表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
永遠の一秒  〜佐久間警部の帰郷〜(2024年編集)  作者: 佐久間 元三
動きだす歯車
PR
18/26

四十八時間 1(2024年編集)

 ~ 東京都 警視庁 ~


 十八時五十二分、警視庁捜査一課では、佐久間の到着を待って、緊急捜査会議が開かれていた。


 佐久間は、改めて、最新の捜査状況と、今後の展開を説明する。


「…以上が、これまでの経緯だ。二日後には、中村真央と村松泰成を、重要参考人として、身柄確保し、拘留したい」


 捜査会議室は、緊張感が漂っている。


「警部、本当に、この間、来庁した村松泰成が、犯人なのですか?」


「あの時、実は、少し違和感を覚えていたんだ。普通、お前たちの友人は、個人的な理由で、警視庁(ここ)を訪れ、写真を渡すと思うか?訪問(あれ)は、まず、敵情視察と見るべきだ。捜査員は、何名いるとか、事件の重要性を、どの程度掴んでいるのか、それと、捜査一課内の雰囲気を、肌感覚で掴みたかったのだろう。酒を飲んだ時も、捜査状況を、探りに来ていたからな」


「警部、宜しいですか?」


 山川が、追加情報を入れる。


「その村松泰成ですが、東北大学教授の遠藤省一と、北海道工業大学教授の荒井重信の両名から、裏付け(ウラ)が取れました。警部の見立て通り、中村光利の名で、接待していたのは、村松泰成です」


(………)


「つまり、熊本県と岡山県の犯行時に、村松泰成は、現場にいた。おそらく、中村真央もだろう。家宅捜査(ガサ入れ)までの二日間が、勝負だ。手分けして、熊本県と岡山県に行って、村松泰成と中村真央が、現場付近で目撃されたか、聞き込みしてくれ。大学近郊のコンビニエンスストア、駅などの防犯カメラ解析も頼む。残念ながら、サリンを、実際に使用した、物的証拠がない。あるのは、司法解剖結果と状況証拠だけだ。犯人は、徹底した証拠隠滅を、図っているだろう。家宅捜査(ガサ入れ)しても、何も出て来なければ、警察組織(我々)は、負ける。そのつもりで、証拠を集めて欲しい」


 佐久間は、これまで知り得た情報から、新たに仮説を立て、ホワイトボードに、加筆していく。


「聞き込みをする時は、今から書く内容を、良く頭に叩き込んで、行って欲しい。時間経過も、記載しておく」


 ◯第一犯行の仮説

  十月十日、九時。阿蘇くまもと空港で、中村真央が、東北大学教の

  授遠藤省一を出迎え、火の鳥温泉に案内し、娼婦を当てがい、

  現地から移動。


  十五時~十五時三十分。

  崇城大学講師、船津大介が死亡。死亡場所は、崇城大学側の市道

  (登坂箇所)。

 

  十月十一日、早朝より、村松泰成と遠藤が合流し、ゴルフをした後、

  遠藤が先に帰参。村松泰成の、その後の、足取りは不明。


「聞き込みする者は、犯行の、一時間前後に絞って、中村真央と村松泰成の足取り、目撃者を探してくれ。崇城大学の学生に、片っ端から声を掛けること。阿蘇くまもと空港では、二人の搭乗時間や、利用日を当たって欲しい。次に、岡山県の犯行だ」


 ◯第二犯行の仮説

  十月十四日、二十時~二十一時。

  岡山理科大学教授、泉水孝太郎が死亡。

  死亡場所は、大学敷地内の雑木林。

  教授は、敷地内から出ていない。学園祭準備の学生に紛れ、侵入し、

  現地まで、電話で呼び出したと思われる。


  同日、十三時頃。岡山空港で、中村真央が、北海道工業大学教授の

  荒井重信を出迎え、地獄温泉に案件。娼婦を当てがい、現地から移動。


  十月十五日、九時から、村松泰成と荒井が合流し、ゴルフをした後、

  荒井が先に帰参。村松泰成の、その後の、足取りは不明。


「岡山理科大学の場合も、学生たちに、片っ端から、話を聞いてくれ。守衛室にも、二人の写真を見せて、確認すること。岡山空港でも、二人の搭乗時間や、利用日を当たって欲しい」


 安藤からも、質問が挙がる。


「日本大学教授の、佐藤圭一は、どうする?まだ、泳がせるのか?」


「その点は、山さんに、任せましょう。山さん、村松泰成の顔写真を見せて、殺人未遂事件を、『村松泰成から受けた』という、供述をさせてくれ。最低、村松泰成か、中村真央が、『佐藤圭一に接触した』という、事実だけがあれば、良い」


「私の得意分野ですね、やってみます」


 最後に、佐久間は、捜査一課の全員に頼んだ。


「みんな、明日が大事だ。時間がない中での、聞き込みは、熾烈を極めるだろう。どんなに些細な情報でも良い、よろしく頼む。聞き込み以外の者は、二日後の、家宅捜査に参加してもらう。では、各班、山川刑事の指揮で、班編成を行い、解散!」


 捜査会議が終わると、そのまま、班編成が行われ、安藤と佐久間は、警視総監室へ向かった。



 ~ 警視庁 警視総監室 ~


 警視総監室では、既に青山が、事情を把握している。


「捜査会議の様子は、このモニターで見ていたから、再説明は不要だ」


「恐れ入ります」


「佐久間警部。君は、明日、どの場所で、捜査指揮を執るつもりだね?」


(………)


「全体の状況把握を行ってから、静岡県警察本部と、詳細を詰めます。少し、調べてみたい内容も、出てきましたので」


「ほう?この事件は、もう()()では、ないのかね?」


「ほぼ、詰みだとは、思いますが、サリンを、二人だけで使用するには、無理があります。まだ、他にも、共犯者がいるはずです」


 青山と安藤は、顔を見合わせた。


「これまでの、登場人物以外にも、いると言うのかね?」


「おそらくです、あくまでも、直感に過ぎませんが。松本サリン事件の時は、二桁の人間が、事件に関わりました。今回の規模は、小さいですが、最低、三人から四人は必要かと思っています。中村光利も、その一人だったはずですが、三人だけの計画とは、思えないんです」


「ならば、どうするんだ?」


「鍵を握るのは、日本大学教授の佐藤圭一です。佐藤は、犯行を目の当たりにしながら、犯人を、頑なに庇っております。佐藤の口から、第四者の氏名が出てくれば、解決へと辿り着けるはずです。その為、犯人は、私宛に、あからさまな、犯行声明を送ってきました。『陽動中に、佐藤圭一を、どうしても殺したい』と考えているはずです。その為、明日は、単独で、捜査するつもりです」


「まだ、監視されていると、想定した事だな?…総監、如何でしょうか?」


「……任せよう。安藤、頼んだぞ」


「はっ、承知しました」



 ~ 東京都内 佐久間の自宅 ~


「今日も、お勤め、ご苦労さまでした」


 千春は、いつもと同じ仕草、同じ口調で、出迎えるよう、努めている。


 長年、夫婦をしていると、肌感覚で、ある程度、想像がついてしまうのだ。会った瞬間の、夫の表情で、どの程度、神経を擦り切らせてきたかである。


 この日の佐久間は、単純な疲労というよりも、精神的に、自分を追い込んでいるようだ。


「中村さんの捜査?」


「…流石だね。昨日、さいたま市から浜松市に飛んで、今日の午前中には、東京に戻る予定だったんだが、次々と、事態が動いてしまってね。静岡県内を、色々と回って、やっと戻って来られたんだ。とても疲れたな」


「先に、お風呂どうぞ。ゆっくり、入って」


「うん、甘えるよ」


 子どもたちの寝顔を見てから、二人だけの時間を過ごす。


「あなた、絢花の吹奏楽だけれど、最後の発表会、来られそう?」


(………)


「来週の土曜日だったよね。何とか、行きたいとは思っているが。…絢花には、まだ言わないでくれ」


「はいはい。無理しなくて、良いわよ。どうしたの?」


「今の捜査なんだが、いつもと、少し様子が、おかしい。いや、おかしいというか、嫌な感じしか、しないんだ」


「…初めてね。あなたが、そんなことを言うなんて」


 千春は、思わず箸を置いた。


「刑事の勘というのかな。いつもは、自分の思惑通りに、事件が解決していくんだがね。今回は、予想の範囲を、超えているんだよ。犯人の能力が高いのは、事実なんだが、ジワっと、進展するのではなくて、ズバッと、一気に、空気そのものが動くんだ」


(………)


 千春は、佐久間の手を、握りしめた。


「逃げることは、恥じゃない。危ないと思ったら、とりあえず逃げて。生命優先よ、…分かって」


「…うん。でも、友人の捜査は、こりごりだ」


「ご飯食べたら、早く眠って。明日も、大変なんでしょう?」


「そうだね。明日、明後日と、おそらく帰って来られない」


「……そう。無理だけは、しないでね」


 夕食後、深い眠りにつく佐久間。


「あらあら、本当に、直ぐに眠っちゃったわ」


(……神さま。どうか、この人を、無事に私たちの元へ、お戻しください)


 千春は、静かに、天を仰いだ。

  

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ