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永遠の一秒  〜佐久間警部の帰郷〜(2024年編集)  作者: 佐久間 元三
動きだす歯車
20/26

四十八時間 3(2024年編集)

 ~ 家宅捜査の当日 ~


 警視庁からは、捜査一課長安藤、佐久間、山川、日下、捜査二課、捜査三課で、編成を組んだ。静岡県浜松市北区細江町と、浜松市浜北区道本に分けて、投入する予定である。監視されていることを想定し、捜査課毎に、目立たぬよう、東海道新幹線で移動している。


 静岡県警察本部から、家宅捜査の時間について、連絡が入ったのは、十五時過ぎであった。


「明日の家宅捜査ですが、細江町と道本を、同時に、十六時で行いましょう。内偵捜査で、この時間帯であれば、工場製造ラインが、十五時五十五分に終了するため、安全面からも、都合が良いです」


中村真央と村松泰成(二人)の動向は、どうですか?」


「中村真央は、工場二階の社長室にいるはずです。村松泰成については、静岡県警察本部(我々)の捜査員が客を装って、十五時五十分に、浜北区小林の司法書士事務所で、相続相談をする手筈にしています」


「承知しました。では、警視庁からは、延べ十四名、現地入りします。細江町と道本に、配置しするものとし、小林は、静岡県警察本部にお任せします」


「小林の件は、了解しました。静岡県警察本部(こちら)は、細江町に八名、道本には、秋山警部ら五名を配置しますよ。では、明日、一時間前の配置準備を目途に、分散して起こしください。犯人たちに、感知されないよう、本配置は、ギリギリの、十五時五十五分としましょう。警視庁内の指令は、一任します」


「承知しました。では、明日」



 ~ 東海道新幹線 車内 ~


「佐久間より、全捜査員へ」


 捜査員たちは、全員、片耳にイヤホンを装着しており、佐久間の言葉を待つ。


「予定通り、浜松駅には、十四時三分に到着する。A班の七名は、浜松駅西口を出たところで、待機している、浜松中央署のマイクロバスに乗車。目的地で下車したら、現地から、離れたところで待機。定刻五分前、安藤課長からの指示に従ってくれ」


 少し、間を空けてから、佐久間はB班に伝える。


「私を含めたB班は、浜松駅から、遠州鉄道に乗り換えて、美園中央公園駅まで移動する。目的地が、徒歩数分で着くことから、定刻十二分前までは、駅前の公園で、分散待機。住宅地なので、十五時五十五分を目途に着くよう、公園から、時間調整しながら向かう。着いてからの指示は、適宜行う。以上、よろしく頼む」


 全員が、静かに頷く。


 佐久間が、マイクを切ると、山川が、昨日の捜査結果を、小声で報告した。


「警部、昨日の捜査結果です。まず、熊本県班からです。崇城大学から、七百メートル程の場所にある、弁当のヒライという、チェーン店で、中村真央、村松泰成、そして、身長百六十センチメートル前後の男、計三名の目撃情報を得たと。時間は、十五時五十七分です。阿蘇くまもと空港では、偽名を使用したのか、氏名検索からは、該当しませんでしたが、三名の目撃情報があったとのことです。おそらく、チェーン店と、同じ顔ぶれかと」


(やはり、三名か)


「三人目の顔写真が、見たいな」


「チェーン店、空港の両箇所で、防犯カメラ映像を解析中とのことです」


「では、報告を待つとしよう。岡山県の方はどうだい?」


「岡山県は、残念ながら、一定の成果を、得られなかったようです。敷地内とはいえ、学園祭で、想定以上の人数が、出入りしていて、特定には、至らなかったと。最寄り駅の防犯カメラ映像には、映っていなかったことから、『タクシーなどで、移動したのではないか』とのことでした」


(………)


「岡山県の場合は、納得がいく。あそこは、バスかタクシーで移動するのが、早いからな。事後の結果報告に、期待しようじゃないか。山さんの方は、どうだい?佐藤圭一は、堅物で、一筋縄ではいかなかっただろう?」


(………)


 山川は、口惜しい表情で、黙って頷いた。


 佐久間は、山川を慰める。


「問題ないさ、山さん。元々、無理を承知の捜査だった。熊本県で、該当(ヒット)しただけでも、御の字だ。それよりも、遠州鉄道(赤電)が、山さんを待ってるぞ」


(……警部、あなたって、人は)


「ありがとうございます、二回目ですな、遠州鉄道(赤電)は。赤のボディに映える、白ラインの線形と、太さのバランスが、良く調和され、惚れ惚れするほど、美しい」


「そうだね。この間、氏原が言っていたよ。乗り心地は、『東武アーバンパークライン』と似ている、とね」


(確かに、そうだな)


「そういえば、どことなく、似ていますな。景色も、梅郷駅〜春日部駅の区間が、重なります。鉄道マニアが、好むポイントです」


 少しだけ、調子を取り戻した山川を見て、安心する。


(そうだ、それで良い、山さん。成果が出なくても、気持ちを切り替えるんだ)


 家宅捜査まで、三時間を切った。



 ~ 十四時三分、浜松駅 ~


 名古屋行き、東海道新幹線こだま二十八号は、定刻通り、浜松駅に到着した。捜査員たちは、指令通り、二手に分かれて、分散していく。


「課長、細江町の方を、お願いいたします」


「ああ、細江町(こちら)は、任せろ。道本(そっち)は、ちと、大変かもしれんが、信じとるぞ。秋山警部にも、よろしく伝えてくれ」


「承知しました。では、後ほど」


 遠州鉄道の新浜松駅へ向かうと、予想通り、山川が、遠州鉄道の成り立ちや、赤電の白いラインに対する拘り、景色の楽しみ方、物語性について、語り出した。


「けっ、警部、お諫めしてください」


 佐久間は、苦笑いする。


「これが、鉄道マニア(山さん)だよ。以前、山さんと乗車した時、私は、元々、浜松市が地元だから、ある程度は知っていたが、知らん振りして、講義を受けた。山さんの鉄道愛は、本物だ。良い機会だから、覚えておいて、損はないぞ。…これも、社会勉強だ」


 そう言い残し、佐久間は、存在をかき消すように、別の車両へ移動していった。


(…流石は、警部。緊急回避は、完璧だ)


 山川の熱い解説は、美園中央公園駅まで、延々と続く。



 ~ 十五時五十分、美園中央公園 ~


「佐久間より、B班へ。みんな、山さんの熱い解説は、堪能出来たか?今度は、いよいよ本番だ。秋山警部たちと合流しながら、現地入りする。目的地は、住宅街だ。騒げば、感知されるから、静かに行動してくれ。なお、地下には、サリンがあり、危険かもしれない。最悪の事態を想定して、臨むように」


 美園中央公園を出ると、秋山警部たち、五名が合流した。


「秋山警部、今日はよろしく」


「こちらこそ。あと数時間後には、()()()()です。嬉しい限りですよ」


(嬉しい?……嫌な予感しかないが?)


 佐久間は、これまでの盗聴や、盗撮手法を思い出し、最悪のシナリオを思い浮かべた。


(もし、村松泰成が、今日の家宅捜査(ガサ入れ)を知っていたら、どんな手を打ってくる?…私なら、全ての箇所で、一斉に姿を消して、証拠隠滅を図るだろう。これを、皆に、言うべきか?…しかし、秋山警部の士気を下げるのも、今は避けるべきだ。…まずは、様子を見よう)


 目的地だ。


 佐久間は、突入の合図を合わせるため、携帯電話で、安藤へ連絡を入れる。


「B班、予定通り現着。これより、突入を開始します」


 様子が変だ。即座に、安藤が返事をしない。


「……課長?」


「……待て、様子がおかしい。工場が施錠され、事務所は、もぬけの殻だ!」


(-------!)


 同タイミングで、山川には、捜査一課から連絡が入り、事情を聞いた山川は、狼狽しながら、状況を報告する。


「けっ、警部!佐藤圭一が、新宿区の隠れ家から、姿を消したとのことです!」


(-------!)


(何が起きた?)


 秋山警部の携帯にも、着信だ。


(………)


「はあ?村松泰成が、姿を消した?張り込み隊は、何をやってるんだ!!」


(------!)


 全てが、佐久間がイメージした、最悪のシナリオと重なる。


 刑事の勘だ。


(この場は、危ない)


「全員に告ぐ。一度、生家(ここ)から撤退する。直ちに、下がるんだ!」


 佐久間が、危険を察知し、退避命令を出す最中、秋山警部の部隊が、命令を無視して、突入していく。


「くそっ!おい、突入だ。このままでは、静岡県警察本部(うち)の信用は、ガタ墜ちだ。地下に突入----!」


 佐久間は、何とか、秋山たちを止めようと、懸命に背を追った。


「秋---山---!罠だ---!開けるな、爆発するぞ。止まれぇぇ---!」


 佐久間の声は、秋山には届かない。


 秋山が、倉庫内に、飛び込んだ瞬間。


「ピ、ピ、ピ……ド----ン!」


(------!)

(------!)

(------!)


 想像を絶する爆発と衝撃波が、全てを、吹き飛ばす。


 突入を踏みとどまった、捜査員たちも、爆風で飛ばされ、民家の壁に激突する。


 爆発音と衝撃に驚いた住民たちは、自宅から窓を開けて、現地を確認すると、惨劇に言葉を失った。テロだと、110番通報する者、サンダルのまま、駆けつける者、嗚咽する者、泣き出す者、様々だ。


 頭を強打し、薄れゆく意識の中で、山川は、佐久間の姿を、懸命に探す。


 煙幕で、先が見渡せない。


「けっ、警部。わた…しが…今、助け……ま」


 B班は、こうして、皆、意識を失った。


 携帯電話から、安藤の声が空しく響く。


「おい、佐久間。応答せよ。もしもし、大丈夫か!応答せよ。佐久間、佐久間、無事か、無事なのか。何とか言ってくれ。佐久間、俺だ、安藤だ。皆は、無事か!佐久間、何でも良い、応答してくれえ!!」


 携帯電話は、佐久間の血で、真っ赤に染まっていく。

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