、否を突きつける。


「ちょっと、お待ちください。まだ、被害者と接点が繋がっただけです。泉水孝太郎(ガイシャ)は、研究過程で、サリンの活用について、話をしていただけかもしれないし、製造事実が確認出来ていない」


 中川は、面白くないようで、この意見に反論した。


「佐久間警部らしくもない。この医療品メーカーを庇う、そう仰りたいのか?即刻、叩き潰して、吐かせるべきです。田舎の医療メーカーが潰れたって、たかが知れている」


 佐久間は、溜息をつきながら、


「そうではありません。熊本県の被害者とも、繋がりがあるかもしれない。被害者の二人は、犯人(ホシ)たちと敵対しているグループで、利権争いをしていたかもしれない。どちらにせよ、もう少し泳がせる必要があります。…かといって、静観するわけにもいきませんがね」


 中川は、なおも、食い下がる。


「では、佐久間警部はどうするんですか?指揮権は、中川(警察庁の私)でなく、部外者の佐久間警部(あんた)だ」


 会議室が、一瞬、静寂に包まれた。


(………)


 佐久間は、警察庁長官・警視総監と、目で会話した。


「無論、医療品メーカーに対しては、捜査のメスを入れます。但し、本日(ここ)からは、テロ対策特別チームではなく、警視庁としての捜査に切り替えます」


(------!)

(------!)

(------!)


「なっ、馬鹿を言うな!警視総監、あなたからも何か言ってください。こんな馬鹿げた話があるか。指揮権を、警察庁公安部(我々)に委任するべきだ!」


(………)


 警視総監の青山が、口を開いた。


「『無差別テロの脅威が少ない』と分かった以上は、警察庁公安部の指揮ではなく、警視庁・熊本県警察本部・岡山県警察本部での合同捜査に、一段階レベルを落とす方が、小回りも効くだろう。長官、どう思われますか?」


(………)


「妥当だと判断し、警視庁()に任せる。各警察本部と連携して、事に当たれ」


(------!)


「ちょっと待ってください。何故、警察庁公安部(うち)ではダメなんですか?警視庁は、下部組織なんですよ」


 静観していた安藤が、耐えきれず、口を挟んだ。


回答(それ)を、警察庁長官(トップ)に言わせる気なら、中川()は、警察学校で、一兵卒からやり直したまえ。…佐久間警部。この馬鹿者に、分かるように説明してやりなさい」


 佐久間は、静かに頷くと、ゆっくりと解説を始める。


「無差別テロであれば、日本全国対象に、国民の利害や生命が、著しく脅かされる危険性が高いため、統括する警察庁の名の下に、テロ対策特別チームが組織され、解決に努めます。しかし、無差別テロの脅威が下がり、一組織、もしくは、小規模犯による準テロ犯行や、殺人事件は、各警察本部による捜査が妥当です。これは、組織の規定にも、定められた事項であり、例外はありません」


「…という訳だ。中川()は、規定集を、もう一度、熟読し直せ」


(………)


(………)


「規定については、了解です。…ですが、サリンです」


「サリンによって、第三者被害が出ている場合は、テロ対策特別チーム(今のまま)で良いでしょう。しかし、第三者被害はなく、気化被害も出ていない。小規模犯行による準テロ犯行で、良いと判断します」


(………)


 中川は、完全に沈黙した。


(頃合いだな)


「では、警視長官(青山長官)。この辺で、テロ対策特別チームは解除し、各警察本部での捜査に切り替えます」


「頼んだぞ」



 ~ 警視庁警視総監室 ~


 内部闘争を終えた佐久間たちは、間髪入れず、警視総監室に入っている。


 科捜研の氏原も、一緒である。安藤・佐久間・氏原の三人は、警視総監席の前で敬礼し、後ろ手を組んだまま、青山の発言を待った。


「改めて、この捜査は、警視庁(うち)が主導権を持つことになった。警察庁公安部(やつら)は、正直、面白く思っていまい。長官をはじめ、上層部の者は、真意を掴んで、歯止めはしてくれるが、失態が生じれば、警察庁公安部(下の連中)は、直ぐにでも叱責してくるぞ。安藤捜査一課長(お前さん)は、他の課にも応援を求めよ。精鋭部隊で、この事件を終わらせるように」


 安藤は、深く頭を垂れた。


「佐久間、頼むぞ」


 佐久間も、安藤と同じ深さまで、頭を垂れつつも、表情が暗い。


「ん?どうした、何か言いたげだな?」


「事件解決の件、承知しました。まずは、浜松市に赴きます。一点だけ、お二人に事前にお話したいことがあります。先程の会議では、まだ公表しませんでしたが、事件関係者(マルタイ)の医療品メーカーは、私の知り合いかもしれません」


(------!)

(------!)


「とりあえず、聞こう」


「私は、二十年ほど前、静岡県に住んでおりました。当時の小学校で一緒だった友人と、同姓同名でしたので、信じたくなかったのですが、家業も含めて考えると、ほぼ確定です」


(………)


佐久間警部(お前さん)のことだ。『公私混同はない』と思うが、大丈夫か?」


「勿論です。はじめは、面食らいましたが、氏原(仲間)のおかげで、吹っ切れています」


(………)


「…そうか。自ら、決着(ケリ)をつけるか。大したもんだ、糞する前に、尻を拭きやがる」


「総監、汚いですよ」


「まあまあ、安藤課長。私は、大丈夫です」


 青山は、佐久間たちの前で、豪快に笑った。


「まあ良い、信用するぞ。いつも通りにな」


「はっ!」

「はっ!」


 

 ~ 警視庁捜査一課 ~


 課長の号令で、捜査一課員が全員招集され、捜査会議が開かれている。


「……以上が、これまでの事件経過だ。捜査指揮は、警視庁(我々)が執る。絶対に、失敗は許されない。一課だけでなく、必要に応じて二課・三課にも、協力要請を行っていく」


 山川から、質問があがる。


「警部。これまでの流れから、次は、『都内でサリン事件がある』とお考えですか?」


「そうだ。今やるべきことは、都内で起こるかもしれない、次を防ぐことにある」


「日下です、教えてください。範囲が絞れません。駅構内、空港、繁華街。どこで起きても大惨事だし、消防隊や自衛隊も、それこそ、必要ではないのでしょうか?」


「これまでの事件を、プロファイリングしてみた。不特定多数の場所が心配なのは、分かる。だが、この事件は、大学の近郊でしか発生していない。したがって、薬学部がある大学、それも、毒物学などに精通し、学会に参加している関係者の抽出を急ぎ、尾行体制を組むんだ。テロではなく、個別を対象にした犯行だから、大学関係者に的を絞ることにする」


 課内が、ざわついている。


「本当に、我々だけで、抑え切ることが出来るのか?」


「やるしかないだろう」


「地下鉄サリン事件を、見直してみよう」


 全員、腹をくくったようだ。


犯人(ホシ)は、警察(我々)を待ってはくれない。都内を守るのは、警視庁(我々)だ。各自、肝に銘じて、動いて欲しい。明日から、四班に分かれて、捜査を開始する。以上、解散」

 

 捜査会議が終わり、佐久間は、やっと家路へついた。氏原も、疲労困憊の色を隠せず、大人しく帰宅していった。


(長い、長い一日だった。……さすがに疲れたな)


 帰宅し、ドアを開ける前に、千春が出迎えてくれた。


「おかえりなさい、大変だったわね」


「ああ、今日は特にね。熱い風呂に入りたいな」


「そう思って、沸かしてあるわ。でも、その前に、村松さんに電話してあげて。何度も、自宅に掛かってきたの。あなたの携帯番号を教えたけれど、『仕事の邪魔しちゃ悪い』って。『帰宅したら、直ぐにでも、連絡ください』って言っていたわ」


(………?)


「急ぎの話はなかったはずだが。とりあえず、掛けてみよう」


 靴下を脱ぎながら、連絡を入れる。


「プルルルルルルル」


「夜分遅く、申し訳ありません。村松さんの携帯ですか?」


 少し間があったが、声色に気がついたらしい。


「佐久間か?やっと繋がったぞ」


「申し訳ない、何か急ぎの用事でも?」


「死んだぞ!」


「ん?死んだ?誰が?」


「ミツだよ」


(ミツ……?)


(------!)


「中村光利が、殺されたんだ!!」

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