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永遠の一秒  〜佐久間警部の帰郷〜(2024年編集)  作者: 佐久間 元三
エピローグ
25/26

回想(2024年編集)

 ~ 静岡県 聖隷浜松病院 ~


 村松泰成たちの逮捕から翌日、佐久間は、聖隷浜松病院に、再入院している。


「あれ程の容体で、外出など、出来る訳がないだろう。何を考えてるんだ、あんたは!」


 院長回診で、頭ごなしに、叱られる。


「死にたくなければ、あと二週間は、絶対安静だよ。手術を終えたばかりなんだから。傷口が、開いてなかったから、良かったが。打ち所が悪かったら、あんた、死んでたぞ。あんたを生かした、医師の努力を、蔑ろにせんように」


「誠に、申し訳ありません。反省しています」


 安藤と千春も、一緒に謝罪した。


「……遵守させます」


 院長が、病室から出ていくと、安藤は、深い溜息をついた。


「申し訳なかった。佐久間警部でなければ、事件は解決出来なかった。だが、その代償に、有能な部下を、またしても、危険な目に遭わせてしまった。……奥さん、この通り、謝罪いたします」


 安藤は、千春に、深々と、頭を下げる。


「課長、謝るのは、私の方です。私情で、友人の逮捕をかって出ました。本当は、他の誰にも譲れなかった自己欲求(エゴ)があったんです。…結果、警察組織(身内)にも、迷惑を掛けました。これからは、自重いたします」


「…分かった。ゆっくり、静養してくれ。取り調べ室での内容は、退院後に伝える」


「承知しました、よろしくお願いします」


 安藤を見送った千春は、佐久間の脇に腰掛けると、そっと、手を握った。


「やっと、終わったんですね。……お疲れさまでした」


「…ありがとう。今回は、本当に迷惑を掛けた。今だから話すが、正直、何度も死を予感した。昨日よりも、府中市で、潜伏していた時が、ヤバかった」


(………)


「でも、その生命を削った捜査が、綱渡りでも、解決に導いたのね。これ以上は、何も、言わないわ。早く、良くなって」


「…ありがとう、ゆっくり静養するよ」



 ~ 東京都、警視庁 ~


 二週間の入院を経て、捜査一課に復帰した、佐久間を待っていたのは、今回の事件についての、102頁からなる、大量の調書であった。


(………)


 佐久間は、屋上で、タバコを吸いながら、じっくりと、目を通す。



【取り調べ結果と、時系列の報告について】


『取り調べ結果と、時系列について、ここに記載する。


 親友の深見和生から、妹殺害の犯人である、三人の元同僚に対する復讐を、相談された村松泰成は、その場で、快諾した。


 東京都内で、深見和生と打ち合わせた村松泰成は、無二の友である、中村夫婦に画策を持ちかけ、十月九日に、中村光利、中村真央と、熊本県に現地入りする。


 中村夫婦には、サリン製造と保管の役割があるため、自らが、中村光利と名乗り出て、万が一の替え玉として、遠藤省一を、十月十日に、熊本県に招き入れた。


 現地の娼婦を雇い、中村真央に対応させる中、中村光利とともに、崇城大学付近の、殺害場所を下見。


 中村真央が、火の鳥温泉から合流すると、中村真央が、電話で船津大介を呼び出し、サリンを投与して殺害した。

 

 なお、呼び出し方法は、中村真央の誘惑電話であったと、供述より判明。


 事件後は、阿蘇にあるパークホテルに宿泊し、翌日早朝から、村松泰成が、火の鳥温泉に宿泊している、遠藤省一と合流し、接待ゴルフを行う。


 岡山県の岡山理科大学へは、二日後の十月十三日から、中村夫婦と現地入りし、下見を実施。


 翌十月十四日に、荒井重信をホテルに案内し、娼婦をあてがって、足止めをしている間、二十時過ぎに、泉水孝太郎を、中村真央の電話で、雑木林に呼び出し、サリンを投与して殺害。


 なお、学園祭とはいえ、大学への出入りには、守衛室を通らなければならないため、予め、ネットで仕入れていた情報を基に、精巧な学生証・教師の名札を用意。


 捜査を撹乱するため、十月十五日早朝に、中村真央が妻を装い、教務課に電話を入れ、泉水孝太郎が、直接、石川県の学会に向かったと告げた。


 村松泰成は、この時点で、警察の捜査が、どこまで進展しているのか気になり、警察庁と警視庁へ、不正アクセスし、捜査情報を入手する。


 十月十七日に熊本県、十月十八日に岡山県へ、捜査のメスが入った事を、把握した村松泰成は、佐藤圭一の殺害計画を、仲間内で話し合っていたが、中村光利が、『事件から降りたい』と申し出たのを機に、中村真央と共謀して、ボツリヌス菌を投与して、中村光利を殺害した。


 供述では、この時に、不倫関係がバレたことが、大きな要因となったようだ。


 村松泰成は、十月十八日深夜に、佐久間警部に連絡して、『中村光利が、何者かに殺害された』と、情報を入れ、第三者の立場を装い、十月十九日に、佐久間警部と再会する。


 犯行計画に歪みが生じ、佐久間の捜査網が、近くまで来ていると、予感した村松泰成は、佐久間警部が、中村光利の遺体安置室に向かった情報を仕入れると、一足先に、佐藤圭一を殺すため、東京都の日本大学へ向かう。


 十月二十日、日本大学を下見する際、盗聴していた捜査状況から、佐久間警部が帰京することを知り、予定を変更し、佐藤圭一の殺害を、急遽実行する。中村真央経由で、屋上に呼び出して、サリンを投与するところまでは、成功。


 当初予定では、夜間の殺害計画だったが、佐久間警部が、村松泰成の予測範疇を超えて、佐藤圭一の殺害をプロファイリングし、犯行場所まで、最短距離で、辿り着いてしまったため、死亡を確認せず、現地から逃走するしか、出来なかった。


 三十分違いで、現地から脱出し、事なきを得たが、サリンの治療薬で、佐藤圭一は、九死に一生を得て、息を吹き返し、警視庁の手によって、身柄を確保されてしまった。


 十二月に入っても、佐藤圭一の所在を掴めず、焦り始めた村松泰成は、自ら、警視庁に乗り込み、佐久間警部に探りを入れるが、不発に終わる。


 焦る村松泰成は、十二月七日に、佐久間の元へ届くよう、十二月四日に、大阪まで足を運び、犯行声明を投稿し、撹乱を狙うことにした。


 十二月七日、警視庁に犯行声明が届き、佐久間警部が、遠藤省一と荒井重信を、事件対象者として、捜査するよう仕向け、捜査期間を延ばすよう、画策すると同時に、中村光利の、四十九日法要に参加。


 この日を境に、不倫していた中村真央と、世間体を気にせず、交際を開始する。


 佐藤圭一の殺害計画が、すっかり頓挫したため、『三ヶ月程度は、進展がない』と考えた村松泰成は、中村真央を新社長に昇格させて、裏側から、施設運営の強化を開始する。


 三月に入り、不正に得た捜査情報から、三月十一日に、浜松市北区細江町に、佐久間警部が訪ねてくることを、掴んだ村松泰成は、中村真央に連絡する。


 中村真央は、受付嬢である伊藤梨花に、監視役の指示を出し、佐久間が静岡県にいる間、全ての動向を押さえ、報告させた。


 三月十二日、中村光利の墓前で、近藤智美と佐久間警部が偶然会い、静岡県浜松市浜北区道本の倉庫情報を入手したようだと、伊藤梨花から中村真央へ、中村真央から村松泰成へ報告が挙がる。


 同日、村松泰成が、中村光利の生家近くの、ビル屋上から、佐久間警部が、生家から、立ち去るのを見届けると、深夜、不正入手した捜査情報から、二日後の三月十四日に、家宅捜査が入ることを知り、アジトの、爆破による大量殺人と、証拠隠滅を計画する。


 三月十三日、深夜に、近藤智美と伊藤梨花を、工場の屋上にて、時間差で毒殺し、浜名湖大橋の桁下に遺棄する。


 三月十四日、家宅捜査で突入を受けた場合、小屋に入った瞬間に、引火するよう、ドアノブに導火線を細工しておき、状況を、モニターで見届ける。


 この爆発で、静岡県警察本部の秋山警部ほか、四名が殉職し、警視庁捜査一課メンバーも、負傷する大惨事となった。


 三月十七日、全国報道で、佐久間警部死亡を把握した村松泰成は、深見和生と連絡を取り合い、今後の対応について、話し合った。

(この同じタイミングで、佐久間警部が、東京都府中市の石碑近くに、捜査員が潜伏出来る、秘密基地の設置を指示)


 三月二十四日、報道で、佐藤圭一を重要参考人として、警視庁が、過去の余罪を含め、捜査していることを、把握した村松泰成は、再び、深見和生と連絡を取り合う。


 三月三十日、深見和生ならびに佐藤圭一を、東京都府中市の山中で、現行犯逮捕する。


 逮捕と同時に、深見和生から、村松泰成あてに、連絡が入る。

(佐久間警部により、国外逃亡するように、仕向けることが目的で、深見に依頼したもの)


 三月三十一日、山梨県身延山付近で、山狩りがあることを察した、村松泰成と中村真央が、国外逃亡するために、関西国際空港へ移動するが、先回りした佐久間警部によって、現行犯逮捕される。

 

 詳細事項を含む、時系列報告は、以上である』

 

 調書を読み終える頃には、山川が、捜査から戻ってきていた。


「警部、屋上(ここ)でしたか?」


「山さん、留守中は、色々と不便をかけた。すまなかったね」


 山川は、嬉しそうに、謙遜する。


「問題ありません。お身体は、もう大丈夫ですか?」


「ああ、すっかり回復したよ。ずっと、大人しく寝ていたんだが、腰を痛めてしまったよ」


「…調書ですか。読み返すほど、実に、色々ありましたな。中村真央について、よく分かりませんが、アウシュビッツを、傾倒していたとか」


(………)


「アウシュビッツは、『中村真央の起源』と言っても、良い。ユダヤ人を迫害のうえ、殺害した殺人科学兵器を、中村真央なりに、心を痛め、根絶を、強く願った。同時に、サリンに対する知識も、向上していったんだと思う。村松泰成経由で知った、深見和生の妹の死は、二十年も、罪から逃れ、ノウノウと生活している犯人を、どうしても、赦せなかったのだろう。サリンによる殺害は、中村真央なりの、正義があったのかもしれないね」


 山川のタバコに、佐久間は、火をつける。


「中村光利も、犯人(クロ)でしたな?」


「被疑者死亡のまま、書類送検されるだろう。中村光利は、潔白(シロ)のまま、送ってあげたかったよ」


「村松泰成を、どう思われますか?」


「村松泰成か。司法書士の肩書きは、半端なかったね。正直、今までの逮捕した中でも、トップクラスの賢さだったよ。一歩間違えれば、捜査自体、村松泰成に、食われていたと思う。運良く、勝てただけなのかも、しれないね」


「警部に、そこまで言わせるとは、相当です。深見和生は、どうですか?」


「深見和生かい?」


(………)


 佐久間は、しばらく黙って、空を見上げた。


「今回の事件は、本来なら、深見和生が首謀者になるんだが、村松泰成が、脇役から主役になった事件だと思うんだ。殺害にしても、サリンではなく、いくらでも、方法はあったはずなのに、選択肢が無かったところをみても、深見和生は、疎外感が見受けられた。逮捕された時に、『言い逃れ出来るように、一歩引いていた』のであれば、責任回避をしたんだろう。そのことから、深見和生の、冷静さと、したたかな性格が、見て取れるな。割を食うのは、村松泰成と、中村真央だよ」


(………)


「でも、やっと、終わったんですね」


「……終わった。かなりの犠牲が出た、思い出したくない事件になった」

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