二人だけの約束(2024年編集)
~ 静岡県浜松市北区細江町中川 ~
細江町は、静岡県引佐郡にかつて存在した町で、2005年7月1日、周辺11市町村とともに、浜松市へ編入合併され、消滅したことが知られている。
佐久間は、幼い頃から細江町には、よく訪れていた。浜名湖で、父親と潮干狩りをするためである。
どこを歩いても、潮風に乗って、磯の香りがする地であった。
父親は、この地を、こよなく愛していて、生前からの遺言で、『俺が死んだら、遺灰を、浜名湖と天竜川に流して欲しい』と、佐久間に託す程、親子にとっても、思入れが強い場所でもある。
(こんな形で、また訪れることになるとは)
中村光利の死は、瞬く間に、同級生に広まり、大騒ぎとなった。司法解剖に伴い、葬儀は三日後である。
一目だけでも会いたいと、自宅に駆けつけた同級生たちであったが、規制線が張られているため、最寄りの公民館で、通夜の代わりに、皆で、明るく見送ることになった。
事情を察した自治会長が、好意で、公民館を開放してくれ、同級生たちは、自宅に手向けるはずだった献花や、通夜振る舞いの料理を、公民館に運び入れると、喪主なしの通夜と称した、同窓会が始まった。
村松泰成から、事情を聞いた佐久間も、まず公民館に顔を出し、旧友たちと再開することにした。公民館に到着すると、二十三名が集まっており、そのうちの一人から、大声で呼ばれる。
「佐久間じゃないか!本当に久しぶりだな。泰成から、話は聞いてるよ。警察官になったんだってな!」
かつての友人たちも、嬉しそうに佐久間の元に駆けつけ、佐久間もまた、懐かしさで、笑みがこぼれる。
「ご無沙汰だね、皆、元気そうでなによりだ。中村光利には、会えたか?」
「それがさ、殺人事件なんで、司法解剖だってさ。お前の力で、頼んでくれよ」
(………)
さすがに、首を縦には振れない。佐久間は、申し訳なさそうに、
「警視庁ならともかく、静岡県警察本部の縄張りだ。私が頼んでも、到底無理だ。すまないな」
「そうか、まあ仕方がないな。組織って言うんだろう。もう会えないって訳でもないし、我慢するさ」
「おっ、揃ってるな」
事情を知らない村松泰成が、空気を入れ替えた。
「佐久間、来てくれたのか?わざわざ、東京から悪いな。光利や真央ちゃんも喜ぶよ」
「いいや、連絡貰って助かった。出張から、ちょうど帰ってきたところだったよ。光利が、引き合わせてくれたんだよ」
「今日は、ゆっくり飲めるんだろう?」
佐久間は、残念そうに、首を横に振った。
「皆とゆっくり話をしたいんだが、仕事柄、どうしても、先にやりたいことがあるんだ。今日は、挨拶だけでもと、立ち寄っただけなんだ。本当に、申し訳ない。今度、ゆっくり付き合うよ」
佐久間は、一人一人に挨拶してから、公民館を後にする。見送る村松泰成が、残念そうに呟いた。
「今日は仕方ないが、時間が取れたら、酒でも飲もう」
「葬式には、出る予定だ。その時にな」
~ 中村光利の自宅 ~
山川たちと合流した佐久間は、規制線の前で、若い警察官に、声を掛ける。
「警視庁の佐久間警部ですか。…あっ、伺っております。今、上司を呼んで来ます」
「佐久間警部!」
静岡県警察本部の秋山警部が、駆けつける。
「初動捜査を引き継いでるんですが、ちょっと手間取りまして」
「やあ、秋山警部。ご無沙汰してるね、世話になるよ」
「秋山さん、この方は?」
若手の捜査員が、秋山に尋ねた。
「お前、この人を知らないのは、モグリだぞ」
「警視庁捜査一課、佐久間です。捜査の邪魔をして申し訳ない」
(…警視庁の佐久間)
「佐久間って、あの佐久間警部ですか!…色々と、噂は聞いています。握手しても?」
「頑張れよ、後輩」
佐久間は、微笑みながら握手をすると、
「秋山警部、とある捜査で、中村光利を事件関係者扱いにしたところだったんだ。中村光利は、旧知の仲でね。どうしたものか考えていたんだが、訃報を聞き、飛んできたんだ」
秋山たちは、驚きを隠せない。
「…そんなこともあるのですね」
「死因は何だったのか、聞かせてくれないか?」
「司法解剖しているので断定はこれからですが、毒殺です」
(………)
佐久間は、ある程度予想していたのか、黙っている。即座に反応したのが、山川である。
「毒殺?まさか、サリンとかですか?」
「サリンですか?いいえ、そんな大層なものじゃないですよ」
秋山は、両手で否定した。
「おそらく、ボツリヌス中毒です」
「ボツリヌス中毒だって?」
今度は、氏原が口を挟んだ。秋山は、『知らない奴が、何か食いついたぞ』の空気を少しだけ、醸し出し、表情を曇らせる。それを察した佐久間は、慌てて軌道修正に入った。
「ええと、秋山警部。こちらは、科捜研第二化学科の氏原と、捜査一課の山川刑事だ。紹介が遅くなってすまないね」
(………)
「いえ、どうぞよろしく」
秋山警部も、佐久間の心情を察したのか、話を進める。
「ところで、ボツリヌス中毒とは本当ですか?薬物使用の形跡が見られたとか?」
「どういう事だ、氏原?」
「ボツリヌス菌ってのは、基本的に食べ物からか、菌の胞子が、傷口から入って感染するんだ。最近は、ヘロインやコカインに多く見られてな。創傷ボツリヌス中毒が、見られる傾向があるんだよ」
(……ほう?)
「流石にお詳しいですね?鑑識官の話では、刺し傷があり、そこから菌が入って感染したと、見解がありました。今、司法解剖で確認している頃でしょう」
(………)
佐久間は、やり取りを聞きながら、周辺の状況を確認しようと一歩踏み出した時、
「佐久間くん?」
振り返ると、当時と変わらない、つぶらな瞳と目が合った。
「真央ちゃん、しばらく。こんな形で会うとは思わなかった。……残念だよ」
中村真央の肩に、そっと手を置くと、真央は、大粒の涙をそっと拭う。
「佐久間くんが、事件現場にいるってことは、刑事さん……なの?」
(………)
少し躊躇ったが、佐久間は、刑事としての職務を果たすことにした。
「警視庁捜査一課の佐久間です。本来は、静岡県警察本部の事件ですが、別件でも、あなたのご主人に、伺いたかったことがあり、東京から参りました。どうか、奥さまにも、事情を伺いたい」
(------!)
中村真央もまた、複雑な心境で、真顔になった。
「あの人、死んだのよ?……何を話せば良いの?」
(………)
「こんな時に、すまないと重々承知している。でも、刑事として、私情は挟めない。知っている範囲で、事情を聞きたい」
(………)
佐久間の眼差しに、真央は、観念した様子で頷いた。
「……じゃあ、向こうの部屋で、二人きりでなら」
佐久間は、氏原たちと、目で相打ちすると、その場から席を外した。
「こっちよ」
真央は、自宅裏の工場に入ると、従業員の休憩部屋に案内した。事件の関係で、いつもなら大勢がいるであろう、この休憩部屋は、静寂に包まれている。
「ここなら、気兼ねなく話が出来るわ。緑茶で良い?」
「ああ、すまないね」
(……この香りは?)
中村真央が、煎れた香りで、佐久間の表情が緩む。
「……これは、川根茶じゃないか、懐かしいな。…しかも、百グラム、五千円の希天だ。よく手に入ったね」
「あなたの舌は、冴えているわね。中々、銘柄まで当てる人は少ないわよ」
「そりゃあ、元静岡県民だし、お茶ばかり飲んでいたからね。両親は、この銘柄をこよなく愛していたからね、忘れないよ」
佐久間は、懐かしそうに表情を緩ませたが、黙り込んだ。その様子に、真央はクビを傾げる。
「どうしたの?」
「…このまま、世間話で終われば、どんなに幸せかと思ってね。本業を、忘れるところだったよ」
川根茶を、くいっと、胃の中へ流し込んだ佐久間は、本題に入ることにした。
「実は、警視庁捜査一課として、ある犯罪を追っているんだ。その中で、中村光利の会社が取引したメールが、ある被害者から見つかったね。この会社は、医療品を手掛けていたよね?」
真央は、少し考えてから、
「…ええ。確かに、医療品を製造していることは事実よ。あの人が、何か?」
「言いにくい話だが、隠していても仕方ないので、率直に話そう。実は、サリンの製造過程で抽出される成分と、サリン治療薬として使用される成分の両方を、この会社が販売した履歴が見つかった。しかも、取引した相手は、何者かに殺された」
(------!)
真央は、愕然とした。
「まさか、中村光利が、サリンを?こんな田舎の工場で?……冗談でしょ?」
(………)
「サリンは、高度な知識と抽出施設、それに管理が必要だ。中村光利一人で出来るとは、到底思えないんだ。疑いたくはないが、真央ちゃんは、関わっていないよな?」
(------!)
真央は、顔を真っ赤にして、語気を強める。
「も、もちろん。サリンなんて、恐ろしいもの管理なんかしないわ。従業員も、何も知らないと思う。あの人が、こっそりやっていたとしか思えないわ」
真央の挙動が乱れ、動揺の色を隠せない。
(………)
「……そうか。念のため、この工場を少しだけ、捜査させて貰うよ。私としても、早く、中村光利の疑惑を解きたいんだ」
「え、ええ。そうしてちょうだい。もちろん、色々見てくれて、構わないわ。あの人も、疑われて可哀想だもの」
「真央ちゃん、中村光利は、どのように殺されたんだ?実は、訃報を聞いて飛んできたから、事情がまだ把握しきれていないんだ」
(………)
真央は、川根茶を、佐久間にすすめながら、ゆっくりとした口調で、話始める。
「昨日は、工場メンテナンスで、お休みにしていたから、私は、引佐町に行っていたの。薬の買い足しと、営業でね。中村光利とは、昼食を一緒に食べたきり。ついつい、お得意様とお茶していたら、帰りが遅くなって」
佐久間は、お茶を飲みながら、耳を傾ける。
「あの人にラインしても、既読にならなかったから、『どうしたのかな?』と思ったけれど、そんなに気にしなかった。自宅に戻ると、自宅はおろか、工場の明かりも点いてなかったから、電気をつけて、工場を見回ったわ。そうしたら、中村光利が、血を流して倒れていたの。怖くなって、直ぐに110番したって訳。これが、一部始終よ」
「そのことを、機動捜査隊に話したかい?」
「ええ、キチンとね。でも、警察って、血も涙もないのね。…佐久間くんに、文句を言うのも変だけれど」
佐久間は、申し訳なさそうに、頭を下げた。
「…言いたいことは、痛いほど分かるよ。被害者であるのに、現場不在証明や、生命保険のこととか、聞かれたのだろう?」
「その通りよ。流石に、心が折れてしまうわ」
「まずは、遺族を労るべき。これが大前提なんだが、自宅で亡くなると、自然死なのか、病死なのか、事件なのか、初動で見極めないといけないから、どうしても、刑事っていうのは、配偶者や身内に、疑惑の目を向けてしまう。今回の場合は、配偶者の次に、工場従業員、そして、取引先の順に捜査していく。殺人事件なのだから、避けるわけにもいかない。同じ、組織を庇う訳ではないが、私でも同じことをした。それが、警察の職務なんだ。……申し訳ない」
「べっ、別に、佐久間くんが謝んなくても良いわよ。悪いのは、横柄な態度で、接した刑事なんだから」
(………)
「横柄な態度をした捜査員には、私からも教育しておくよ。犯人は、静岡県警察本部が全力を挙げて、追うだろう。安心して、静岡県警察本部に任せるんだ。…少しだけ、工場を見させて貰うよ」
「ええ、どうぞ」
佐久間は、氏原たちと合流して、工場を検証していく。どこの工場でも見かける、ベルトコンベアーと油圧ジャッキらしきものが多い。危険物を取り扱うような、仕切られた空間もなく、清潔に保たれているのが、よく分かる。
(本当に、この工場でサリンを?)
ごく普通の製造ラインにしか、素人目には見えない。
真央曰く、風邪薬をメインに製造しているらしい。氏原も、思わず首を傾げ、耳打ちした。
「佐久間、何か違うぞ。サリンの『サ』すら、この工場からは出てこない。工場の捜査は、時間の無駄だ」
「…仕方あるまい。それよりも、ちょっと良いか?外で、少し話したいことがある。真央ちゃん、工場の状況はよく分かったので、今日はこの辺で、お暇するよ。また、顔を出す。中村光利のところに行ってあげてくれ」
「ええ、分かったわ。…またね」
佐久間たちは、捜索を中断し、その場を後にした。
~ 中村光利の自宅から、少し離れた場所 ~
規制線から出た佐久間たちは、自宅から少し離れた場所で、意見交換をする。この工場に、何かヒントがあるかもしれないと期待していただけに、疲労感を覚える。
(別の隠し工場か、プラントがあるのか?…いや、そこまで大きな企業ではなかったはずだ。となると、根本的に、何か見落としがあるのかもしれないな)
「警部。私は、中村真央は、事件関係者だと思いました。きな臭いものを感じたので」
(………)
「そうだね。山さんの言うとおり、中村真央は、何かを隠している。二人きりで話した時に、サリンの販売に関わっているかもと臭わせたら、『あの人が、こっそりやっていたとしか思えないわ』と咄嗟に答えたんだ。普通なら、『あの人は、そんなことしない』とか、『絶対に、そんなデタラメ信じない』と答えるはずだ。『こっそりやっていた』は、サリンのことを知っているからこそ、出てきた発言であると思う。私の勘だが、中村光利の他に、男がいるのかもしれないぞ。愛人と結託して、中村光利を殺した。もしかすると、中村真央は、現場不在証明を作るために、事件当日、営業回りして、得意先で時間を潰した。工場が休みだったから、その間に、愛人が忍び込んで、中村光利を殺した気がする。……それにしても、殻に閉じこもる、妙な違和感を覚えたな。中村真央の真意は、分からないがね」
「警部、秋山警部には?」
「ああ、後で静岡県警察本部に寄って、話をしてみよう。新情報も出てくるかもしれないしな。あとは、司法解剖の結果を待ってからだ」
~ 同日深夜、遺体安置室 ~
「佐久間警部、こちらでしたか」
秋山警部が、遺体安置室に立ち寄ると、佐久間が、中村光利の手を握っている。
「静岡県警察本部に行こうと思いましたが、現場検証が長引いていると、お聞きしましたので、こちらを優先しました」
「中村光利ですか。……可哀想に」
「昔から、とても良い奴でした。人の悪口は言わないし、サッカーが得意でね。大学時代は、子どもたちにサッカーを教えていたらしいです」
「綺麗な奥さんが、とても不憫です。でも、あれだけの器量だ。きっと、再婚できますよ」
(………)
佐久間は、声のトーンを落とし、中村光利に聞こえないよう、秋山に耳打ちする。
「…秋山警部。中村真央を、中村光利殺害の重要参考人として、捜査を進めてください」
(------!)
「どういうことですか?事情を教えてください」
「中村真央に、探りを入れてみましたが、裏に男の影が見えました。中々、ボロを出さないでしょうが、愛人と結託して、中村光利を殺害したのかもしれません」
「何か、証拠があると?……あんなに、綺麗な奥さんが…」
「器量は、関係ありません。私は、熊本県と岡山県で発生した、二つの殺人事件を捜索しています。この事件は、サリンによる毒殺です。その過程で、中村光利が、事件関係者として、浮上したんです」
秋山は、合点がいったようだ。
「それで、静岡県に来たという訳なんですね。しかし、その事件と、中村真央が何の関係が?」
「まだ、仮説の段階ですが、サリンの話をした時、明らかに、中村真央の挙動に違和感がありました。そして、『中村光利が、こっそりやったとしか思えない』と、故人を蔑ろにした。この時に、『個人の犯行ではなく、協力者がいる』と判断しました」
(………)
「捜査本部に戻り、中村真央の背後関係を洗いましょう。確認結果は、率先して提供しますよ」
「よろしく頼みます、いつもすまないね」
「こちらこそ、佐久間警部には、どんなに助けられたことか。静岡県警察本部が面子を保てたのも、あなたのおかげですよ」
秋山と入れ替わりで、山川たちが声を掛ける。
「…警部。あらかた、静岡県警察本部の科捜研から、情報を得られました。そろそろ、宿に戻りますか?」
(………)
中村光利を見つめる、佐久間の様子から、氏原が、山川に囁く。
「そっとしておこう」
「佐久間、先に帰っている。また後でな」
「…悪いな」
氏原たちが、静かに去っていき、誰もいなくなった遺体安置室で、佐久間は、胸元からワンカップを取り出し、指につけた酒を、中村光利の口元に、そっと添えた。
「…光利、悔しかったな。結婚式にも出られなくて、本当にすまなかった。泰成から聞いたよ、式のギリギリまで、私を探してくれたんだってな。…覚えているか?昔、二人で免許証を取って、毎晩のように、天竜市の山奥まで、競争したよな?光利の自宅前で、タイヤがはまってしまったり、佐久間家で深夜に、ラーメン食べながら、ファミコンで遊んだよな?」
涙が止まらない。
「高一の夏、『ナンパするなら、タバコでも吸って、少しでも見栄を張ろうぜ!』って、買ってはみたものの、やっぱり怖いから、ニコチンとタールの量が少ない、タバコから吸ったよな?銘柄は確か、…マイルドセブンのスーパーライトだった。街中の通りを、何往復もして、ドキドキしながら、交代で声を掛けたよな?何回か成功して、近くの喫茶店で、お茶を奢るだけだったけれど、それだけで幸せだった。名前も、ミツとかトオルとか、偽名を使ってさ」
思い出が、次々に溢れ出す。
「カラオケも、毎日のように行ったよな?光利は、当時の流行曲を歌ってさ。歌、うまかったよ。…いつか、光利に聞こうと思っていたんだが、高校の卒業式が終わったあと、別れた彼女と顔を合わせるのが嫌で、『その場から逃げ出したい』と思った私に気を使って、一緒に、ささっと帰ってくれたよな?…本当は、クラスの皆と、思い出の写真を撮ったりしたかったんじゃないか?……今でも、その事を後悔しているんだ。大学で別々になっても、帰郷すると、光利とだけは会っていたな。社会人になってからは、自然と、疎遠になってしまったが、唯一無二の友人だったよ」
止めどなく溢れる涙は、なおも続く。
「…光利、光利との思い出が尽きてしまう。光利が灰となって、もうすぐ天に帰るまで、私は、光利に何をしてやれる?真央の不貞を暴くのが、供養になるのか?それとも、光利を殺した犯人を挙げれば、供養になるのか?…どうか、潔白なまま、天に帰って欲しい。そして、天国から、成り行きを見届けてくれ。…これが、私と光利の、二人だけの約束だ」
佐久間は、翌朝まで、二人きり、最期の時を過ごしたのであった。