別れ
こんにちは、誄歌です。
午前8時15分現在でもう眠い。。。。
……Σ(゜Д゜〃)。
いけないいけない。寝落ちする前に……V(本編)振りをしなくては……
ということで、名前のない英雄、『別れ』を、どうぞ( ゜д゜)ノ
吸血鬼が走り去った方ではない道を進んだ。
すると、死体があった。
どれもまだ微妙に温かく、少し前までは生きていたのだろうと、容易に予想がつく。
めいと名付けた少女に、「護衛の人?」と聞くと、「違う」と答えられた。
彼女曰く、護衛の黒服は出会ったあの場所で外へ投げ出されたそうだ。
「でも、私はこの方角から逃げてないから。わからない。私の他にいた被験者の護衛の人かも」
「なるほど。普通の人……だよな、この人たち」
自分の護衛……と、先生をカウントして良いものか。考えてから紫陽は疑問に思う。
「あれ、男には女性の護衛で。女には男性の護衛がつく決まりなのか?」
「普通は男。黒いスーツを着た人が護衛役です。最も、あなたの場合はそうじゃなかったのかもしれませんが」
「知ったような口振りだな」
「えぇ、知ってますよ。あなたのことなら」
「ほー?」
「とはいえ、お会いするのは初めてなので、先ほどまで分かりませんでしたが。英雄の紫陽さん」
と、疑問に答えてくれためいは目を細めて、下手な作り笑いを浮かべる。
どういった理由なのかはわからないが、どこもかしこも俺のことを知っているらしい。ずいぶんな人気ぶりなことだ。と、頭が痒くなる。
「でも、俺には力も……覚悟がないからな。英雄だなんて呼ばれるのは歯痒い限りだよ」
死体を避けて廊下を進む。
五分ほど歩いたところで、少し騒がしい部屋を見つけた。
銃声と斬撃もはや聞きなれてしまった音ではあるが、その中で唯一聞きなれない声で、誰かが愉快そうに笑う。
『あははははは!弱い、弱いねぇ人間!君もそう思うだろう?なぁシ──』
「その名で、呼ぶな!!」
ぎんっ!と大きな音が鳴り響いた。
「今の、声は!?」
声を聞いて反射的になかを見てしまう。
そこには、長いピンクの髪に赤い瞳。独特な服を着ている女性。
先生が吸血鬼と戦っていた。
敵は複数居るらしく、たぶん先生の味方だと思われる人が銃で応戦していたが、動きの速い吸血鬼には効果的とは思えない。
現に、先生側は死体の山で、吸血鬼側はまだまだ元気そうに人間を狩っている。
「どうしたの?拳を震わせて」
「……あ、なん、で、だろ。わかんないけど、たぶんこれは……!」
今この場で、すぐにでも飛び出して先生を救ってあげたいのに。
それが出来ない自分の弱さを、腑抜けさを呪った無意識の現れだと、理解するのは簡単だった。
ポケットの中にある、緑色の液体。
すぐそこに力はあるが、手を出せない自分。
「くっそ、それでも、なにか力に!」
意を決して立ち上がる。
するとすぐに吸血鬼からの視線が集まったのが分かる。
「あん?なんでここに神付がいる?」
「ほんとだぁ……ねぇ、味見しても良い?」
「だめだ、捕らえてこちらの領土に連れていくか、ここで殺すかのどちらかだ。血を吸えばお前も殺されるかもしれないぞ」
と、すぐに目の前に飛び出してきた若そうな吸血鬼二人が、呑気に会話を始める。明らかに警戒していなかった。すでに自分の状態は伝わりきっていると、考えていいと言うことだ。
「っ、貴方どうして、……紫陽から、離れろ!」
と、先生が戦っていた吸血鬼を無視してこちらへ走ってきているのが見えた。
「あー?もう、いいや。神付見付かったし。お前にも飽きたし」
刀身の細い、剣を肩に乗せた細身の吸血鬼が興味なさげに先生を見た。
「殺そう」
瞬きよりも速く、鼓膜が言葉を理解するよりも速く吸血鬼は動いた。
「させない──ッ!」
短剣を構えて、前へ出ようした。
例え追い付けなくても、背中を斬ることはできるはずだと、踏み込んだ瞬間。
その刹那を左側から命を狩る音が聞こえた気がして、俺は左へ剣先を向ける。
すると剣の腹を突く衝撃が手に伝わり、間一髪のところで攻撃を防いだのだと、自覚する。
反動でよろけながらも、この攻撃の主を見る。
「おっと、殺意は殺してたと思ったんだけどな?どうしてわかった?」
「生憎、耳はいいんでね……(あっぶね!マジ危ない。人の心配してる余裕ねぇ!!)」
内心、ヒヤリとしながらも俺は先生を信じて目の前の敵と対峙した。
茶髪の吸血鬼は少しだけ興味深そうに「耳かぁ。音が先に聞こえるほど遅かったかなぁ」と、自分の腕を回している。
体格はむこうが上、リーチも、速さも、そして力も負けている。
そんな相手に、自分は勝てるのか?と、考えながらも左手で剣を構える。
「あれ?君、左利きだっけ?前は右手で構えてた気がした──」
「ごちゃごちゃうるせぇ!!」
吸血鬼が考える素振りで空いている手を顎に当て、上をみたところで斬りかかる。力と言う力を乗せた踏み込みで、全力の横凪を、描くつもりで、
「あはは、遅い遅い。なにこれ、ふざけてるの?もっと本気で──」
「……!!」
「──こいよ!!」
間合いを詰めると、がら空きになっていた脇腹へ蹴りが入る。
「……かはぁ……っはっ」
同時に、吹き飛んだ先にあった入り口の角に左の脇腹を打ち付ける。
「くはっ、あぁ……いてぇ……!」
これは確実に折れたとか、そういう次元の話じゃなく、刺さった。そう思わせるほどに息を吸うのがしんどくて、視界が歪む。
「あぁ~、これは折れちゃってますね。というか、確実にいったでしょ、紫陽さん」
「めい……!なんで、出てきた!!」
廊下側に隠れていたはずのめいが、ひょいと顔を出す。
「おやおや?まだ居たのかい?てっきり逃げたと思ってたけど、君も戦うつもり?」
「いやいや、まさか。私じゃ貴方には敵いませんよ。なので、殺されないために出てきました」
そう言ってあっさりめいは降参の意を示す、両腕を上げた状態で全身を影から出す。
最も、その行動が茶髪の吸血鬼に正しく意味が伝わるかはわからない。
「……素直に出てきたからって殺さないとは限らないけど?」
と、吸血鬼は言う。
当たり前だ。
吸血鬼は人間を。彼らの永遠に渇き続ける喉を、潤すことのできる唯一の血をもつ生物としかみていない。と、書いてある書物を読んだことがあった。
そして、人間は腐るほどいる。だから、彼らは一人の人間に固執しない。それに敵側の人間が、殺されたくないから。なんて、理由で出てきても、躊躇うことなく殺すだろう。
替えはいくらでもいるからだ。
「いやぁ、私。自慢じゃないけど健康的な食事を摂っているので、血は美味しいと思うんですよ。どうです?」
「水筒になると?その成りで?僕に血を吸われたら、あっという間に死ぬと思うけど」
「そこは貴方がなんとか我慢して生かしてください」
「嫌だと言ったら?」
「そのときは、ここで死にます。貴方には勝てませんから。でも、私はこんなところでは死にたくないので、今交渉しています。私は、…………生きたいのです」
「……ふむ」
吸血鬼が考え込んだところで静寂が訪れた。
実際には周りでは戦闘が行われているため、静寂とは真逆の騒音だらけのはずだが、今自分の周りを包み込んでいるのは、吸血鬼からめいへ注がれる冷たい視線がもたらす、得体の知れない恐怖だ。
それによって周りの音は、耳へ届いてこない。
「旨そうな小娘だ、ここで食ってやる!!!」
が、茶髪の吸血鬼の後ろから別の吸血鬼が、めいを目掛けて飛び出してくる。そこで時が再度流れ始めた。音が聞こえる。
鋭く剥き出された爪が、めいの腕に刺さる。
「くっ、そが……」
肋を抑えながら、必死に右腕を伸ばすが横にいるめいには届かない。
だらしなく涎が滴る牙が、めいの白い首筋へたてられる。
茶髪の吸血鬼は、ただその光景をつまらなさそうにみていた。
その視線が一瞬、俺をみる。
「助けてみろよ、ヒーローなんだろ?人間の」と、含みのある眼で、じっと、見つめてくる。
が、俺は腕を上げるために使う筋肉の動きが、傷に障り痛みで目を閉じてしまう。
「うぅ…ぐっ……!」
次に目を開いたときにはあの吸血鬼は居ないかった。
「どこへ─!」
目を動かし、姿を探すよりも先に血飛沫が視界を汚した。
飛沫する赤黒い血。
方向はめいの方からで。
冷や汗が全身から溢れる。
「貴様、裏切るのか……!?」
しかし、苦しんでいる声はめいのものではなかった。
「あはは。まさか、君が僕の所有物に手を出そうとしたからだよ。雑魚の癖にさ」
「ぐはっ!?」
「死んじゃえ、良かったね。君の最後は、このシューベルト・クローズ・ベール。僕が見届けた」
どうにか上体を起こした時には、めいに襲いかかっていた吸血鬼は灰になって消えていた。
シューベルト。と、名乗った吸血鬼の手には今殺したであろう同胞の心臓らしき消し炭が握られている。
「やぁ、神付くん。君はこの子に救われた。感謝するといい」
「ということは、私は生かされる?」
めいの頬には珍しく、汗が浮かんでいる。
彼女も流石に死を覚悟したのだろうか。
少しほっとしたような表情で、めいはシューベルトを見ていた。
「あはは、水筒がなにを言ってるのさ……はむ」
だが、次の瞬間シューベルトがめいの首に噛みつく。
「あっ……っ!……んっ………………………ぁ……………」
ビクンっと小さく痙攣を繰り返して、めいは顔を赤らめていく。
頬はどんどん紅潮していくのに、全身の肌は血の気を引いた白色が目立っていく。
「ぷは。たしかに、自信ありげなだけあって美味しいね、君の血は。ここで飲み干すのはもったいないくらいに」
「………………」
「あれ、殺しちゃった?」
と、言いつつもシューベルトはめいを支える手を離さない。
「…なんだか………身体に、ちから……力が。入らなくて…………これは…?」
「あー、なんだっけ。ほら、人間がよくやってる献血でも、『気持ちいい』っていう人いるでしょ?それと同じで僕たちに血を抜かれると、『気持ちいい』らしいよ?なんでも、人間の脳が死を感じると快楽物質を出して、苦痛から逃れようとするんだとか──」
へらへらとシューベルトは得意気に話す。
お前にはわからないだろうけど。と、ガンを飛ばしながら話す。
対してめいは「ケンケツとは?」とぎこちなく呟いて、ゆっくりと息をしていた。
そんな彼女の首筋の、血を吸われた痕の二つの小さな穴から別々の螺旋状の模様が伸びて、繋がり、燃え上がるように色が濃くなる。
「っ、ぅ……」
それが少し痛かったのか、めいは模様が消えると同時に意識を失った。
「あぁ、これ?彼女が僕の支配下になった証だよ、便利だよね、僕たちの牙。そう言う契約を意味する概念があるんだから」
彼は血を吸ったからなのか、元々お喋りな性格なのか。
それとも、両方が原因なのか上機嫌に指を振って説明を続ける。
一方でめいは疲れたような顔で、虚空を見つめていた。
「ふぅーさてさて」
そう言うとシューベルトは少し考えたような表情で、フリーな腕を上に上げ、
「アーシュベルー!神付間違って殺しちゃったから帰ろー?ほら、みんなてっしゅー!」
と、急に叫ぶ。
「なっ、お前なにを……?」
「だから言ったろ?この子に感謝しろよって。正直、今の君に興味なんてないし。価値もない……けど、今後もしかしたら価値が生まれるかもだからねぇ。今回は見逃してやるよ、めいに免じて」
「…………」
「おい人間、ここは笑うところだろ?つれないなぁ」
「いや、笑えっ、ねぇよ……」
背中を壁に預け、シューベルトを視界に収めた。
茶色の髪。鋭い牙。腰に帯刀している西洋の長物。
そして、脇に抱えられているめい。
考える。
今動けばこいつは殺せるだろうかと。
先ほどのように、無意識にでも身体が動けば、可能性はなくはないだろう。
と、考えているうちに肺に刺さっていた肋も、肺に空いた穴も、修復が完了していた。
指先を動かして、短剣の柄に触れる。すぐに握られる範囲には武器があった。
「───ッ!」
左手を少し伸ばして、柄を握る。左足に力をいれて心臓を目掛けて腕を突きだそうとした瞬間。シューベルトはやはり、冷めた目つきで、
「……やめとけ。僕を殺せても、他の吸血鬼に君が殺される。この子が殺される。彼女は生きたいと言った。でも、君が僕を殺せばその願いは果たせなくなる。その責任とれるの?」
と、小さく呟く。
その言葉に俺は止まる。
たしかに今ならシューベルトだけなら殺せたかもしれない。
だが、もし他の吸血鬼どもが一斉に敵討ちにきたらどうなる?
自力で動けないめいを守りながら、ここから出ることは可能だろうか。
無理だ。不可能だ。
力を得るための、覚悟がない自分には、出来ない。
「ちくしょう……!」
静かに腕を降ろして、剣を捨てる。
「正しい判断をしてもらえて嬉しいよ僕は」
そう、シューベルトが残した言葉が、俺の心臓を締め付けた。
お読みいただきありがとうございます。
今回はどちらかというと勢い任せな殴り書きな文です。
苦手な方はごめんなさい……
あとがきなら時効かなと思い、あえていいますが短いながらも喘ぎらしきものを今回は挿しました。
個人的には、今回の話ではもう、めいとシューベルトは出てこないので、たくさん喋らせよーとか、安易な考えで書いた(つもりはなかったのですが)訳ではなかったんですけど、結果的にすごい語らせてしまいました。
ある意味深夜テンションかな、これはもしかしたら。
長くなりました。
それでは、次の投稿でm(_ _)m